39 ダンジョンコンビニの防衛力
『はい、どうもDチューバー・KAITO の時間だ』
『今日はね、噂のダンジョンコンビニの秘密に迫ってみたいと思います』
『禁忌を犯すのも躊躇わない。それが俺さ!』
画面の向こうで、いわゆるホスト的な化粧をした男性がポーズを決めている。
彼の姿を見ていると、少し懐かしさを刺激された。
中高生の頃はヴィジュアル系を聴いていたような気がする。
うん、バンド名も記憶から掘り返すことができるから、ちゃんと聞いていた。
ダンジョンモンスター歴の長さが、人間時代の記憶を掘り返す邪魔をする。
困ったものだ。
そういえば、この部屋にCDはないな。
音楽を聴きたくなったらスマホで購入か。
コンポとか買わなくてよくなったのは省スペース的にはいいが、ああいうものを買い揃えるのもロマンだった気もする。
ロマンが全て薄い板に集約されるのは寂しいと思わないでもないが、それもまた時代なのだろう。
人類のロマンが全て集約されていけば、いずれは本当に宇宙の旅に出る時代にだって辿り着けるのかもしれない。
「おっと」
動画への興味のなさすぎて、思考が迷子になってしまっていた。
慌てて宇宙から引き戻し、スマホの画面に視線を戻す。
KAITOのどうでもいい語りの後に辿り着いたのは、ダンジョンコンビニ。
この動画は生配信後のアーカイブで、しかも第三者が再アップしたものもだ。
動画本体はすでに『KAITOの時間』チャンネルには存在しない。
語りはどうでもいいなと思ったので、例のシーンまで飛ばすことにした。
『到着しました! こちらダンジョンコンビニ! 各種バフの付くおにぎりやドリンクにゴーレムの貸し出し! 怪しい白い粉! いまは日本の全ての都道府県に一つはあるという話です』
『いらっしゃいませ』
『どうも〜店員さんって人間なんですか? それともモンスター?』
『…………』
『おっと、必要なこと以外は喋らないって感じっすか? ゴーレムなのかな〜?』
『…………』
『ちっ、まぁいいや。では、勝手にさせてもらいますよっと』
ガンッ!
カウンターを飛び越えようとしたKAITOは、見えない壁に阻まれて弾き返された。
『ぐわっ。くそっ、やんのかコラァァァァッ!』
いきなりのヤンキーギレをしたかと思うと、アイテムボックスから剣を取り出す。
装飾過多のロングソードだ。
別の世界の勇者級だってそんな武器は持たないぞというぐらいに装飾過多だ。
『お客様、店内での攻撃行為はお断りさせていただいております』
『ざけんな! こっちに恥かかせといてタダで済むと思うなよ!』
『お客様の敵対行為を確認。排除行動に移ります』
『やってみろガッ』
全てを言わせる暇もなく、店員ゴーレムはカウンターの外に移動してKAITOの顔面を掴むとそのままコンビニの外まで移動し、そこでペイした。
ペイされたKAITOを無視し、店員ゴーレムは彼が連れていた撮影ドローンに目を向ける。
『ダンジョンコンビニでは店員用のエリアへの侵入、店内での抜剣、魔法の準備などの全ての敵対的行動をお断りしております。お聞き届けいただけない場合は、実力行使をいたしますのでご注意ください。お客様が神様であるなら、福の神には歓迎を、疫病神には死を。次は命があると思うな?』
KAITOを無視して最後まで撮影ドローンに話かけると、店員ゴーレムは見事な店員的お辞儀をしてカウンター向こうの定位置に戻っていった。
「うん、完璧な対応だ」
迷惑系動画配信者という存在を知ってから、対策をしたのだが、ちゃんと設定通りに動いてくれていて満足だ。
そもそも人の目の届きにくい場所であるし、ダンジョンの中でのことはバレなければなんでもOKと思われている節があるので、ダンジョンコンビニでも何度か襲撃されていることだろう。
店員ゴーレムが無事であるなら、自動修理機能もあるし、報告などはない。
だが、万が一で店員ゴーレムが破壊された場合は、自動で防衛モードが発動し、私のアイテムボックスに貯蓄されている各種ゴーレムが敵を殲滅するまで無限湧きするようになっている。
このような状況になったら、私に知らせてくるようになっている。
今回の件は、私が見ることのできない生の事件での対応なので、新鮮だった。
ちなみにこの事件の存在は、美生が教えてくれた。
すでにDチューバーニュースなどで周知され、炎上中だそうだ。
ダンジョンコンビニの存在を、ほとんどの覚醒者は肯定的に受け取ってくれているようだ。
文句を言っているのは、覚醒者ではないか、あるいは利用できない地域にいる者だと言われている。
動画のKAITOも普段は別のダンジョンで活動していたようだから、自分のホームにダンジョンコンビニが現れなかったことが気に入らないのかもしれない。
だが、長く残るダンジョンというのは数が限られているので、そう簡単に店舗を増やすわけにもいかない。
置いて数日後に攻略されましたなんてなると、こちらの苦労が全て泡と化すのだ。
増やす方法は今後も考えるとして、件のKAITOだが、もともとヤンチャな行動の目立つ迷惑系Dチューバーだったので、今回の件で大炎上に加えて、大爆笑されてしまったようで、本人のチャンネルから消したにも関わらず、こうして切り抜き動画が無限増殖している。
『消せば増える』というネット言葉があるのだが、まさしくその通りとなり、タイトルも『KAITOくんの三コマオチ』とか『KAITOの三秒ブチギレクッキング』とか『KAITOのミコスリ半劇場』とか煽るようなタイトルが付けられている。
彼自身も新たな動画が出されることもなく、擁護しているの一部の熱心なファンだけ、という状況だそうだ。
彼の今後がどうなるのかは知らないし、私にとってはどうでもいいことでもある。
復讐など考えない限り、ダンジョンコンビニを利用することもできるだろう。
まぁ、もしかしたら次は本当に殺されるかもしれないが。
その時の対処方法を考えておかないといけないな。
ダンジョンは、人の目に入らなければ問題ないのだから。
次の更新予定
ダンジョンラスボス、上司の女神に放逐された先が地球だったので昔の人生の続きをします ぎあまん @gearman
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