127 大きな動き
『は〜い、うるるんのDチューバーニュースの時間です。今回は海外のDチューバーのお話です。ちょっと物騒ですよ』
『話題になったのはアメリカのDチューバー、レックス・ホットさん。華麗な戦闘シーンで視聴者を魅了するS級覚醒者にして登録者五百万人の大物Dチューバーです』
『そんな彼が先日、謎のヴィランの襲撃に遭いました』
『事件は、彼が他のDチューバーと生配信の対談をしている時に起こりました。彼愛用のキャンピングカーを背景に、焚き火を挟んで相手のDチューバーと話をしているところに、マスクで顔を隠した謎の覚醒者による襲撃を受けたのです。該当のシーンは概要欄のリンクからどうぞ』
『レックス・ホットはスピード重視の戦いを得意としていましたが、なんと謎の襲撃者はレックスを速度で圧倒して勝利を収めたと言われています。詳細は分かりません。対談用の据え置きのカメラ映像では、戦いが始まると同時にレックスの姿がカメラから消え、背後にあったキャンピングカーが爆発。対談相手のDチューバーもカメラ外に吹き飛ばされていました』
『レックス・ホットは重傷を負ったそうですが、なんとか一命を取り留めたそうです』
『そしてこの襲撃者ですが、最後に倒れたカメラを拾い、メッセージを貼り付けました』
『内容は……資本主義も社会主義も王政も、全ての人の社会は変革する……だそうです』
『犯罪行為を積極的に行う覚醒者のことをヴィランと呼んでいますが、こういう思想的な主張をするヴィランはかなり珍しいですね。はたして、このヴィランの目的はなんなのか? うるるんが追いかけるのはDチューバーに関する話題ですので、できればこのヴィランもDチューバーデビューして、自身の主張を世界に配信してほしいですね。では本日のニュースはここまで、また次のニュースでお会いしましょう。ウルルンでした』
検索 #ヴィラン
『
『どうしたアメリカ? 世界の警察の名が泣くぞ?』
『別にレックスはそんな主張とかしてないだろ』
『でも、あのヴィランは強ぇな。動画見たけど、なにが起きたのかわからね←B級覚醒者』
『B級じゃあなぁ』
『いや、ていうかレックスのスピードは世界一とか言われてなかったか?』
『自分で言ってただけだな』
『でも、世界上位ではあったはず』
『それに勝てるってことはS級だろ?』
『S級のヴィランって怖いな』
『S級なんてどこの国でも最高待遇のはずだろうに、わざわざヴィランになるもんかね?』
『でも実際、レックスが敗れたわけで』
『だから怖いんだろ。世界最強の超人がテロリストになったってことだぞ』
『把握。なんか怖くなってきたぞ』
『いまさらw』
『日本は大丈夫だろうな』
『どうかな、日本ってあんまり覚醒者優遇って感じじゃないよな』
『税金面では優遇されてる』
『一兆円を失った女が税金未払いになってないからなw』
『そう、それw』
『でも、老人連中が覚醒者にうるさいんだよな』
『ダンジョンが登場した混乱期の恨み〜ってな』
『そしてどこぞの某与党は老人接待政治だからな』
『日本の少子化、早く改善して〜』
『お前が大家族を作ればええんやで』
『やめて!』
なんだか世間がやかましい。
「レックス・ホットというのは有名人なのですか?」
今日はヒー子の研究所(裏)の方に顔を出している。
(裏)となっているのには理由がある。
記録上、ヒー子の会社は日本に支社を作り、そこに研究所があることになっている。だが、安全上の理由でそこでは不安だというので、私が用意した場所が本物の研究所となっているからだ。
ヒー子は現在、サルーングループの大きなプロジェクトのキーマンとなってる。
そのプロジェクトの内容を私は知らないが、ヒー子が日本でクレアの側にいるためには、どうしても安全が保障されなければならないというので、私が手を貸した。
テストとして、実際にサルーングループの雇った部隊がヒー子を誘拐するために動いたのだが、彼らはヒー子を見つけることもできなかったし、情報を得るために私たちに色々と接触を図ったが、全て失敗に終わった。
そういう経緯を経てヒー子は日本にいる。
で、その研究所(裏)がどこにあるかというと、ダンジョンの中だ。
吉祥寺ダンジョンにあるダンジョンコンビニの奥の空間を拡張し、研究所としている。
「ええと、ジロウはもしかしてレックスを知らない?」
差し入れのドーナツを食べながら、ヒー子が首を傾げる。
「世間のことには疎いもので」
今日は翻訳機を使っている。
研究に没頭していたヒー子は食事をまともに摂っていなかったようで、慣れない日本語をあえて使う余裕もなさそうだった。
「レックスはアメリカのS級覚醒者でも上位の強さを持っている人だよ。彼がどうしたの?」
おや、私より世情に疎い人がいた。
「どうも、彼がヴィランの襲撃にあったそうで」
「え?」
「敗北して重傷だそうです」
「うわぁ、なんでそんなことになるかなぁ」
「ダンジョンに潜るより楽しいことを見つけたのではないですか?」
強さを手に入れたというのに、やることがダンジョンに潜って魔石を掘るだけでは満足できない人がいるのかもしれない。
そんなことを私が考えてしまうのは、Dチューバーという存在を知ったからだろう。
覚醒者とダンジョンという揺るぎないコンビの中で、なんとか生きる場を見つけようと足掻く人たちのなんと多いことか。
そんな中で、そのコンビそのものから逸脱してしまいたい者がいたとしてもおかしくはない。
ヴィランというのは、そういう人たちの中で悪となってしまった者たちを指している。
「あっ、これか」
そこら中にあるモニターの一つが映像を結実する。
例の襲撃シーンの動画が再生されていた。
だが、ヒー子の手はドーナツとコーヒーで埋まっていて、操作した様子はない。
「これは僕が組んだサポート用のAIでね。さっきの会話の流れから、この動画が必要だろうって判断して、写し出してくれたんだ」
「へぇ、便利ですね」
「えへへ〜、ダンジョンコンビニの店員ゴーレムにはまだ劣りますけど」
褒めてくれるが、店員ゴーレムではこんなことはしてくれない。
「んん、そのヴィランがカメラに近づいたところでストップ。そう、そこ」
ヒー子の言葉で動画のシークバーが動き、ヴィランがカメラに接近し、メッセージを貼り付ける寸前で止まる。
顔をピッタリと覆う黒いマスク。いわゆるアメコミヒーローのマスクに近い雰囲気がある。
市場で売られているような既製品ではないことは、あの速度で動いても傷んでいる様子がないことではっきりとしている。
「顔の輪郭を取って、世界中の覚醒者登録データから検索、近い数値の人たちをリストアップして」
「まさか、ヴィランを特定するんですか?」
「できればいいけど。覚醒者の登録データを公開していない国もあるし、そもそも登録していない覚醒者も海外ではそれなりにいるんだよ」
「そういうものですか」
「そういうものです」
そう言っている間に、モニターに何人かの顔写真が並んだ。
並んだ顔は、たしかに共通点がある。
「この中にあのヴィランが?」
「ううん、どうかなぁ」
ヒー子も自信がなさそうだ。
「これで特定できたとしてもどうせ証拠不十分になるだけだし、警察に提出するつもりはないよ」
「そうですか」
「それに、使っている技術そのものはそこまで新しくないから、この程度は警察でもやっているはずだし」
そんなものか。
と、納得したところで、警報が鳴った。
同時に、別のモニターが映像を吐き出す。
「表の研究所からの警報?」
「泥棒でも来ましたかね?」
そう呟きながら、モニターに映し出された監視カメラの映像を眺める。
そこには、あのヴィランに似たマスクを着けた者たちが研究所に乗り込んでくるところが映し出されていた。
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