第46話 川中島の戦い(2)
火縄銃の猛攻により犀川中央で立ち往生していた武田の第二陣は、半数ほどが火縄銃で撃たれ倒れたところで逃げ出し始めた。
「敵が背中を見せたぞ。撃て撃て、容赦するな」
長尾の陣中では、柿崎景家の指示がとんでいる。
敵である長尾勢に背中を見せて逃げ出す武田の足軽たちに、容赦なく火縄銃が撃ち込まれていき、戦場に火薬の匂いと血の匂いが充満していく。
それを見た長尾景虎が、馬上で刀を抜き高々と掲げると火縄銃の攻撃が止まった。
「我は毘沙門天・長尾景虎。朝廷より我が敵は逆臣として討伐して良いとの綸旨を得ている。我が敵武田の軍勢は逆臣なり、残らず討伐せよ!行け!」
長尾景虎が手にした刀を犀川を渡った先、武田のいる川中島へ向ける。
長尾景虎の声に応えるかのように、長尾の軍勢から巨大な龍が吠えるかのような鬨の声が上がり、一際大きな鬨の声は川中島に鳴り響いていく。
長槍を構えた長槍隊が一斉に犀川を渡って武田の後続へ突撃していった。
第一陣が壊滅して、第二陣が半壊状態となって第二陣の足軽が逃げ出している。
逃げ出した武田の第二陣と、前に進もうとしていた武田第三陣がぶつかり、大混乱となっていた。
想定外の事態に武田の軍勢はまともな戦いが出来ない状態となった。
武田の軍勢の大混乱状況から、早々に見切りをつけ逃げ出す足軽達が見え始める。
そんなところに襲いかかる長尾の長槍隊が、一際長い長槍を高々と掲げて槍先を敵に叩きつけた。
長槍に叩きのめされ脳震盪を起こして倒れるものが続失。
この時代の長槍はまず最初に叩きつける。
甲冑の上から槍を叩きつけると、それだけで当たりどころが悪ければ死んでしまうし、動けなくなってしまうことは珍しくない。
長槍隊は敵を叩きのめした後、敵を突き倒して突き進んでいく。
長尾の長槍隊が暴れる後方からは、長尾の後続部隊が次々に犀川を渡り、武田の軍勢に襲いかかっていた。
「朝信。真田に合図を送れ」
斎藤朝信に合図を指示する。
「はっ、直ちに」
すぐさま法螺貝の音が戦場に鳴り渡っていく。
すると突如武田勢後方で戦いが始まった。
長尾景虎の指示で真田幸綱率いる5千の兵は、事前に大きく迂回して武田勢の後方に回っていたのだ。
法螺貝の音を合図に真田幸綱は武田本陣へと襲いかかった。
「景虎様。真田幸綱殿が率いる別動隊が武田の本陣に攻めかかりました」
戸隠の乗堯からすぐさま報告が入る。
「良し。朝信。乱れ龍の旗印を掲げよ」
白地の布に漆黒の乱れ龍の文字が書かれた大きな旗印が太鼓の音と共に、長尾景虎の本陣に高々と掲げられた。
乱れ龍の旗印は、越後勢による総攻撃の合図。
越後の者達は、太鼓の音と共に風に靡く乱れ龍の旗印が掲げられたことをその目で確認する。
「皆の者、我に続け!」
長尾景虎は白馬を操り、犀川を水飛沫を上げなら駆けていく。
長尾景虎の配下の武将・足軽達は、遅れてなるものかと全軍で景虎の後を追いかけ犀川を渡っていく。
「景虎様に遅れるな!行け行け、急げ、景虎様をお守りしろ」
斎藤朝信が大きな声で赤龍衆に指示を出していく。
景虎を先頭に次々に犀川を渡り武田晴信のいる本陣を目指して駆け抜けていく。
「退け退け、邪魔立てすれば斬り捨てるぞ」
景虎の気迫に押され逃げるように道を開けていく武田の足軽。
景虎は刀を右に左に振るい敵を斬り捨てて武田本陣を目指す。
武田の本陣は、真田幸綱の奇襲で大混乱となっており乱戦となっている。
馬を操り武田の陣中深く走らせながら、長尾景虎は武田晴信を探す。
「武田晴信はどこだ!この長尾景虎・・毘沙門天がその首貰い受ける。どこだ。出てこい」
景虎から少し離れたところに武田晴信の旗印‘’風林火山‘’の旗が風に靡いているのが見えた。
「あそこか・・皆儂について参れ」
混乱状態の武田本陣の中を風林火山の旗印を目指して駆け行く。
そこに一際立派な甲冑を身につけた男がいた。
前世の川中島の戦いで、景虎が馬上から斬りつけると軍配で受け止めた男。
あの時よりやはり少し若く見える。
「我は越後守護代長尾景虎。武田晴信。その首貰い受けるぞ」
景虎が武田晴信に向かって馬を走らせると、斎藤朝信と柿崎景家達も景虎を守るために赤龍衆と共に景虎の左右に付き従う。
武田晴信の近習達が周辺を固め武田晴信を逃がそうとする。
長尾景虎の前に立ち塞がろうとする者達は、斎藤朝信と柿崎景家が斬り捨てていく。
長尾景虎は馬を操り武田晴信に刀を振り下ろす。
金属のぶつかる鈍い音がする。
武田晴信は、かろうじて自ら右手で握りしめていた鉄製の軍配で長尾景虎の斬撃を防ぐ。
そのまま駆けぬけ離れたところで馬の向きを変え再び斬りかかろうとしたが、長尾景虎の前に武田晴信の本陣の家来達が身を捨てて幾重にも立ち塞がる。
武田晴信は近習に伴われ馬に乗り逃げていく姿が見えていた。
「邪魔をするな!」
長尾景虎は左右に刀を振り下ろし、武田晴信へ向かうことを邪魔する者達を斬り捨てるが、武田の家臣達は必死で立ち塞がる。
斎藤朝信や柿崎景家らが長尾景虎の側で必死に戦い敵を斬り伏せていく。
「逃げるのか武田晴信。大将なら我と戦え」
長尾景虎の声にも武田晴信は振り返ることも無く馬を走らせ、後ろ姿はどんどん小さくなって行き、やがてもはや追いつけないほどの距離となり、しばらくするとその姿は見えなくなった。
長尾景虎にとっての‘’6度目‘’の川中島の戦いは、勝利となったが長き因縁の決着をつけることはできなかった。
悔しさを滲ませながら武田晴信の消えていった方向を睨む長尾景虎であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます