24 コラボ
「次郎さん、コラボしませんか?」
「コラボ?」
D省に呼ばれなければ、私は基本暇だ。
世界展開もなんとなく手を付けずにいる。
いまでも十分に魔石と経験値が手に入っているし、魔石から金を作る必要もなくD省の依頼でダンジョンを攻略すれば報酬がもらえる。
鮫島さんのようにダンジョン全て潰すマンになる気もないので、空いている時間をいかに楽しむかを考える日々だ。
そんなある日に美生ちゃんが提案してきたのがコラボだった。
彼女はツルハシが元に戻り、御名代玲子との仲も戻ってご機嫌だ。
「コラボ、とは?」
今いるのは私の部屋だ。
彼女がお土産と言って買ってきたドーナツを一緒に食べながら話を聞いている。
「ええと、たすけてもらった時に一緒にいた二人を覚えていますか?」
「たしか……」
ユーネとインリン・ジョーンズだったかな。
「二人が、あの時に逃げたことを気にしてるみたいで、視聴者にも仲違いしてるって噂を言う人がいるので仲直り配信をするんですけど、その時に次郎さんも一緒にどうかなって」
「その二人が?」
一応、私はS級覚醒者。
この業界では有名人ということになるはずだ。
そういう人物に近づくことを目的とする人も、いることはいる。
すでに私がこのアパートに住んでいることを突き止め、近づいてきた人もいるのだ。
そういう人たちからは記憶を奪い、私のことを忘れてもらっているが、こんなやり方は付け焼き刃かもしれない。
二人が言い出したのであれば、私に近づく目的があるのでは? と疑ったのだが、美生ちゃんは首を振った。
「いえ、二人には内緒で、びっくりしてもらおうと」
「おや、そうなんですか?」
「えへへ」
照れくさそうにそんなことを言う美生ちゃんが可愛らしかったので、頭を撫でて了承した。
というわけで、コラボの日になった。
場所は平和島ダンジョン。
出現して半年ほどだ。
東京モノレールや首都高に近いものの、どちらの交通を邪魔しているわけでもない。
そのため即時攻略は求められていないが、攻略に成功した覚醒者には報酬が出ることになっている。
「「うわっ」」
平和島ダンジョン前で二人と合流すると驚かれた。
「「ダンジョンおじさんだ!」」
「その名前の方が通っているんですよね」
ネット上の自分のことを調べるエゴサーチをすると、名前よりもダンジョンおじさんという通称の方がよく出てくる。
「まぁ、修正の必要もないですし、動画に出る時はそれを名乗るとしますか」
「え? もしかして今日の配信に出てくれるんですか?」
「えへへ、緊急ゲストです」
「そういうことです」
「うわっ、すご!」
「え、じゃあ、今日の配信ってどうすればいいの?」
「この前のままじゃだめかな?」
慌て出した二人に美生ちゃんが首を傾げる。
この姿の時はミミミの方がいいのか。
「だって、それじゃあ私たちはいいけど、ダンジョンおじさんが活躍できないでしょ」
「うん、ていうか、見ている人も私たちよりダンジョンおじさんがどんなことをするのか見たいよ、きっと」
「あ、そっかぁ」
「それなら、こうしませんか?」
三人が悩み出したので、私から提案することにした。
「このダンジョン、攻略してしまいましょう」
「「「へ? えええええええええ‼︎」」」
ダンジョンでの配信は、吉祥寺ダンジョンのような長期に存在しているところであれば、ある程度の深さまで中継機が設置されていることもあり、そうであれば生配信が可能となる。
それがないような場所であれば、撮影ドローンで撮影し、後に動画を投稿する形になる。
今回の平和島ダンジョンは後者のパターンだ。
生配信ではないので予定を変更することは容易い。
三人それぞれに動画を撮影し、投稿日を決めて、三人同時に動画をアップする。
『なんかすごいことになっちゃいました(コラボ回)』
天之川ミミミチャンネルにその日上がった動画は、そんなタイトルだった。
『はい。ええと、天之川ミミミです。ええと、今回はコラボ回でして、ユーネちゃんとインリンちゃんの三人で平和島ダンジョンに入るつもりだったのですが、特別ゲストがいらっしゃいます』
『どうも、ダンジョンおじさんです』
『ダンジョンおじさんとは、前回たすけていただいたお礼をさせてもらったご縁で、今回のコラボに参加してもらうことになりました。ええと、私がお願いしました。そうしたらユーネちゃんとインリンちゃんもお礼が言えるかなと思っただけなんですけど! だけなんですけど‼︎』
『三人の活躍を期待されている皆様には申し訳ないのですが、今回は少しチャンネルの趣旨を変えさせていただこうと思っています。ダンジョンおじさんという呼ばれ方で有名になってしまいましたが、私の能力がどういうものなのかわからない方もいることでしょう。そういう方たちに私の能力を理解していただこうと思います。そこで、私の能力を使って、こちらの三人で平和島ダンジョンを攻略してもらおうと思います』
この説明はそれぞれユーネチャンネルとインリン・ジョーンズのチャンネルでも行った。
『では、ダンジョンに入りましょう。私の能力に関しては実際に行いながら説明していきたいと思います』
そうして三人のアイドル系Dチューバーによるダンジョン攻略動画が始まる。
平和島ダンジョンの内部は洞窟迷路型となっており、罠も存在する。
モンスターは青い炎を零す鎧の魔物が多い。
『私が得意とするのは補助と回復です。つまり共にダンジョンに入った仲間の能力を強化し、負傷やモンスターの特殊能力などによる毒、状態異常に対処します』
『こういう罠の多いダンジョンでは斥候系であるインリンさんは活躍できますね。斥候系が強化すべき能力は探知能力とモンスターと遭遇した時に素早く仲間のところに戻ることのできる機敏さです。これは速度を上げる意識で行うことでどちらも可能です』
『モンスターに対抗するのはメインアタッカーであるユーネさんの役割です。彼女は多くの武器を操作して戦いますので、魔力操作能力が重要となります。これを補助するには魔力を強化する認識で問題ありません』
『戦闘では役立たずと思われている鉱夫系ですが、装備を揃えればサブタンク、サブアタッカーとなることも可能です。敵の注意を誘う術がないのがネックですが、それは立ち回りを覚えればなんとかなる部分でもあります。また、サブアタッカーとしてでしたら実は鉱夫系には一時的に相手の防御力を低下させる能力が存在します。気付いていないのであれば、よく意識してみてください。鉱夫系を強化場合は耐久力です』
『傷の回復をどれぐらいの頻度で、どのタイミングで行うかの判断は重要です。痛みとしては問題なくても、場所によっては出血そのものが邪魔となる場合もあります。頭部、目の周辺の傷はすぐに治した方がいいです。また、痛覚が敏感な場所、指先、顔面、手足の付け根部分などが怪我した場合も、集中力を削ぐので早めに治療した方がいいでしょう』
そんなことを説明しながらダンジョンを進んでいく。
これらのことはダンジョンモンスターとして戦いながら学習した。
敵を知り己を知ればなんとやら、である。
別の世界でも、ダンジョンに攻略する者たちは地球でいう覚醒者と似たようなものだった。
あるいは、ダンジョンに触れてしまった世界はそういう存在を生み出さざるを得ないのかもしれないし、ダンジョンそのものが生み出させているのかも知れない。
つまりは、どこの世界でも大体は同じ対応の仕方で問題なかった。
『なんで? なんでこんなに見えるの? ああ、すごい動ける』
『敵が見える! すごい、敵が見えるわっ!』
『うわっうわっ! 戦えてる! 私、戦えてるよ!』
『最後に忠告です。補助強化能力者と行動を共にした場合と、そうではない場合の実力差は正確に理解しておいてください。そうでなければ、身を滅ぼすのはあなたたちです』
三人の動画は、それぞれに百万再生を余裕で突破し、動画コメントも『エロすごい』と好評だった。
好評でいいんだよな?
これで補助のありがたさを理解し、ダンジョンコンビニのバフ系飲食物の売り上げがアップするといいのだけれど。
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