14 コンビニ二店目



 鮫島梨子の過去には色々と考えさせられるところがあった。

 モンスターとして働いていた頃は、オーバーロードは数年に一度のダンジョンの外を見ることができるチャンスだった。

 なにより、私のいたダンジョンのほとんどは、人のいない場所にばかり現れていた。

 いや、人の住める平地の少ない日本ではこれも仕方がないことなのかもしれない。

 なにより、人がいない場所といっても、そこは人に発見されない場所という意味ではない。

 私はダンジョンの設置に関われる身分ではなかったが、ダンジョンが置かれる場所の法則として、その世界の主要生命体に発見されない場所というのは許されなかったのではないかと思われる節がある。


 あの後スマホで調べてみたけれど、世界中でオーバーロードによる被害の報告があった。

 日本でも片手で数えるほどだが起きており、その被害は大型の地震に匹敵するものとなっている。

 日本人として、オーバーロードが起きることは避けるように努力すべきだろう。

 さて、ではオーバーロードが起きやすいダンジョンとはなにかということになるが、これははっきりしている。

 近場に五年以上残ったダンジョンが二つ以上ある時だ。

 距離としては雑感で、半径五キロぐらいだろう。


 で、五年というとこの間の吉祥寺ダンジョンが上げられる。

 不人気ダンジョンということで放置されているようだ。

 周囲にはそれぐらい過ぎたダンジョンはない。

 ネットで検索する限りでは、オーバーロードの条件が判明している様子はないが、なるべくダンジョンとダンジョンの距離を引き離そうとはしているようだ。


 魔石は現在の文明を動かす鍵だ。

 できれば安定供給ができる場所が欲しいという願いが、一部のダンジョンを長期的に保存させているのかもしれない。

 その割に、ウィキペでは人気がないとか書かれているが。


 そういえば、お隣さんはまたあのダンジョンにいるのだろうか?


「覗いてみるか」


 今度は透明を維持すれば問題ないだろう。

 なんなら、あそこにダンジョンコンビニの二号店を置くのもいいかもしれない。

 新宿ダンジョンは『新宿バース』が占有契約を結んでいるようだし、彼らは配信などで活動をアピールすることもないようだから、ダンジョンコンビニの宣伝になっていない。

 彼らのおかげで有用だと気付けば利用されることは判明しているので、他の人もやってくる吉祥寺ダンジョンで試してみよう。


 というわけで、設置した。




「はい、というわけで前回のトラブルではご心配をおかけしました。天之川ミミミです」


 吉祥寺ダンジョンの一階で、ミミミは撮影用ドローンに向かって挨拶する。


「前回は、本当に、申し訳ありませんでした。あの後、ユーネさんやインリンさんにも連絡して、謝罪をしています。集中して周りが見えるのはダメですね。気をつけます」



:ええんやで


:ミミミちゃんのゾーンは覚醒者的な性質だと思うんだよな


:オレたちはあの瞬間が好きなんや


:復帰おめ!


:おめー


:祝


:ダンジョンおじさんとはその後は?



「あ、あのおじさんとは、その後はお会いできていません」


 本当はお隣さんだったのだけれど、そのことは秘密にしてくれと頼まれてしまったので、黙っておく。


「何度だって感謝をしたいのですけど、残念です」



:そかー


:ダンジョンおじさん、すごいもんな


:もう一回見たいよな



「ええと、それでは今日も魔石を彫っていきたいと思います」



:それにしても、また吉祥寺ダンジョンで大丈夫?


:護衛がいるんじゃない?



「あっ、そうですね。気をつけたいと思います」



 実は、ちょうど撮影に行こうとしたところで、八瀬川に会っている。

 その時にあるお願いをされた。

 持っている自分の魔石を渡そうとするので、それはなんとか断ることができた。

 それで、今日はまだ換金していなかった魔石をアイテムボックスに入れている。


 覚醒者は能力を覚醒すると同時に、アイテムボックスという能力も手に入れている。

 これは正体不明の空間を使った収納なのだけれど、出し入れできるのは本人だけだし、その容量がどれぐらいかは個人差がある。

 ミミミは多い方で、いつも自分が掘っている魔石ぐらいなら三回分ぐらいは貯めておける。

 ミミミはDチューバーの中では中の下ぐらいの人気だけど、魔石の発掘量は多い方なので一度の魔石発掘で五百万円から一千万円は稼いでいる。


 とはいえ豊富な魔石鉱脈を備えたダンジョンというのはそこまで多くないので、毎日働けるわけでもない。

 掘れる場所がなく、歩き回ってその間に視聴者と話をするだけで終わる日も多い。

 向かっているのは前回と同じ魔石鉱脈だけれど、不人気ダンジョンとはいえもうあそこは枯れてしまっただろうと、視聴者と話していた。



:ところで、ミミミちゃんはソロで十階まで行けるのか?


:イけるぞ


:まぁ、その辺りがこの子の戦闘力だと限界だが


:謎の存在だよな鉱夫系覚醒者


:正式にはないんだろ


:んだんだ


:一応、覚醒者は戦闘系と生産系に分けられている


:鉱夫系は存在しない


:大きく分ければ、ミミミちゃんは戦闘系ということになる


:もしかして、不遇?


:んだな。


:他の奴でも魔石鉱脈の採掘はできるからな


:鉱夫系の方が、他よりも多く掘れるけど、この前みたいなことも起こるし


:鉱夫を守ってガチ採掘するなら、しっかりとパーティ組んだ方がいいけど、そうすると儲けが減るという


:ミミミちゃんはどうしてパーティを組まないんだ?


:バカヤロウ、ミミミちゃんにそんな社交性があると思うな!


:この間のコラボだって、超頑張っていたんだからな!


:彼女はオレたち陰キャの星なんだ!


:ていうか、ミミミ初見がいるな


:ダンジョンおじさん効果か?


:この前のコラボのおかげかも


:ミミミちゃんの上下運動だけが全てだと思うなよ!



「あれ?」


 視聴者同士のやり取りをチラ見しながら進んでいると、もうすぐ二階のエリアに入るという辺りでそれがあった。

 あそこはちょっとだけ空間が広がっているから、それが置けるといえば、置ける。

 だけど、こんなところにそんなものが?


「コンビニ?」



:はっ?


:w


:ついにダンジョンにまでコンビニが進出してきたw


:どこよ?


:見たことないな


:ダンジョンコンビニ吉祥寺店だとwwww


:ていうか、文字がダンジョン文字だな


:なんだそれ?


:知らない文字なのに、読めてしまう


:そういうのをダンジョン文字っていうんだ


:正確には『万能言語』な。勝手な造語を作るな


:グハ


:恥ずか死w w


:え? ミミミちゃん、入るの?


:やばいw w


:新種のミミックかもしれんからやめとけ


:イケイケw w



 八瀬川さんの言っていたのは、きっとこの場所のことだ。

 恐々と中に入り、ゴーレムと思しき店員に店の説明を受けてそう思った。

 魔石をお金に変えて物を買う。

 つまり最初からある程度の魔石を持っていないと、利用することもできない。

 八瀬川さんとこの謎の店にどんな関係があるのかわからないけれど、利用して欲しいのだろうと信じてメニューを見る。


 持ってきた魔石は一万魔石となった。


 どうせ使うのなら、ちゃんと宣伝にならないといけない。

 ただ買うだけではダメだ。

 ちゃんと役に立たせないと。

 そう考えると、バフ系の飲食物はミミミには用がないように思える。

 回復はいざという時に欲しいけれど、使わずに終わってしまうかもしれない。

 蘇生?

 いや、そもそも一人なので死んだらお終いだし。

 しかも高くて買えない。

 となると、ゴーレム?


「あの、私、魔石鉱脈を採掘に来ていて、このゴーレムだったら、あの……」

「ゴーレムですね。採掘作業の補助目的でしたら、防衛か荷物持ちがおすすめですよ。防衛でしたらモンスターに不意打ちされることを防ぎますし、移動中のモンスターの襲撃からもお守りします。荷物持ちはその名の通り、取りすぎてしまった魔石やドロップ品をダンジョンの一階出入り口付近まで運ぶお手伝いをします。どちらも稼働時間は最大八時間、あるいはダンジョン脱出で契約終了となり消滅しますので、お気をつけください」

「は、はい!」


 まさかそんなに流暢に説明されるとは思わなかったのでびっくりした。



:あれ?


:これ、その通りの能力ならミミミちゃんめっちゃたすかる?


:だよなぁ


:いいじゃん


:レンタルしちゃいなYO!



「それじゃあ」


 ということで護衛のゴーレムを二体借りることにした。

 二体いればスプリガンジャイアントに襲われても、逃げる時間を稼いでくれるかもしれない。

 アイテムボックスは大きい方なので、要らないと思った。

 これで役に立ってくれたら、八瀬川さんのお役に立てる。

 そう信じて、ミミミはダンジョンを進む。

 途中で襲いかかってきたドワーフたちを防衛ゴーレムは簡単に倒していく。



:うっは


:マジか


:強っ



 十階。

 コラボで使った場所の魔石鉱脈は枯れてしまっていたので、次を求めて深いところに向かう。



:ミミミちゃんが奥に、奥に〜


:そこはもうソロ不可ゾーン


:他の鉱夫系覚醒者も、ソロだと近づかないぞ


:だから、鉱脈が残ってる可能性もあるんだけど



 防衛ゴーレムは十階以降のエリアにいるモンスターも問題なく倒していく。

 アイアンイーターという巨大カタツムリも、足の多いダンジョンビッグゲジも、パワーアップしたドワーフファイターも防衛ゴーレムの相手ではなかった。



:あれ?


:こいつらがモンスターを倒すと魔石とかが出ないな


:ゴーレムに倒させるのは損だな


:どっちにしてもミミミちゃんが倒せないモンスターだからな


:んだな


:こうなったら鉱脈を見つけて掘りまくるしかないな


:がんばえ〜



 そして十五階エリア。

 ついに魔石鉱脈を見つけた。


「あったー! やります!」


 見つけたのが嬉しくて、ミミミは愛用の金メッキツルハシを持って魔石鉱脈に突っ込んでいった。

 その日のミミミの採掘時間は最長記録を更新し、そのダイナミック上下運動の長さに多くの視聴者が昇天したのだった。




「うん」


 視聴者の一人として様子を見ていたけれど、ゴーレムの反応は上々のようだ。

 ミミミのような戦闘をしない覚醒者であっても百万円をポンと出せることに驚いたが、その効果はちゃんと値段以上の成果を見せている。


 そして、ゴーレムが魔物を倒すと魔石を発生させないということに気づいた者もいた。

 その辺りのデメリットもちゃんと理解して使ってもらえると嬉しい。

『新宿バース』はその辺りを理解して、なるべくとどめは自分たちがするように立ち回っているので、ああいう風になって欲しいものだ。


 クレームを受け付ける場所を設けるつもりはないが、たまにはこういう配信を見て、修正をしていけばいいだろう。


 とにかく、ミミミの配信のおかげで鉱夫系覚醒者はダンジョンコンビニを利用してくれるようになるはずだ。

 三号店以降は、魔石鉱脈が多いダンジョンを狙って設置するとしよう。



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