2.レシオ(2)
「休校のことは知っていると思うが、あくまで今週末からだからその間に“
転泊届とは在校生が学校を離れる際に書く、届け出のことだ。例え行き先が実家でも、転泊届を書く必要がある。“目的”、“どこに行くか”、“何日そこにいるか”、“学校からそこまでの経路”を書き、
生活委員会は、全校生徒の生活全般を担当する委員会だ。生活委員会に所属する生徒が全校生徒の情報を整理して、次にその情報が必要な委員会に提供する。この場合、
俺は保健委員だったけど。健康診断の情報どころか中学校以前の情報がろくになくてレシオが
今のところ、レシオの立ち上げた“相談所”に所属している。真弘は一年生の頃から逃げ回っていたため、委員会に所属していない。レシオはどの委員会でもクーリングオフされていた。巽はバックレてどこの委員会か憶えていない。
「せんせー、目的ってとこ、どう書けばいいの?」
「“寮修繕のため”って書いとけ」
「友也、リョーシューゼンってどう書くの?」
「……こいつ」
「友也んち泊まっていい?」
「はぁー、好きにしろよ」
レシオには家族がいない。それは一年生の時、保健委員をはく奪された俺にレシオが打ち明けたことだった。
「俺さ、親いないんだよね。憶えてるのは冷たい水槽の中と白衣の人たち。実験のためにここに入学させられたんだ。でも……」
そんな話を聞いて、学年に何人かいる“
下を向いていたレシオだったけど、すぐに顔をばっとあげる。
「俺に記憶の一部をくれた人は、友達とバカやってて、そんで笑ってた。だからかな、俺を助けてくれた重森くんの友達になりたい。俺の初めての友達は重森くんがいいな!」
その時照れくさそうに笑うレシオの顔は今でも忘れない。その日から俺たちは友達になったんだ。そこから心配性の真弘に俺たちを気に入った巽。そうして俺たちは一年経った今でもこうして集まっている。
「俺、なにも憶えてないけど、これから楽しい思い出をたくさん作る! そんでみんな好きになるような音楽を作りたい!」
そんなレシオが当時の俺にとって救いだった。こいつといれば、俺は彼のことを忘れなくてもいいんだって思えた。英雄はもういないけど、俺を必要としてくれる人がいる。それだけで今はそれでいいと思ったんだ。
「レシオ、実家は?」
「ない! ロケランぶち込んだ!」
「結局、友也はどこ行くんだ?」
「おじさんちでも行こうと思う」
おじさんは俺のすごく遠縁の親戚。37歳で、自称スパイ。実家には巽が寄り付かないので、最終手段に出る。
おじさんの家はリノベーションされた武家屋敷で、俺の避難先だった。少し脱線するけど、実家の近所に三人兄妹がいて、長男と妹がイチャイチャしてて気持ち悪かった。真ん中の次男くんは時間が経つごとに笑わなくなっていった。
長男くんが次男くんを構う。すぐに妹が来て兄に構って欲しがる。次男くん完全に当て馬状態。徐々に次男くんの表情から笑顔が失われてきて、ヤバいと思った俺は次男くんをおじさんに紹介して、おじさんに引き取られることになった。という経緯があり、ちょっとばかし気になっていたところだ。
「実家には?」
「帰らん」
「俺も行くー! おじさん優しいし、友也のこと可愛がってくれるし!」
クラス内でもどこに行くか、この機に応じて旅行でもするかという会話が展開されている。
「友也のおじさん!? いえーい! 和食食いてー」
はしゃぐレシオ。
「話はまとまったか? 今週の金曜日までに生活委員会に提出しておけよ」
有澤先生が“自習”と大きく黒板に書く。
「これからは転泊届書く時間だから、県外のやつらはきっちり書くように!」
クラスの数名からうめき声が出る。全寮制だから千葉以外からも来る生徒が多く、実家が京都の鷹宮は遠い目をしていた。
「俺、千葉のビジホに泊まるわ」
「落ち着け、
レシオはわくわくした様子で、「PS5持ってこー」とご機嫌だ。ちなみにレシオの現在の家は、
姫野さんは怪我をするとガチギレするので、野生児(小学生)はいつもお世話になっている。その中にレシオが入っているのは何故だろう。
「真弘はいいのか?」
「あー……。メール送ったけど、返事がない。巽は?」
「面白そうだから行く」
「それと、休校中、学校で職員の重要な会議がある。その間、学校は開かないし、水上リニアモノレールも休止だ。“畑”があるからって残るんじゃねえぞ」
こうして自習中、俺たちは転泊届を黙々と書いていた。
「よっしゃ書き終えた!」
レシオはそう言うと、転泊届を書き終えて有澤先生に提出していた。
「珍しいな久我がいちば……字汚っ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます