15 全国展開



 検索 #ダンジョンコンビニ


『ついに、ダンジョンにコンビニが現れたw w』

『斜陽なコンビニ業界の起死回生の一手か?』

『いや、違うだろ』

『動画見てないのか?』

『あんなゴーレム作る技術があったら、コンビニやめて軍事産業いけるだろ』

『動画見た。なんだあれ?』

『モンスター涙目。覚醒者涙目』

『覚醒者の代わりにゴーレムに潜らせればいいんじゃね?』

『動画よく見ろ、ゴーレムが倒したら魔石出てないだろ』

『あっ、ほんとだ』

『魔石が取れないなら、そもそもダンジョンに潜る意味がない』

『オーバーロード対策もあるけどな』

『ダンジョンなんて全部消してしまえ! 魔石なんているか⁉︎』

『出た、ダンジョン否定派』

『年間の魔石採掘量で来年の電気代が決まっているの知ってる?』

『でも、高速道路とかに出現した時とかには有効なんじゃね?』

『ダンジョンを速攻攻略できるのなんてS級覚醒者しか無理だし、日本には四人しかいないからな』

『で、このコンビニはどこにあんの?』

『吉祥寺ダンジョン』

『そこだけ?』

『いまのところ、ソロ鉱夫系覚醒者の護衛としては最適なんじゃね?』




 ネットでの反応は私が考えた通りだった。

 位置的に危険が少ないと判断され、内部に魔石鉱脈がたくさんあり、モンスターがそこまで強くない、ソロで活動する鉱夫系覚醒者に人気のダンジョンならゴーレムは需要がある。

 というわけで、そういうダンジョンをネットで探し、ダンジョンコンビニを設置していく。

 設置するまでの移動は自分の足で行わなければならないけれど、一度行ってしまえばコンビニ内の転移することができる。

 その移動にしても、透明になってからドラゴンの姿に戻って空を飛べば問題ない。

 一日一ダンジョンをノルマにして増やしていく。

 四十七都道府県に一つはあるので、一気に全国展開を目指していく。

 商品にかかるコストは値段となっている魔石のおよそ十分の一だし、全てのコンビニが私のアイテムボックスに繋がっているので、クラフト機能で生産して貯めておくだけでいい。

 輸送の苦労がないのがいい。


 天之川ミミミの動画を見た覚醒者たちが吉祥寺ダンジョンに殺到し、三十階までに存在する魔石鉱脈が瞬く間に枯れ果てた。

 魔石鉱脈が復活するのはランダムだと言われているが、だいたい五日から十日というところだろう。

 ダンジョンを管理するラスボスの気分一つにかかっているのだが、人が来なくなるのはそれはそれでダンジョン運営の問題になるので、そこまで待たされることもない。

 魔石鉱脈を豊かにすることで、ダンジョンも覚醒者もお互いに生かさず殺さずの関係を維持しようとしている。


 オーバーロード対策としても、私のダンジョンコンビニは役に立つ。

 この現象は二つのダンジョンの間で行われることであるため、長く存在しているダンジョンというのはその片割れになりやすい。

 私がラスボスしていたダンジョンも、何度も行ったものだ。

 その頃の私は、ラスボスとして奥に控えるために外に出ることはなかったが。

 オーバーロードのタイミングならダンジョン内にモンスターは少ないはずと、攻略を狙ってくる者もいるのだ。

 そういう連中は、私のゴーレム部隊で撃退していた。


 そんな過去の話はいいとして、私の店舗があるダンジョンでオーバーロードが起きれば、自動でゴーレム部隊が出動し、外に出さないように活動する。

 もう片方のダンジョンが放置になってしまうが、それは覚醒者たちに努力してもらうことにする。

 私は救世主になりたいわけではない。


「八瀬川さん!」


 日本全国にダンジョンコンビニを配置し終えた。

 久しぶりに外で食事でもしようと思って外に出ると、隣の部屋のドアがすごい勢いで開いた。

 天之川ミミミ……いや、ジャージ姿なので、鮎川さんという方が正しいのか?

 あっちは芸名みたいなもののはずだから、普段からそう言われたくないだろう。


「鮎川さん、どうしました?」

「あの、よかったらお食事でもしませんか?」

「え?」

「お礼をしたいので」

「お礼?」

「はい、たすけていただいた件で」

「ああ……」

「あの、ダメですか?」

「いえ、いいですよ」

「それなら、支度するのでちょっと待ってください!」

「ああ、じゃあ、そこのスタバにいますので」

「はい!」


 鮎川さんはすごい勢いでドアを閉めた。

 そんなに気にしなくてもいいのだけれど、まぁいいか。


 宣言通りに少し歩いた先にあるスタバで時間を潰そうと思っていたのだけれど、席が埋まっていた。

 仕方ないのでコーヒーを頼んで外で待っていると、三十分ほどで彼女がやってきた。


「お、お待たせしました」

「……」

「な、なんです?」

「いや、可愛らしい格好ですね」

「ひうっ! あ、ありがとうございます」


 ジャージ姿ではなくなった鮎川さんは、すごく可愛いらしくなっていた。

 ファッションに疎い私では、化粧をすごくがんばって、なんかふわふわとした格好になったとしか言いようがない。

 こんなおじさんと食事に行くぐらいでこんなに頑張る必要はないと思うのだけれど、女性としての矜持がそれを許さないのかもしれない。


「では、どこに行きましょうか?」

「八瀬川さんはどこに行くつもりだったんですか?」

「いえ、この先の焼き鳥屋なんですが」


 淡い記憶だけれど、仕事終わりに時々飲みに行っていたはずなのだ。

 そんな昔の記憶を確かめるための選択だったのだけれど、鮎川さんを連れていくには相応しくないか?


「はい、知ってます!」

「そこでいいのかな?」

「もちろんです!」

「では」


 彼女のいいと言うならそうしよう。

 焼き鳥屋で我々はテーブル席に案内された。

 生中にもも、ねぎま、皮の定番にししとうとしいたけを頼む。

 彼女はウーロンハイにももとねぎま、皮、ぽんじり、つくね、牛タン、豚カルビと頼んだ。


「最初から攻めますね」

「す、すいません」

「いや、いいんですよ」

「あの、覚醒者になってからお腹空きませんか?」


 ああ、そういうものなのか。


「すいません、一つ、言っておかないといけないことが」

「な、なんですか?」

「実は私、覚醒者じゃないんです」

「え?」

「ええ」


 鮎川さんはよくわからないという顔になってしまった。

 その間に生中とウーロンハイが来た。

 お通しは焼き厚揚げを切ったものにポン酢とネギがかけられている。


「では、乾杯」

「あ、はい」


 我に帰った鮎川さんがウーロンハイを持ち、杯を合わせる。

 うん、美味い。

 缶ビールも美味いけれど、ビールはやはり、冷えたジョッキでごくごく飲む方が美味いと思う。

 形も大事だな。

 お通しもいい。


「え? いや、そんなことはないですよね?」


 ようやく鮎川さんがそう言ったのは、もも串が届いた時だった。


「いや、本当なんですよ。この間、判定機を使わせてもらえたんですが、覚醒者と判定されませんでした」

「ええ……あんなに強いのに?」

「不思議ですねぇ」


 判定機に『こいつは人間でもない、ダンジョンモンスターだぞ』なんてことを言う機能まであったら大変なことになっていた。


「それじゃあ、あのダンジョンコンビニは?」


 私は黙って自分の口に人差し指を立てた。


「あ、はい」


 理解してくれた。

 魔石を持っていくように助言したのだから、私がなんらか関係していることはたしかなのだから、そこで嘘はつけない。

 だから代わりに黙っておくという手を使う。

 どちらにしても『私が社長です』と名乗り出られる状況ではない。

 ダンジョンの存在も、モンスターがなにかも、覚醒者の力の根源も、この世界では解明されてはいない。

 そんなダンジョンで店を出し、さらに能力アップ効果のある飲食物を用意したり、ゴーレムを貸し出したりするなんていうことは、普通はできない。

 普通はできないことをしているのだから、その何者かも潜んでいる方がいい。


「あなたは協力者ですからね。これからも、なにか困ったことがあったら頼ってください」

「あ、ありがとうございます」


 なぜか、鮎川さんの顔が真っ赤になっていた。

 もう酔ったのかな?





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