35 女神の神格
私が女神だと呟いたら、新高大臣は即座に「全員退室!」と叫んだ。
「鮫島くんもだ! 八瀬川くん、君はそこに残って対応を! 事情聴取は任せた!」
「了解しました」
大騒ぎになってしまった。
新高大臣も、流石に好奇心で迂闊に顔を突っ込んではいけないと判断したらしい。
ダンジョンを作り、私を生み出した存在だ。
かなり危険だと思われたのだろう。
「さて」
女神はいまだに眠っている。
あるいは床で伸びている。
声をかけて起こすべきなのかどうか。
「女神様、朝ですよ?」
本当はすでに昼も過ぎているけれど。
「う、ええ……」
女神は、なにやら呻いた。
「なにこれ、気持ち悪い。体重い」
「ああ、破界種を呼ぶ時、なにか大変そうでしたからね」
「うぇ? あ、そういえばってあああああああああっ!」
ガバッと起きた。
「ドラジロウ!」
「どうも、女神様」
「あなた! なんで生きて⁉︎」
「破界種は強かったですね」
「嘘でしょ。破界種を倒せるって……」
信じられないという顔をされたけれど、倒せたのだから仕方ない。
「いや、待って。なんで私がドラジロウと同じ場所に……って、え? あえ?」
女神様はガバッと立ち上がると、右手を握り拳に親指と小指を立てるという形にすると、それを耳に当てた。
なにか、あの形に懐かしさを覚えたのはなぜだろうか。
「はい、はい! そうですピロアーネです!」
「あっ、ほんとに電話なんだ」
いや、だとしたら繋がっているのは誰にだ?
「え? そんな! いや、でも! あれは仕方なく! だってドラジロウが! いや、そうですけども、でも! ドラジロウが! ドラジロウが! ああ! 待って! 待ってください! ああ! ああああああああああああ!」
なんだか、上司からの最終通告を受けている姿を遠くから見てしまった時のいたたまれなさという、ひどく限定的な気分を味わっていたのだけれど、それも終わりの時が来たようだ。
「うう……」
「よくわかりませんが、ご愁傷様です」
四つん這いで項垂れる女神を見れば、よくないことが起きたのは想像が付く。
「うう、うるさい! あんたのせいで!」
「その思考ではなにも解決しませんよ?」
「じゃあどうしろって言うのよっ! うわぁぁぁぁん!」
ガチ泣きされてしまった。
「とりあえず事情の説明でもしません?」
「……あんたって、私を慰めるって気はまったくないのね」
「私たちはそんな関係でしょうか?」
「あんたは! そんだけお世話してやったのに!」
「……いつですか?」
「そんなに強いのは誰のおかげよ!」
「私が創意工夫したからですが?」
「その土壌を用意したのは私よ!」
「そこから追い出しのもあなたですが?」
「ぐぅぅぅぅ……」
「そろそろ諦めて、白状しません?」
「……された」
「え?」
「剥奪された! 女神の神格を! うあぁぁぁぁん!」
そして再びのガチ泣き。
つまり、先ほどの電話? は女神よりも上の存在からの連絡だったのか。
たしかに、この女神様には世界の頂点に立っているという威厳は欠片もなかったけれど。
「神格がない私なんて、美しくて綺麗で賢くて強いだけでしかないじゃない!」
「自己肯定感が太陽より高いですね」
どうなってるんだか。
「こうなったら仕方ない。ドラジロウ、あなたに私の世話を命じます」
「なんでその命令に私が従うと思うんですか?」
ははは、面白いなぁ。
「そもそも、なんでお前は私の命令に従わないの⁉︎」
「クビになったからではないですか?」
いい加減、学ばな過ぎて辛い。
おや、スマホで着信だ。
相手は鮫島さんか。
「もしもし?」
「鮫島よ。そっちは大丈夫?」
「問題ありません。この女神は、もう神としての力を失っているようです。実力は……鮫島さんと同じぐらいか少し弱いぐらいでしょうかね」
そういえば、女神は当たり前に日本語を使っているな。
なら、意思の疎通も問題ないか。
万能言語しか使えないとなると、それはそれで不便だ。
まずは鮫島さんが入ってきて、それから新高大臣が入った。
女神という異世界存在との接触は最小限がいいと判断したのだろう、護衛役の覚醒者たちも連れていない。
「元女神のピロアーネさんです。私の元上司でもあります。こちらがこの国の大臣の新高さんです。そして鮫島さん」
私が間に立ち、仲介をすることとなった。
「大臣? なんでもっと偉いのが来ないのよ?」
「八瀬川くん。元上司だそうだが、いざという時は私を守ってくれるかい?」
「ええ。彼女の首を折るのは容易いかと」
「ひどい!」
女神……ではないし、名前も判明しているので今後はピロアーネと呼ぶ。彼女の強さを新高大臣も感じ取ったのだろう。
だが、大臣が力を感じ取れる程度に、ピロアーネの力が弱くなっているということでもある。
なんとなくで鮫島さんを出したが、強さの比較としてはそれほど間違ってはいないだろう。
「ドラジロウ! なんで原住民の味方なんかするのよ!」
「そういうところですよ。ピロアーネ」
「なによ!」
「あなたが私の魂を転生させる前。私はこの地球で、いまの姿の人間として生きていました」
「……え?」
「恩をかけたようなことを言いながら、相手のことをなにも知らない。己の立場をカサにきて従わせるのが当たり前、自分に服従するのが当たり前。それでは誰も従いませんね」
「ぐ、うう……」
「とりあえず、ピロアーネさんの為人は理解できたよ。ありがとう、八瀬川くん」
新高大臣がピロアーネの前に立った。
「なによ?」
「あなたの今後について、いろいろとお話をさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
「ふんっ! ただの原住民のくせに偉そうに。私は!」
「たしかに私はただの人間ですし、大臣程度の権力しかありませんな。ですが」
新高大臣の目がぎらりと光った。
「あなたの今後を決める程度の力はあるつもりですよ? このままあなたが日の差さない部屋から出さないようにするとか、実験動物にするとか」
「実験!」
「なにしろあなたは人間ではなく、女神だという。どんな秘密があるのか、知りたいじゃありませんか」
「ソンナヒミツハナイヨ?」
「なにしろあなたは女神。人権がない。そんなあなたの今後を決める程度の権力しかない程度の人間ですが、お話をさせてもらえませんか?」
「ドウゾヨロシクオネガイシマス」
ピロアーネは震えながら新高大臣の質問に答えていった。
なるほど、交渉とはこうやるのか。
ためになる。
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