21 思い出の金メッキ




『あ、大臣!』

『新高大臣! 八瀬川さんは⁉︎』

『八瀬川さんは記者会見はご遠慮すると、代わりまして私が参りました。私に答えられる範囲であればお答えします』

『大臣、八瀬川さんが●●空港に出現したダンジョン攻略に参加していた件ですが』

『私が依頼して八瀬川さんに参加していただきました』

『八瀬川さんもダンジョン省入りされるのですか?』

『残念ですがダンジョン省に入られることはありませんでした。ですが、話し合いの結果、即時攻略対象ダンジョンの対策に協力していただけることになりました。●●空港での一件はこちらの用意した攻略チームとの連携を確かめるための試験的な意味もある攻略行動です』

『大臣、S級であるのに他の攻略チームが必要というのは?』

『彼は覚醒者の中ではとても珍しい補助と回復の両方を使うことができるのです。しかしそのために戦闘を補助するチームが必要でもあります』



 大臣の記者会見の様子は夜のニュースでも流れていた。


「変なことになってしまった」


 テレビに映った新高大臣の姿をリモコンで消し、私は缶ビールを煽る。

 最初の失敗でこんなにもあっさり身元が判明し、お偉いさんに利用される立場になってしまうとは。

 もちろん、ただで利用されるつもりはないから交渉はしたが、良い結果といえるかどうかあやしい。


「まぁ、損をしたわけでもないのだけど」


 覚醒者となってしまったが、だからといってその立場で脚光を浴びるわけにもいかない。

 そんなことをしたら、いずれ私がモンスターを倒しても魔石やドロップ品が出ないことが判明し、不審に思う者が現れることになる。

 だが、補助や回復に特化した覚醒者ということであれば、直接戦闘をしない理由にもなる。

 新高大臣に自分の素性を語り味方に付けたことは、現状で考える最善手だったのではないかとも思う。

 思うが、うん。

 立場が上の者に自分の命運を握られているという事態は避けたかった。

 せっかく、コストコストとうるさい女神から解放されたのに、また誰かにせっつかれる状態はごめんだ。

 気にしているのはこの一点だな。

 ダンジョン省の役人になることは避けたが、秘密という首根っこを掴まれてもいる。

 とはいえ、向こうにも私が本気になった場合に止める術はないはずだ。

 なので状況は五分五分なのだと思いたい。


 そうだな、悪くないはずだ。


 ん、階段を上がる音。

 安アパートなので外の音はよく聞こえる。

 いまは昔より感覚が鋭くなっているので、この程度の壁はないも同じだ。

 気になりすぎるので寝る時には結界を使うぐらいだ。

 この足音は美生ちゃんか。

 でも、なにか、音に変化が。


 ピンポーン。


 うちのチャイムが鳴った。

 なにかと思って出てみると、泣き顔の美生ちゃんがいた。


「美生ちゃん?」

「う、ぐす……次郎さん、S級おめでとうございます」

「ああ、どうも。それで?」


 まさかその件で泣いている?

 いやいや、まさか。


「本当はお祝いしたいんですけど、ぐすっ」

「どうしたの?」

「うう……」


 美生ちゃんは涙をポロポロ零しながら自身のアイテムボックスからそれを出した。

 それは彼女が愛用しているツルハシだ。

 壊れていた。

 鉱石を打つピックの部分が真ん中から折れているのだ。


「ああ、壊れてしまったのか」

「これ、覚醒者を始めた時に知り合った生産系の人が作ってくれたもので、でも、もうその人とは連絡が取れなくて」

「ああ、直せないという奴ですか?」

「はい」


 生産系覚醒者は優れた武器防具、道具の開発者であるが、一つ欠点がある。

 それは、彼らが作ったものは彼らにしか直せないという欠点だ。

 故に、一点物を作らせればとても素晴らしい製作者なのだが、量産を前提とした物を作ることには向いていない。

 とはいえ、これにも抜け道があるそうなのだが。


「ずっと一緒にがんばってきたのに、こんなお別れ方をしないといけないなんてと考えたら、うっ……」


 と、美生ちゃんは泣く。


「まぁ、とりあえず入って」


 こんな状態でドアの前で立たせておくわけにもいかないし、かといって他の場所……この時間だとファミレスか? そんなところには連れて行けない。

 仕方ないので部屋の中に案内する。

 なにか飲み物。

 コーヒーは時間がかかる。

 ないな、エリクサーでいいか。

 見た目も味もオレンジジュースだし。


「これでも飲んで」

「ありがとうございます」


 鼻を鳴らしながらエリクサーを飲む彼女の側で、私は折れたツルハシを確認する。

 配信では金メッキのツルハシとか言われていたが、断面を見る限り中も金色だ。

 ただ、材質は金ではない。

 なんだろうな。

 色の段階でミスリル、オリハルコン、アダマンタイトは排除される。

 金色をした金属となると真鍮、黄鉄鉱、黄銅鉱などか。

 ツルハシの先に使う材料とも思えない。

 となると製作者独自の合金か。


「ふうむ、面白い」

「え?」


 私の呟きに、美生ちゃんが顔を上げた。

 なんかスッキリしている。

 エリクサーの効果が影響した?


「美生ちゃん、このツルハシの製作者、捜さないかい?」

「え?」

「連絡が取れないというけれど、別に亡くなったわけではないでしょう?」

「それは、はい」

「なら、捜しようはあるはずだ」

「え、でも、悪いですよ」

「いやいや、私もこの合金には興味が出てきたので」


 これは使えそうだ。


「あっ、そうだ。とりあえず、見つかるまではこれを使うといいよ」


 私はアイテムボックスの中でツルハシを製作し、それを美生ちゃんに渡した。


「え? いや、これ、すごくないですか?」

「そんなことはないよ」

「いや、絶対すごいですって!」


 そんなことより新素材が手に入りそうなことに、私は心が躍った。

 S級覚醒者になってしまったことへの後悔は、すでに消え去っていた。

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