【No.003】公園で異世界騎士を拾った(ブレード・グランドゥール/東海林愛梨)

【メインCP:男5. ブレード・グランドゥール、女4. 東海林しょうじ 愛梨あいり

【サブキャラクター:女9. 神崎かんざき こころ】

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「――野生動物を殺して、報酬を貰う仕事はあるか?」


 ヤバい男と知り合ってしまった。

 私はなんでこう、変なのとばっかり知り合うんだろう。


  ◆


 大学からの帰り道でのことだった。

 公園に差し掛かったところで、何やら黒字に金刺繍の騎士っぽい装束をした外国人を見かけた。コスプレイヤーかなと思ったのだんだけど、何やら怪訝そうな顔で周囲を見ているから、もしかしたら迷子なのかもしれないと思って声をかけてみたのだ。


「こんにちは。あ、日本語分かりますか?」

「ニホンゴ……いや、これは翻訳の奇跡のようだな。初めて体験するが、少々気持ちの悪い感覚だ」

「あの、聞いてます? 大丈夫ですか?」


 ブツブツと呟く騎士風外国人は、私の言葉にバッと振り向く。


「失礼した、お嬢さん。俺はブレード・グランドゥール、十八歳。ガルランディア王国の王国騎士団に所属し、先日見習いを卒業して騎士になった者だ。この場所はガルランディアからかなり離れた場所……もしかすると、世界すら違う可能性があると思うのだが」

「あー……うん。たぶん、日本っていう国名を知らないのなら、貴方は異世界から来たんじゃないかと思うよ。それか、外国から来て記憶が混乱しているのか。どっちかだろうね」


 うん、なんというか、信じがたい状況ではあるんだけど。


 私がある程度すんなりとこの事態を受け入れているのには理由がある。

 つい先日、大学で私が親しくしている友達「神崎こころ」が実はアンドロイドであるということを知ったばかりなのだ。信じられないでいる私の前で、彼女がポロッと右腕を外してみせた。あれには驚愕したよね。それによって、私はこれまで信じていた世界がガラガラと崩れ去ってしまい、現在は頑張って常識を再構築しているところなのである。


 つまりね。私が知らないだけで、異世界から騎士が迷い込んでくるくらい普通だって可能性が……いやぁ、普通なのかな。やっぱりにわかには信じがたいけど。でも嘘を言ってる風には見えないんだよなぁ。うーん、どうにも悩ましい。


「えっと……私は東海林しょうじ 愛梨あいり、二十歳の大学生だよ。とりあえず、ブレードさんは迷子ってことでいいんだよね?」

「そうなる。おそらくポメリオの歪みがショドバによってハックイーンしてしまったため、ガガルのボンジョビがオレナンカドーセになったのだろうが」

「待って、何も理解できない。それって異世界語?」


 私がそう問いかけると、ブレードさんは顎に手をおいて、「概念が存在しないものは翻訳できないのか」と呟いた。いや、ボンジョビだけ翻訳できてる可能性はワンチャンあるかもしれないけど。


「何にせよ、元の世界に帰るのはすぐには無理か……とりあえず、直近で暮らしていくには金を稼ぐ必要がある。アイリ、ちょっと教えてほしいのだが」

「うん。どうしたの?」

「ポニャラホゲ……なんと、この世界にポニャラホゲは存在していないのか……だとしたら」


 ブレードさんはそうして、私をまっすぐに見る。


「――野生動物を殺して、報酬を貰う仕事はあるか?」


 ヤバい男と知り合ってしまった。

 戦慄しながら、「それは絶対ノー!」と言って、とりあえず、彼が野良犬や野良猫に危害を加えないよう教育しようと決意した。


  ◆


 私はブレードにコンビニおにぎりを食べさせながら、この世界のことを説明する。どうやら彼の暮らしている世界には「マッホホーイ」という魔法みたいな不思議な力があったらしいんだけど、こちらにはそういった類のものが存在しないといったら驚愕していた。


「マッホホーイを使えないなら、ポニャラホゲからどうやって身を守るのだ」

「いや、だから。そもそもポニャラホゲが存在しないんだってば」

「そうか……だからマッホホーイも不要だと」


 ポニャラホゲっていうのはどうやら魔物みたいな感じで、人間はマッホホーイを駆使してこのポニャラホゲから身を守っていたらしい。私もちょっとだけ異世界語が分かってきたぞぉ! やっほほーい!


 さて、そんな風にわりと楽しく過ごしていたんだけど……遠くの方から、私を見つけて駆け寄ってくる男二人組を見つけた。ゲッ、最悪。


「おう、愛梨ちゃんじゃん」

「名前で呼ばないでください」

「冷たいじゃーん。俺たちとも遊ぼうぜ」


 こいつらは……私の友達、神崎こころと一回寝たくらいでモテ男面をし始めたやつらで、その友人の私のことも軽く見て声をかけてくるんだよね。


「こんな変なガイジンと遊ぶよりさぁ――」


 そうして、チャラ男の一人が私の肩に腕を回そうとした時だった。


 突然、地面に押さえつけられるチャラ男二人。

 ブレードはどうやっているのか、片腕で一人ずつ拘束しているらしい。


「婦女子に無体を働く輩など、斬り刻んでポニャラホゲの餌にしてやりたいところだが……俺が剣を持っていなくて良かったな、クズども。選ばせてやる、両手両足、どこから失いたい?」


 すると、チャラ男二人は半泣きで「やめてくださぁい」「もう近づきませぇん」「ふぇぇぇぇ」と情けない声を出し始めた。が、ブレードはやめる気配がない。本当に両手両足をバキバキに折ってしまいそうだ。


「ブレード、そこまで」

「アイリ……?」

「どんな小悪党でも、この国ではやりすぎれば過剰防衛で罰せられる。クズどものせいで罰を受けるブレードは見たくないよ」


 そう言うと、ブレードはしぶしぶといった様子で二人を解放する。

 私は半泣きのチャラ男どもへ言い放った。


「さっさと目の前から消えて」

「ひっ」


 私がそう言うやいなや、チャラ男どもは全力で逃げ出していく。へっへん、ざまぁみろ。まぁ、私の功績では全然ないけどな!


「ありがとね、ブレード。助かったよ」

「ふん、男の風上にも置けん奴らだ」


 ふふふ。異世界の騎士は硬派だなぁ。


「この後だけど。とりあえず、ウチにおいでよ」

「良いのか? 迷惑では……」

「しばらくご飯くらいは食べさせてあげる」


 そうして、私は公園で拾った異世界騎士を家に連れ帰ることになった。

 そして「堅物っぽい彼をどうにかして落とせないか」なんて、私は頭の片隅で考え始めていた。守ってくれた彼の姿にちょっとキュンとしちゃったんだよね。我ながらチョロい女だとは思うけどさぁ。



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【本文の文字数:2,484字】

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