04 吉祥寺ダンジョン
吉祥寺ダンジョンは天然地下洞型のダンジョンである。
公式での踏破階は三十八階。
アンテナの設営によって、一部の通信キャリアが三十階までは使用可能となっている。
魔石鉱脈の多さと再出現の頻度が高いものの、モンスターの強さに定評があり、採掘に集中していると襲われる危険があるため、人気度で言えばそれほど高くはない。
とウィキペに書かれている。
出かけるための服が見つからなかったので、用無しになっているスーツを着ていくことにした。
どちらにしても姿を消しているのだから、格好なんてなんだろうと関係がない。
ドラゴン時代は裸みたいなものだった。
だからといって、人間状態で真っ裸になりたいわけではないが。
ダンジョンの入り口は簡易的な建物で囲われている。
いわゆるコンビニ的な、早く建築できることを優先しているような建物だ。
ダンジョンの入り口は光の渦になっており、その姿はとても目立つ。剥き出しにするのは目立つ上に市民の不安を煽るということで、こういう建物で覆っているのだそうだ。
入り口には鍵がかけられており、ダンジョン省……通称D省の発行する覚醒者カードをかざせば開けることができるらしい。
そんなものは持っていないので、透過の魔法ですり抜ける。
監視カメラを注意して近づく前から透明になっているので、私の姿が記録に残ることはないだろう。
光の渦は問題なく抜けることができた。
出てきた先は、ウィキペにある通りの地下洞窟のようだった。
冷え切った湿度が肌に心地よく染み込む。
「ふむ、さて、どうなるか」
地下道はほぼ一直線の道となって続いている。
ある段階まで進むと、壁に日本語でも英語でもない文字が刻まれていた。
異世界の文字。
より正確には、ダンジョンを創造する上位者たちの文字だ。
意味は二階だ。
どうやら階層ごとにボスを置くタイプのダンジョンではないらしい。
ここに来るまでに監視カメラの類はなかったので、透明の魔法を解除して、さらに下を目指す。
「お、ようやくか」
モンスターが姿を見せた。
出てきたのはドワーフ型のモンスターだ。
というか、ドワーフか。
背が小さく、髭が多い。
だが、その体は筋肉が詰まっている。
ドワーフは私の姿を確認すると手にした斧で襲いかかってきた。
とりあえず裏拳で薙ぎ払う。
斧ごと頭部が粉砕したドワーフは、そのまま砂のように崩れていった。
その姿を眺めていたのだが、やはり魔石はない。
「やはりか」
前にも言ったが、ダンジョンモンスター同士で争っても死後に魔石が残ることはない。
おそらく、魔石として残るはずの魔素が勝者のダンジョンモンスターに吸収されるからだ。
それが経験値的なものとなっているのだろう。
とはいえ、ダンジョンモンスター同士の戦いは基本行えない。
ダンジョンモンスターが倒されると、再度の出現にはコストがかかる。
コストの正体がなにかは知らないが、上位者が負担するものであることは確かだ。
私たちの上位者だった女神はコストのことでうるさかった。
クビになった理由もコストだしな。
そんな風に襲いかかるドワーフを薙ぎ払いながら進んでいると十階に到着した。
ウィキペによると、吉祥寺ダンジョンの魔石鉱脈は十階から出現するようになるらしい。
この辺りから狭い洞窟の一本道から、複数の道に分かれて迷宮的な様相となり始める。
三本に分かれていた道の左端を選んで突き進んでいくと、すぐに魔石鉱脈を発見した。
「ふむ」
青の魔石が洞窟の壁に大量に張り付いている。
何度かノックのように叩き、それから拳で殴ってみた。
だが、鎧で身を固めたドワーフでさえも簡単に砕く拳でも、魔石鉱脈はびくともしなかった
「やはり、ダメか」
上位者からの支配から脱していても、私という存在はいまだにダンジョンモンスターのままのようだ。
覚醒者となってダンジョン攻略をすることができるなら、それが一番、今の自分に合っていると思ったのだけれど。
「困ったな」
魔石を手に入れられるなら、アイテムボックス内でやれることがあったのだけれど。
私がダンジョンのラスボスとしてやっていたのは、補助魔法による支援だけではない。
ダンジョンモンスターに新しい装備を与えたり、ゴーレムを製造して派遣したりしていた。
進化と成長の過程で手に入れた能力や魔法の中に、アイテムボックスというものがある。
そのアイテムボックス内に入れた物を加工できるクラフト能力がある。
それでダンジョンに侵入した冒険者や攻略者、地球では覚醒者と呼ばれている彼らが捨てたり落としたり、あるいは死亡して残した荷物を素材にして、武器や防具、ゴーレムを作っていた。
魔石もその時に手に入れていたのだが、魔石はあればあるほど様々なものを作ることのできる万能素材なのだ。
「なんとか手に入れる方法はないものか」
ダンジョンから剥離した状態となれば、ダンジョンモンスターでも手に入れられることは判明している。
「覚醒者から手に入れる方法か」
そんなことを考えていると、悲鳴が聞こえた。
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