22 人探し



『は〜い、うるるんのDチューバーニュースの時間です。今回は、とあるニュースの続報と、お勉強の時間だよ〜』


『まずはニュースから、以前に話題になったダンジョンおじさんを覚えていますか? アイドル系Dチューバーのユーネとインリン・ジョーンズ、天之川ミミミの三人がコラボをしている時に颯爽と現れた謎の覚醒者のおじさんですね』


『ダンジョンおじさんはD省で閲覧できる登録覚醒者一覧に顔写真がないことでも話題となっていましたが、この度S級覚醒者として登録されたと発表されました』


『お名前は八瀬川次郎さん。三十五歳。国や各自治体で行われる健康診断で覚醒者判定検査を受けられるのは十五歳から三十歳までです。三十歳を越えて覚醒者の発現はないものとされていたので驚きです』


『では、どうして三十歳から上の人には発現しないのかは原因がわかっているのではなく、あくまで統計による結果だそうですので、もしかしたら三十歳を過ぎていても覚醒者となれる方が他にもいるのかもしれません。気になる方は有料となりますが、自治体に申し込んでみてはいかがでしょうか?』


『さて、この方の話題としては遅咲きの花であるというだけではありません。現在の日本で五人目のS級覚醒者、という点ですね』


『うるるんニュースをご覧の方なら常識かもしれませんが、ここで改めて覚醒者の等級について確認してみましょう』


『覚醒者判定検査機がどのようにして覚醒者を判定しているのか、公式の説明ではその人物の現在の魔力の所有量と、魔力の最大所有量を測っているということです。RPGで例えるなら、現在レベルと限界レベルを測定し、その数値によってEからA、そしてSと等級を決めているそうです』


『では、最初にE級と判定された人が限界までレベルを上げたら等級が変化するのか、と思う方がいるかもしれませんが、等級は変化しません。膨張率が同じであるなら、小さな風船は限界まで膨らませても小さいし、大きな風船はもっと大きく膨らむからですね』


『ちなみに、A級覚醒者の覚醒初期の強さは、E級覚醒者が限界まで強くなった時とほぼ同じと言われているそうです』


『現実は残酷ですね。では、次の動画でお会いしましょう。うるるんでした』



 翌日。

 私は一人でとある大学に向かうこととなった。

 美生ちゃんのツルハシを作ってくれた人は、同じ大学にいたそうなのだが、彼女が行きたくないというのだ。

 まぁ、D省からの呼び出しがない限り、私の方が時間があるのだし問題はないのだけれど。

 彼女が通っていたのは有名な女子大だった。

 なにも知らない外部からするとお嬢様学校のイメージがあったが、流石に「ごきげんよう」などと声を掛け合っている様子はなかった。

 同時に「なぜ男が?」みたいな目があるかもしれないと警戒していたけれど、それもなかった。

 大学の事務所を見つけ、そこの受付で手に入れたばかりの覚醒者登録カードを見せる。


「え? S級っ!」


 自己紹介としてこれ以上のものはないと思ったのだけれど、効果はテキメンだった。

 受付の人は驚き、慌てて自分の口を押さえた。


「失礼しました。ご用件は?」

「御名代玲子という方を探しています。一年前には二年生として在籍していたそうなのですが」

「申し訳ありません。学生の個人情報をお知らせすることは」

「彼女は生産系の覚醒者です。彼女の能力に用があるのですが」

「それでも、申し訳ありません」

「そうですよねぇ」


 この結果はわかりきっていた。

 なので、催眠を使わせてもらう。

 ゴブリンから始まった私のモンスター生は、別種のモンスターへの進化を繰り返すことで最終的にドラゴンに至った。

 その過程で相手を意のままに操る催眠攻撃を使うサイコルーラーというモンスターにもなったことがあるし、その能力は残っている。

 周囲に気取られないように幻影の魔法で別のことをしているように見せかけながら、受付の人から御名代玲子の情報をもらった。


 御名代玲子はいまも大学に在籍していた。


「あ、ダンジョンおじさんだ」


 彼女が履修している講義もわかったので、その講義が終わるタイミングで講義室の外で待っていると、彼女の方が私を見つけてくれた。

『ダンジョンおじさん』の知名度はそれなりにあるらしく、他の学生たちも私をみている。


「御名代玲子さんですね」

「え? 私に用?」

「はい」


 まさかという顔をしている。


「私、E級ですけど?」

「生産系に等級なんて関係ないでしょう」

「そんなわけないじゃないですか」

「ともかく、話があってきました。お付き合いいただければ」

「……私なんかをどこで?」

「鮎川美生さんから」

「鮎川……わかりました」


 彼女が案内してくれたのは大学にある喫茶店だった。

 名目は食堂だが、扱っているのは喫茶店の内容ばかりだ。


「それで御用というのは?」

「まずはこれの修理を」


 アイテムボックスから例のツルハシを出す。


「これは……」

「彼女の愛用品です。修理できるのは製作者であるあなただけだ」

「あの子、まだ使ってたの? 覚醒者として活動してるなら、もっといいのを買うことだってできるでしょうに」

「思い出の品のようで、ひどく落ち込んでいましたよ」

「思い出ね。そういえば、あなたが有名になったのって彼女の動画に出たからでしたね」

「知っていたのですか」

「……それは、まぁ」


 知らないふりをあっさりと崩してしまい、御名代さんは気恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「あの子が大学を辞めたの、私のせいかもって気にしていたから」

「それは、聞いても問題のない内容で?」

「そこまで複雑な話でもないわ。人見知りのあの子と仲良くなったのが私で、私が先に覚醒者になっていて、あの子が後で覚醒者になった。あの子はB級で私はE級。あの子の難しい時期に、私は等級を理由に見下された気になって」

「彼女は大学を辞めた後に覚醒者になったと」


 たしか、そう話していたはずだ。


「あの子が覚醒者とわかったのはうちの大学の健康診断でだから、その健康診断でね。ほら、あの子、すごく大きいでしょう」

「なにがですか?」

「なにがって、ほら、あれよ」


 と、玲子さんは胸元にやって奇妙な手つきをする。

 なんだ?


「あなたも男ならわかるでしょ?」

「いえ?」

「胸囲! バストよ!」

「ああ!」


 そういえば、美生ちゃんは大きいかもしれない。

 人間として暮らしているけれど、中身はモンスターのままだ。

 私に性欲が戻る日は来るのだろうか。


「あまり気にしたことはなかったですね」

「え? あなた大丈夫なの?」

「そんな心配のされ方をするとは思わなかったですね」

「まぁ、いいわ」


 美生ちゃんは大学当時。動画配信の時のような化粧をしていなかったし、垢抜けた格好もしていなかった。猫背気味にしていたので、あまり気にされていなかった。

 だが、大学の健康診断の時に、それが発覚した。

 実は、彼女がすごくスタイルがいいことに。

 その時点ですでに覚醒者として目覚めていたのだろう。

 なにもしていないというのに、整えられたスタイル。

 出るところはよく出て、引っ込むところは引っ込む。

 好みや価値観は多々あれど、肉感的という意味で最上の素材がここに存在する。

 彼女がそれに気づいた瞬間、自分たちは一気に存在が霞む。

 大学の女子学生たちがそう考えたのか知らないが、周囲の扱いが一気に冷たくなり、美生ちゃんは嫌になって大学を辞めた。

 辞めた後か、辞める過程で健康診断の結果を渡されたのだろうか。


「それで?」

「私は、辞めた後も連絡を取り合っていたから、彼女が鉱夫系だって知って、ツルハシを渡した。それでお終い。それから連絡はしてない」

「どうして?」

「どうしてって……。見下された気がしてた相手が、役に立たないって言われている鉱夫系になったのよ。いい気味だって」

「美生ちゃんは、そうは思わなかったようです」

「……」


 大事に使い続け、折れたら泣いてしまうほどだ。


「きっと、今でもあなたのことが好きだと思いますよ」

「……わかった。直す」

「ありがとうございます。ああ、できれば渡すのは直接でお願いします」

「え?」

「その方が彼女も喜ぶでしょう」

「しかたない」


 そう言った彼女だけれど、言葉とは裏腹にすごく照れた顔になっていた。

 ちなみに、私の用というのはツルハシに使われていた合金のレシピだ。

 作ってしまえばそれを修理したりするのは本人にしかできないが、レシピであれば他者と共有することができる。

 抜け道というのはこれだ。


 玲子さんはたいしたことのないものだと思っているようだけれど、魔力の伝導率の点では有名なミスリルよりも上である。

 組み合わせて使うことで強力な魔道具を作ることもできるだろう。

 ゴーレムにこの素材を使うことで能力の上昇が見込めると判断してのことだったのだが、狙い通りになった。


 玲子さんも私が欲しがったことでこの合金の可能性を調べる気になったのか、数年後、有名な魔道具師として名が上がるようになった。

 

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