20 攻略チーム
「やってくれましたね」
「ダンジョンの即時攻略をお願いするのであれば、S級以外にはあり得ないでしょう」
D省に行くと、応接室に通されてすぐに新高大臣が現れた。
大臣は私の苦情からするりと逃げる。
「それは、そうかもしれませんが」
「それにしても、外の人たちには見つからなかったのですか? 記者がたくさんいたでしょう?」
「気付かれずに移動するのは慣れていますので」
「羨ましい。私もそうできたらいいのですが。ああ、これがあなたの登録証です」
覚醒者登録カードを渡された。
「写真はマイナカードから流用させてもらいましたよ。本来なら新しい写真でなければならないのですが、今回は特別です」
「それはどうも」
吸血鬼ではないのだから写真に映らないなんてことはないのだが、面倒な段取りが一つでも解消されたのならそれに越したことはない。
「それで、相談なのですが」
「はい」
「八瀬川さんのお話では、あなたがモンスターを倒しても魔石が手に入らないとか?」
「ええ」
「それでですね」
新高大臣からの提案はこうだった。
ダンジョンを即時攻略するとはいえ、できれば多少でも魔石などの収入は欲しい。
そこで、私のS級としての能力を補助や回復に特化しているとして、アタッカーを別の者に任せるのはどうか?
それでダンジョンの攻略は可能か? ということだ。
「可能、と言いたいですが、同行する者の実力次第とも言えますね」
「なるほど。D省で用意できる攻略チームと一度組んでもらえるかな?」
「わかりました。ああ、それと……」
なにげに流されていたギャラの部分を交渉した。
魔石はD省にドロップ品は私と攻略チームで分配という部分も決めた。
「意外にしっかりしていらっしゃる」
「ははは」
意外にってどういうことなのかと問いたい。
「それでは、あなたの能力などの発表はそれ以後とするとして、場所なのですが」
「もしかして、もう候補地が?」
「ええ。攻略チームもすでに準備しています」
「あの、今日、私がここに来なかったらどうしていたのですか?」
「その時はお迎えに上がりましたとも」
あっはっはと笑われた。
政治家ってやっぱり怖いなぁ。
応接室を出ると、D省のビルにあるヘリポートに案内された。
その途中で攻略チームを紹介される。
「秦野脩司。A級。メインアタッカーを務めます」
「桜庭至。B級。タンクを務めます」
「財前泰介。B級。タンク」
「金田一心。大和田大地。東野誠。三人ともC級でサブアタッカーです。よろしくお願いします」
「もしかして、みなさん軍人だったりします?」
「自衛隊から出向してもらっている覚醒者たちです」
私の疑問に新高大臣が答えてくれた。
「なるほど。新人覚醒者の八瀬川次郎です。よろしくお願いします」
「「「「「はっ!」」」」」
『こいつ使えるのか?』みたいなやり取りはごめんだったので、軽く威圧をかけると全員が軍人的な挨拶をしてくれた。
わかりやすい人物って対応が複雑化しないから助かるね。
ヘリポートから高速ヘリに乗り、現場に向かう。
今回の目的地は東北の某県。
この高速ヘリであれば、三十分もあれば到着するという。
試しにマップアプリを使ってみると、新幹線で二時間ほどかかる場所だ。
空路とはいえ、速い。
ダンジョンは空港の側に現れていた。
「それでは、いきましょうか」
ヘリが百メートルぐらいになったところで、私は下に降りる。
背後で驚きの声が聞こえていたが、着地していた。
「ええ?」
「マジか?」
「あんなことができるのに補助・回復特化だって?」
「さすがS級」
「自信がなくなるなぁ」
降りてくるヘリの音に紛れてそんな声が聞こえてくる。
そうか、できないのか。
鮫島さんならできるから彼らもできるかなと思ったのだけれど。
やはりS級は特別ということか。
補助は強めに配ったほうがいいかもしれないな。
そうだな、様子を見つつだが、最初は『一体と思って舐めていたら中堅パーティを全滅させるゴブリン』ぐらいの強化でいってみるか。
ダンジョンコンビニで売っているバフ系飲食物よりも強めだ。
ダンジョンは迷いの森。
森の形をした迷路となっていた。
出てくるモンスターは赤毛の熊であるレッドベアと木人類のトレントがほとんどだった。
どうやら、この二種類が森の覇権を争っているというテーマで配置しているようだが、実際にはこの二種類は争わず、どちらも私たちを狙ってくる。
そしてそれを、彼ら攻略チームが対処する。
私の補助魔法はすでに配布済みだ。
「は、はははは、なんだこれ!」
「すごい、体が軽い。攻撃が痛くない!」
「見える。動きが見えるぞ!」
「威力もいつもとは違います!」
「俺でも倒せる? 嘘だろ」
「いくらだって撃てる!」
五人とも調子が良さそうだ。
メインアタッカーの秦野さんは剣で、サブアタッカーの金田さん、大和田さん、東野さんは銃を使っている。
アサルトライフルの形状をしているが、普通の銃ではない。
少なくとも、弾頭と火薬に魔石利用の触媒を使用した特殊な物に違いない。
そうでなければ、ただ鉛玉を発射するだけの機械でダンジョンモンスターは倒せない。
通用するのはゴブリンレベルの弱いモノたちだけだ。
使用する覚醒者の力を弾頭に反映させるように改造しなければ、ダンジョンではなんの役にも立たない。
それは他の武器にしても同じだ。
秦野さんが使っている剣、桜庭さんや財前さんの着ている鎧や盾もただ金属を打って作っただけの武器や防具ではなく、魔石触媒や、ダンジョン産の素材を利用して作られ、覚醒者の能力を反映する性能を持っている。
そういうものはダンジョンからドロップ品として現れたり、あるいは生産に特化した能力を持つ覚醒者によって生み出される。
攻略チームは順調にモンスターを狩り、三時間ほどで奥の間に到着。
そこにいたエルダートレントを退治することができた。
最終的には『勇者を殺せるぐらいのオーガ』の強化が必要だったし、回復魔法によって疲労を抜いてやったりしなければならなかったが、初陣にしては立派な戦果を上げることができただろう。
ダンジョンから出てきた時には空に数機のヘリがいた。
全てのヘリにカメラを構えている人が見える。
「マスコミのヘリですね」
「こんなところまで?」
「あなたがいるのがバレたのかもしれません」
「はぁ、いまどき覚醒者の話題でマスコミがこんなに?」
「なにを言っているんですか、日本で五人目の覚醒者ですよ。スポーツ選手が金メダル取るよりも話題になりますよ」
「はぁ」
それは身内贔屓的な評価だと思うけれど。
積極的にテレビに出たいわけでもないので、さっさと帰ることにした。
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