11 覚醒者にあらず
残念。
鮫島さんに案内されてここに来た時から、いくつかのパターンを予測していた。
その中で一番よかったのが『実は覚醒者でした』だったのだけれど、そのパターンは使えないことが確定してしまった。
たぶん無理だろうなとは思っていたのだけど、もしかしたら機械がエラー的に判定してくれるかなって思ったんだけどね。
やっぱり無理だった。
さて、ではどうしたものか。
「あなたは、何者ですか?」
職員を後方に下げながら鮫島さんが問う。
完全に警戒されている。
「動画が加工だったという可能性は?」
「ありません。すでに複数の専門家に調査を依頼し、合成ではないことが確定しています」
「そうですか。では、次にお尋ねしますが、私が覚醒者でなかった場合、あなた方はどうするつもりなのですか?」
最善が無理なら次善のパターンに持っていきたいのだけれど、それはこの後の彼女たちの反応次第なんだよな。
「どうする、とは?」
「犯罪者として捕まえますか? 覚醒者でない者がダンジョンに入った場合はたしか、建造物侵入罪が適用されるのだったと思いますが、モンスターを倒したことを器物損壊罪とするわけにはいかないでしょう?」
「それは……」
ダンジョン周りのことは一応スマホで調べてはいた。
日本国内に発生したダンジョンは、暫定的に日本の所有物件とする、ということになっている。
そうでなければ、どこに出現するかわからないダンジョンの扱いで無数の裁判が発生することになるし、D省による隔離作業などにも停滞が発生する。
そしてD省は、ダンジョンへの侵入を覚醒者しか行えないようにしている。
なので、日本国所有のダンジョンへの不法侵入は建造物侵入罪となる。
「三年以下の懲役か十万円以下の罰金ということですよね。できれば罰金で勘弁していただきたいのですが」
「待ってください」
「はい」
私の言葉に驚いたのか、鮫島さんが待ったをかけた。
「私たちが問題視しているのは、あなたの能力です」
だよねぇ。
知ってる。
だけど、私がただ強いというだけで、それを罰する法律なんて日本にはない。
……ないよね?
ないはず。
「そうですか」
「あなたは、どうしてあんなことができたのですか?」
「さあ?」
「さあ⁉︎」
「最近、仕事を辞めてリフレッシュしていたので、そのせいでしょうか」
「そんなわけ」
だよねぇ。
でも『実はダンジョンモンスターに転生して百年働いてクビにされて帰ってきたばかりなんです』なんて言えるわけもない。
ダンジョンモンスターだということがバレたら、どうなることやら。
あるいはバラしてもいいのかもしれないけれど……彼女というより国がどういう反応をするのかがわからない。
実験動物扱いされたら逆らうだろうし、かといって監視付きの生活がしたいわけでもない。
チヤホヤ……はされたいかもしれないが、なんだかすぐに飽きそうな気もする。
そういうのは、ラスボス時代より前の中ボス時代にけっこうされていた。
他のモンスターとの関わりがけっこうあったからな。
たすけたりたすけられたりとか色々あった。
ラスボスになってからは、私のやり方にも問題あったかもしれないが、他のモンスターとは没交渉になってしまった。
しかしそれは私の前のラスボスもそうだったので、ラスボスというものはそもそもそういうものなのだろうとぐらいにしか思わなかったのだが。
ラスボスだからね、最後の間から迂闊に出るわけにもいかないのよ。
「一般人がスプリガンジャイアントにあんなことをできるはずがない! それでは覚醒者の意味が……」
「だけど、私は覚醒者ではない。国の基準である判定機によって、そう断じられてしまった」
「それは……」
「ええと、主題が迷子になっているようなので話を戻したいのですが、私をどうしたいのですか? 私は覚醒者ではない自分がダンジョンに入ったから咎められると思っていたのですが、違ったのですか?」
「それは……」
鮫島さんは言葉を詰まらせる。
彼女は私を覚醒者だと思っていた。機械がその判定を下すと。
その前提が崩れてしまったせいで、混乱しているのは明らかだ。
「……わかりました」
やっと鮫島さんは混乱から立ち直ったようだ。
「今日はお帰りください。ダンジョンへの無断侵入の件に付きましては、また後日、別の部署から連絡があるかもしれません」
「わかりました」
撤退したか。
まぁ、そうだろうな。
当初の目論見が外れたのだから、作戦を考え直すことにしたのか。
しかし、すぐに国に目をつけられるとか、とんだドジをしてしまった。
どうしたものかな。
やっぱり姿を変えてやり直すか?
ダンジョンで死亡した覚醒者とすり替わるなんて方法もあるな。
「えっ!」
鮫島さんの先導でD省の外に出たところで、彼女がスマホを取り出し、なにかを見た。
メールか?
そしていきなり振り返ると、私の腕を掴んで引っ張る。
「付いて来てください!」
「は? え?」
そしてそのまま、車に乗せられた。
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