128 ヒー子研究所警備対応
誰かが表向きヒー子の研究所となっている建物を襲撃した。
しかも、いま話題のヴィランと同じ黒いマスクをしている。
「仲間なのでしょうかね?」
「仲間なのかなぁ?」
私も、そしてヒー子ものんびりと監視カメラの映像を眺めている。
あそこはサルーングループの資金で用意されたダミー研究所なので、荒らされようとも私たちの懐はまったく傷まない。
「彼らに狙われるような覚えは?」
「たくさんあるよ。いま研究しているのもそうだし、表に出ているのにしてもそうだし。覚醒者用の装備って、つまりは覚醒者を軍人にできる道具ってことでもあるし」
「なるほど」
私の知っているあのロボット、セラヒムだって、場合によっては兵器として活用できそうではある。
実際の戦場で人型ロボットは有用ではないなんて話を聞くけれど、あのセラヒムならばどうだろうか?
「では、彼らをどうしましょうか?」
「僕としては放っておいてもいいと思うけど、あっ、でも襲撃が失敗ってなると、クレアが狙われたりするかも」
「それはまずいですね」
クレアは『ゴッデス』の社長として動いているし、サルーングループの護衛は付いていない。
その代わりに私の仕掛けが守ってはいるのだが、あえてそのテストをしてみる必要もないか。
「私が直接聞きに行ってみましょう。この翻訳機は借りたままでも?」
「もちろん。通信機にもなっているから、なにかあったらそれに」
「わかりました」
「でも、あの、間に合うんですか?」
「ああ、手を下すのは私ではありませんから」
「え?」
「あそこに仕込んである警備システムです」
ダンジョンの罠には警報というものがある。
名前の通り、大きな音を出し、ダンジョンモンスターを呼び寄せるというものだ。
その音が襲撃者たちのいる空間に響くと同時に、その部屋は出入り不可能の密室へと変貌する。
そして出てくるのはゴーレムだ。
ダンジョンコンビニにいる、店員ゴーレムを除いたレンタルできるゴーレムは皆、一メートルほどの身長で三頭身の人型を基本としている。
が、いまここに現れたゴーレムは、球体関節を持つ八頭身の人型だった。
私としては、もっとも便利な手駒かは使い慣れたゴーレムたちだ。
ラスボスとしてダンジョンに君臨していた時、さまざまな隙をこのゴーレムたちで埋めた。
そのゴーレムという手段をダンジョンコンビニに限定されてしまうのは、やはりやり辛い。
私が出ていくダンジョン攻略そのものには使わなくとも、それ以外の場面ではもう少し使ってみてもいいだろうと、ヒー子やクレア、それ以外の人たちの防衛の為に仕掛けを施した。
それがこの球体関節人形型のゴーレムだ。
特徴のないことが特徴という球体関節ゴーレムの登場に、襲撃者たちは驚き、身構えた。
襲撃者は三人。
あの動画に登場した人物でないことは、反応の遅さですぐに判明した。
しかも、一人は体型から女性であることが判明している。
合計で二十体出現した球体関節ゴーレムは、一斉に襲撃者に襲いかかる。
「うわぁ、ひどい」
なすすべもなく圧倒された襲撃者を見て、ヒー子は乾いた感想を漏らすとドーナツを齧った。
疲れて情緒が失われてしまっている。
ヒー子に眠るように助言すると、私はダミー研究所へと向かった。
研究所に到着して、緊急閉鎖を潜り抜けて中に入る。
襲撃者たちは球体関節ゴーレムに押し潰されたままとなっていた。
球体関節ゴーレムは、その自由な可動域を利用して相手に絡みつき、重量によって行動の自由を奪っている。
私が与えた【重力操作(弱)】によって自重をある程度操作できるので、見た目以上に重くなることもできる。
「こんにちは、日本語は使えますか?」
呻いているので気絶はしていないようだ。
球体関節ゴーレムの山から顔だけを出した三人に話しかけてみた。
彼らは首を捻って私を見ようと努力するぐらいには元気が残っている。
「お前は、S級覚醒者の」
「ああ、日本人なのですか?」
「くっ!」
尋問の前に三人のマスクを剥いで顔を確認する。
日本人なのだろう。
少なくともアジア系の、日本人と思えるような顔立ちだ。
念の為に顔は私のスマホで撮影しておく。
「警察は呼びましたのでもうすぐ来るのですが、それまでにこちらで聞けることがあるなら聞こうかと。一体なんの目的で?」
「決まっている! 我ら覚醒者の社会を作るためだ!」
「私たちは覚醒したのよ。選ばれたのよ!」
「人間より上の存在となった僕たちが人間を管理する時代が来たんだ!」
「それはそれは」
ピロアーネ視点では『神々の世界ではダンジョン作りがブームだからこんな社会になった』のだけれど、そのことを知ったら彼らはどんな顔をするのか?
いや、きっと信じないのだろうけども。
「S級覚醒者の八瀬川次郎。お前はまだ知らないんだ。我らの宗主に会えば考えも変わる。どうだ? 手を組まないか?」
「申し訳ないですが、コソ泥の思想に付き合う気はありません」
「なんだと⁉︎」
「どれだけ崇高な使命があろうとも、テロリズムしか手段がない時点でたかが知れていると思いませんか?」
と言ってみたけれど、当たり前だが納得してもらえなかった。
聞く意味もないような文句だけれど、うっかりと重要ななにかを言ったりしないものかと耳を傾けていたのだが、結局彼らから得られる情報はないままパトカーの音が終わりを告げた。
彼らを【睡眠】で眠らせ、球体関節ゴーレムを片付ける。
駆けつけた警官たちに彼らを引き渡す。
【睡眠】は一時間で切れるということを念押しして、パトカーを見送った。
彼らの会話は翻訳機の通信機能を通して記録されているはずだから、私が聞き漏らした秘密があれば、ヒー子が見つけてくれるかも知れない。
「なんだか物騒な世の中になってきましたね」
そんなことを一人呟いてからタクシーを拾い、クレアに報告するメールを作成しながら『ゴッデス』の事務所に向かった。
まぁ、世間がどのように動こうと、私の身の回りに届かなければどうでもいいのですが。
それはそれとして、ヒー子の研究所に行っていたのは、とある物を受け取るためだ。
それは通信中継機。
吉祥寺ダンジョンのような、長く残っているダンジョンには通信中継機が設置されることがある。
普段は覚醒者たちがダンジョンの中での活動を動画配信サイトに上げるために利用されているが、本来は《暴走》や未知の事故、救助を求めるために使われるべく設置されている。
公的な目的なので、それらは国……D省の予算内で行われている。
なので、占有契約のような特殊な状況のダンジョンには通信中継機は設置されない。
どうしても配信などしたいのならば、自ら購入し、設置しなければならない。
どうせ買うのならもっと高性能なものが作れるよとヒー子が請け負ってくれたので、依頼し、今日、それを受け取ったのだ。
事務所に到着し、ちょうど帰っていたクレアにそれを渡す。
「それで、ヒー子は無事なの?」
アタッシュケースサイズの通信中継機を一瞥したが、まず聞いたのはそれだった。
「もちろん。あの場所が見つかるはずありませんから」
「そうよね。ありがとう」
「いえいえ」
「まったく、変なことになったものだわ」
「彼らに思い当たる節があったりは?」
ヒー子はないと言っていたけれど、クレアの方が社会へ向けているアンテナが広いだろうから、なにか知っているかもしれない。
「まさか、ないわ。ただ……」
「ただ?」
「予想なんだけど、もしかしたら、これから生産系の覚醒者が狙われることになるのかもって、ね」
「ああ、なんらかの技術を狙っているのか、なにかを作らせたい、とかですか?」
「そういうこと。生産系の覚醒者を狙うっていうのは、そういうことでしょう?」
「そうかもしれませんね。どうします?」
「隠しておくしかないでしょう。引きこもりが苦にならない性格なんだから、ちょうどいいでしょう」
「そうですね」
世界は広いのだ。
彼らはどこかで戦い、そしてどこかで決着をつけるのだろう。
そう思うことにして、この通信中継機を使う予定についての話に移った。
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