終章:広報さんと魔王さま
午前九時頃、上空に曇天が広がる下に聳えるのは、冒険者ギルド本部。
そこは数多の冒険者を排出し、日本の防衛の中枢を担う国家防衛部隊である。中でもSランク冒険者である皇暖赤は、人類の希望とも称される最強の人物だ。
魔王たちと総理たちの会議の翌日。そんな人物が最前線で侵攻を妨げている。
「魔王を出せ!」「ちゃんと説明しろー!」「パレードって何の話だーっ!」
これが人間からの侵攻でなかったら、どんなに良かったことだろう。
と、彼女は一人でに思う。
今、冒険者ギルドと国会議事堂の前では大規模なデモが行われている。
それを抑圧するために彼女が前線に立って、冒険者ギルドを覆うように防御魔法を展開し守っているのだ。
「ギルドと魔王は繋がりがあったのか!」「神や妖精も来てるなんて聞いてないぞ!」
冒険者たるもの、民衆を守って然りだ。
それを何が悲しくて、民衆から攻撃を受けねばならないのだ。
「みなさん、落ち着いてください!説明はギルドより正式に声明文を出しますので!」
「ふざけるな!それなら今すぐにギルド長が説明しろー!」
どうしてこんなことになったのか。
その理由は昨日まで遡る。
翌日にパレードを開催することになった川春たちは、それぞれあるだけの人脈へと連絡を回して手配を始めている。
「あの、すみません。ご歓談中のところ申し訳ないんですが、ひとつご相談があります」
「あら、なにかしら。角くん」
真央、ケイト、デウスの三人で話しているところに、単身で話しかけに行くのは相当に勇気がいることではあるのだが、彼にはそうしなければならない理由があるのだ。
「お三方の写真をツイッターに載せたいのですがよろしいでしょうか?」
「私は大丈夫だよー!」
「シャシン?ツイッター?とはなにかな?」
即座に応答した真央はさておき、デウスとケイトには説明が必要そうだ。なにぶん人間界に来たばかりなのだから仕方ない。
「写真って言うのは、ある場面を切り取って一枚の絵として残す技術で、ツイッターは人間の情報網って感じ!」
川春が答えるよりも先に真央が噛み砕いた説明をする。
「ふむ、つまり僕たちの存在を人間たちに知らせるという事だね」
「そういうことです!この三人の笑顔を見れば、人間側にある妖精や神、魔族に対する恐怖の先入観は抜けますよ!」
「あら、いい絵ね。これが写真という技術なのかしら。ぜひ、うちの世界にも持って帰りたい技術だわ」
川春が先刻にスマホで隠し撮りをしていた一枚の写真を彼らに見せる。本来であれば、一言の断りを入れてから撮影をするべきなのだが、そんなことよりも収めなければいけない一枚がそこにはあったのだ。
「それなら使っても構わないわ。それより角くん、ここに来る途中で、その、良いニオイが街に漂っていたんだけど、なにかわかるかしら?」
「いいニオイですか・・・?」
「そうだね。たしか『ラーメン』と書いてあったような・・・おそらくケイトはそれを食べたいんじゃないかな?」
「あ~!ラーメンですか!色々と系統があるんですけど、どういうものがお好みなんですか?具体的に言うと・・・」
川春たちがラーメンの話題で盛り上がっているところを不安げな表情で見つめる国のトップたち。その中でも、ひときわ動揺しているのは原田大臣だ。
「いかがされましたか。体調が悪いのであれば少しお休みになってはどうでしょうか」
「ああ。早苗くん、悪いね。だ、だがこれは必要な事なのだろう?であれば、仕方のない事なんだ。そう仕方がない。どうせ誰が仕組んだのかは分からないのだから・・・」
早苗が話しかけると、顔色の悪い原田大臣はなにやら独り言を呟き始める。なにぶん、前例のない事態であるため狼狽えるのは当たり前と言えよう。
「原田くん、大丈夫かい?いやはやびっくりしたね。この世界の真実が間違って伝わっているとはねえ」
「そ、総理。そうでございますね。わ、私も驚きましたよ。これでは教科書の内容も変えないといけませんね」
「ええ、そうですね。文科省の大臣である君には苦労をかけるよ」
「ねえねえ!岸辺総理!人間界にはさ、間違った歴史を伝える童話とか、教科書ってものがあるんでしょ?それってなんとかならない?」
岸辺総理大臣と原田文科大臣の会話に割って入ったのは、ラーメンの話に飽きてしまった真央だ。
もとい、これは『神と妖精の乱入』という多少のイレギュラーがあったとはいえ、全て川春の計画のうちで起こした行動である。
「ああ、魔王様。いや、真央さんと呼んでも良いのかな?」
「もっちろん!さっすが、総理はわかってるね~!」
なんともわざとらしい台詞ではあるが、彼女なりにこの後に起こるだろう事態に備えて少しでも場を明るく保とうという考えだ。
「はっはっは!ありがとうございます。ですが、その件についてはこちらの原田大臣と話をした方が良いですな」
こと人間界においては文部科学省が教育の全権を握っており、童話の作成から学生の教育のための書物、果ては国営放送の教育番組の構成を担っている。
「あ~、原田さんか!よろしくね!気軽に真央って呼んでよ!」
「よ、よろしくお願いします。ま、魔王様・・・代々に渡り、文科省の大臣を務めております、原田権蔵と申します」
真央自身は気丈に振る舞ってはいるが、原田大臣の目の前に居るのは一国どころか一世界の王だ。彼が緊張し委縮するのも当然と言えよう。
「それでさ!この国の歴史書とかを改定するでしょ?それなら資料が沢山あった方が良いと思って!」
「そ、そうですな!資料は多いに越したことは無いですね!」
「そうだよね!それじゃあ・・・」
真央はそう言って川春の台本通りに、空中に手を突っ込んで姿見を取り出す。
「取り出したるは真実の鏡・・・」
なんとも仰々しい台詞に、その場の誰もが振り返りその鏡を見つめる。
「いやはや、これはなんとも素晴らしい鏡ですな。どこぞの逸品で?」
「岸辺総理はお目が高いね~。これは魔族のとある工房で作られたものだよ!今度来た時に買っていってよ!」
「はっはっは!もちろんですとも!して、真実の鏡という名前なのはなぜなのですか?」
岸辺総理に問いかけられた真央はしたり顔で口を開く。
「ふっふっふ。これはその人の魔力に残った記憶を、強制的に出力できる鏡なんだよ~!凄いでしょ!」
「なるほど!では隠し事は問答無用で暴かれ、真実のみが映し出されると!実に画期的な魔道具ですな!」
総理が感心したように姿見をまじまじと見つめる。が、その傍らで上村大臣も食い入るようにその魔道具を見つめる。
「真央ちゃん!これっって、出力する過程で一部を改変したりは出来るんですか?」
さすがは魔法省を任されている大臣とでも言うべきだろう。着眼点が他の人とは違うらしく、その構造に興味を示したらしい。
「それは出来ないね!なんなら証明してあげようか」
そう言って真央はあたりを見回して、実験台を探すふりをする。
そして、ターゲットを選定し終えたかのような雰囲気を出して、少しの間を置いた後に口を開く。
「じゃあ、原田さんにしようかな!」
「え?えーっと、なにがですか?」
「なにって、今からこの鏡の信憑性を証明するために、実験台になってもらうんだよ!」
「それは良い考えですね!私もこの魔道具の構造が気になりますし!人間界でも発明できたら犯罪の解明率が上がりますからね!」
上村大臣が興奮気味に鼻を鳴らしながら、真央と原田大臣の方をキラキラとした眼差しで見つめている。
「そ、それはちょっと・・・」
「え?ダメ?そこの川春は自分の一番恥ずかしいところを晒されてるんだよ?一般人ができることを大臣と呼ばれてる人はやらないの?」
その言葉に過敏に反応したのは暖赤と美月だった。
「原田大臣、やるべき。この魔道具は国の未来」
「美月殿の意見に私も賛成だ。今回の護衛の報酬は要らないからやっては貰えぬか?これがあれば川春の恥ずかしいところが見られるのだ」
詰め寄る二人に狼狽える原田大臣。国が誇るトップの冒険者二人に、報酬は要らない、国の未来のためと言われては、やらざるを得ない流れになってしまう。
「お、お二人の考えは分かりましたが、私には荷が重いかと・・・」
「ふ~ん?真実を知られるのが怖いの?まさか横領とかしちゃってる感じ?」
真央が隙を見逃さずに煽りを入れると、
「そ、そんなことをするものか!なんなら私が一番隠したい事でも映し出すといい!」
と、激高しながら言った後に、青ざめる。
が、もう遅かった。
「言質は取ったからね!じゃあ、映しま~す」
◆◆◆
原田権蔵は代々文部科学省の大臣を務める家系、原田家にて生を受けた。
日本家屋、と呼ぶにふさわしいその家には現在、客室以外に人影はなく、その部屋では原田権蔵本人と、その父親である原田太郎が密談をしているようだ。
「父上。この度、私、権蔵は正式に文科省の大臣に就任いたしました。つきましては、家訓である『悪こそ平和の象徴』の真意をお教えいただきたく存じます」
この世界では総理が失脚したとしても、各省の大臣は解散されず、席は固定されたままとなっており、基本的には世襲制となっている。
そのため、親が子に自分のポジションを空けることはよくあることだ。
「うむ。では権蔵よ。お前はその意味をどう解釈している」
二の間にてスーツ姿で正座をしている権蔵を見下ろすように、袴を着た厳格そうな雰囲気の老人が一の間から問いかける。
「悪を討とうとする気概、姿勢そのものが平和に進むものだ、と考えております」
「良い回答だ。が、五十点だな」
「どういうことでしょうか」
己が自信を持っている回答に対して、採点が半分しかもらえないことに疑問を示す権蔵。
「この世界が魔族に侵攻されている、というのは嘘だ」
「そ、それは、どういう・・・」
「この世界は一度、世界平和を成している。それに魔族、妖精、神たちとも平和条約を締結している」
「え・・・は・・・?」
理解が追い付かない権蔵は相槌とともに空気を吸い込むことしかできない。
「良いか、権蔵よ。魔族を悪と断定するのだ。悪を作れば、人間は平和に向かって突き進むのだ」
「り、理解は出来ますが、納得は出来かねます」
普段なら温和で心優しき大臣として、国民からも支持を得ている太郎だが、いまこの場では凄まじいまでの圧を感じる。まるで『自分の言う事こそが正義だ』とでも言うような。
「青いな、権蔵よ。真実を知ったところで、辿るのは衰退の一途だ。ならばこそ、金が回り、民草が一丸となるような虚実を考えねばならないのだ」
「・・・!父上!ということは、あの歴史は・・・!」
何かに気付いた権蔵が父親に対して、言を発しようとしたところ、それを遮るかのように太郎が口を開く。
「皆まで言うな、権蔵よ。私たち原田家は人間の目標とビジネスを作っているのだ。そのために歴代に渡って、歴史書や教科書を自由に編纂できる文科省の大臣をやっているのだからな」
「そ、そんな・・・」
この時、彼の心の中から、抜けてはいけない感情が抜けていった。それがなんだったのか、今ではもはや思い出せない。
だが、この国が発展するためなら、そんな欠落は構わない。
それは原田権蔵三十五歳の、若いながらも確かな決意だった。
◆◆◆
「ふ~ん、この世界の歴史を歪めたのはキミたち一家だったことね」
一通りの映像を見終わったところで、何も言えない周囲の人たちに代わって真央が開口を一番にする。
「ち、違う!こんなものはでたらめだ!この世界は魔王を討ったことで、魔族から怒りを買い、侵攻されているのだ!」
「あら、今のを晒されて気が動転したのかしら?」
「認めないぞ!こんな鏡が真実を映すなんて嘘っぱちだ!」
ケイトに煽られたのが癇に障ったのか、大きな声で糾弾する原田大臣だが、その姿こそが先の映像が真実だと物語っているに等しい。
「そっか~。信じられないなら、ここにいるみんなの恥ずかしいところを、順番に映していけばいいかな?」
この場にいる者のほとんどが半信半疑で、どちらが本当のことを言っているのか分からないようで、真央か原田大臣のどちらを擁護するか決めかねているようだ。
「まずは川春のやつ・・・っと」と、真央が鏡に向かって指をちょいと振ると、映像が切り替わり、
『あ~^赤たん、かわちいね~』
と、いつの日かの川春の姿が映し出される。
「お、おい!なにやってんだよ!やめろって!公衆の面前で恥をかかせるな!」
「え~、だって~・・・じゃあ、ハルカちゃんのにする・・・」
川春に揺さぶられている真央がそう言うと、またも鏡に映し出される映像が切り替わり、
『か、川春~~~っ!なんでお前はそんなにカッコいいんだ!あーっ!もう抑えきれん!きゃーーーっ!!!』
そこには、部屋着でベッドにうずくまり、冒険者ギルドの公式のユーチューブを見ながら悶えている暖赤の姿が映し出される。
「や、やめろぉぉぉおおお!こ、これはどんな罰なのだ!私がなにをしたと言うんだ!」
川春に続いて、暖赤も真央のことを止めに入る。が、
「え~、これもダメなの~?」
真央に制止の言葉は効いていない様子で、またもや指をちょい、と振る。
『ふ~、休みの日はこれに限るな!コンビニ限定スイーツの食べ比べ!どれがお酒に一番合うのかな~・・・・・・なにやってんだ、私・・・』
次に映し出されたのは早苗がコンビニスイーツを食べ比べて、一通り食べ終えたところで無に帰っている映像だった。
残念だ。非常に残念な三十路間近の独身女性の休日である。
「ま、真央さん!?や、やめていただけると幸いなのですが!?」
冷静沈着で通っている早苗がここまで取り乱すとは、よほど知られたくない姿だったのだろう。顔を真っ赤にして真央に掴みかかる勢いで、彼女の肩を揺さぶっている。
「ま、真央さん、そこらへんにしてやってください。私はこの映像が本物だと信じますよ」
「さすが岸辺総理!話が分かるね!」
「ええ、悠木くんの狼狽える姿からして、本当の映像なのだろう?」
「うん、そうだよ!私が保証する!」
「そうかそうか。それでは試しに、私の映像も映してくれないかな。疑うわけでは無いのだけれど、やはりこういうのは体験してみるのが一番だろう」
そう言って岸辺総理が姿見の前に歩を進める。その姿には怖いもの見たさと、わずかながらの猜疑心があるように思える。
「いいの?一番恥ずかしいところを映すよ?」
「あ、ああ、構わないとも」
岸辺総理の返事を聞いた真央が、指を振ると映像が切り替わる。
『あ~^赤たんかわちいね~!今日も人間国宝!おじさん、スパチャ投げちゃう!・・・いや、違うんだ。登美子、これは人々がどんなものに興味があるのか、少し個人的に調査をしているだけだ』
なんということでしょう。Vtuberの配信を見ていたら奥さんが入ってきて、気まずい雰囲気になっているところを、必死に弁明する総理の姿など誰が想像しただろうか。
「くっ・・・殺せ・・・!」
「なんでおっさんがくっ殺騎士みたいになってんだよ!」なんて、大変に失礼なツッコミを既のところで留まった川春。それと同時に親近感も感じてしまう。が、周囲が静まり返っていることも相まって、軽い地獄絵図だ。
「そろそろ本物だって信じてくれた?」
「も、もちろんだとも・・・少しばかり疑っていたことを許してほしい」
岸辺総理の言葉を聞くと、真央は指を弾いて鏡の映像を中断させる。真実の鏡とはよく言ったもので、この魔道具は彼女が指定した物事を、指定した人物の持つ魔力の波長から読み取って、投影させるらしい。
それならばウソなんて吐けるはずがない。魔力に意思など無いのだから。
「えーっと、それじゃあ、原田さんはどうするの?私的にはぜんぜん許してあげても良いけど」
「コホン。それについては、彼には辞任および、裁判にかけられてもらいます」
岸辺総理が正気を取り戻すために、軽く咳払いをしてから意見を述べる。
「待ちなさい。私たちは許すとは言ってないわよ。私の大切な友達を傷つけて、ただで済むと思ってるのかしら」
「そうだね。僕としても、少しばかり思うところがあるよ」
黒幕が分かったところで、憤りを向けるべき相手がはっきりし、初対面時のプレッシャーが二人から漏れ出ている。
「ひっ・・・ま、待ってください、私は父の言いつけを守っただけで・・・」
「それは分かってるわ。貴方の中に正義があることも分かった。でも私の中にも正義はあるの。衝突は避けられないわよ」
ケイトの言葉を肯定するようにデウスが頭を振る。が、彼女らの前に割って入った人物が一人いた。
「お、お待ちください!ケイト様、デウス様!」
この世のものとは思えないほどの覇気を発する二人と、原田大臣の間に言葉を挟んだのは、他ならぬ川春であった。
「あら、角くん。どきなさい。真央が認めた男を殺したくはないかしら」
「そうだとも。五百年ぶりに彼女が認めた人間を私たちに殺させないでくれ」
「ま、待ってください!裁判を待たずとも、すでに周知の事実になってますので!大丈夫です!しっかりと人間たちに黒幕が誰なのかが伝わってます!」
そう早口に捲し立てる彼の行動は必死そのものだ。この世界の最強格の人間がキズ一つつけられない相手の、本気のオーラを前にすれば当然のことと言えるが。
「どういうことかしら」
「実は配信のおまけとして、オフショットを一時間ほど放送するのが、冒険者ギルドのチャンネルのお決まりでして、今までの一部始終が世界に向けて配信されているんです!」
川春が証拠と言わんばかりに、自身のスマホに映している配信画面を、ケイトとデウスの二人が見えるように向ける。
「ほう・・・この同時接続者数というのはなにかな?」
「これは今現在、世界で何人の人間がこの配信を見ているか、という数字です。つまり、この瞬間に百八十万人の人間が真実を知ったということです!」
デウスの質問を『待ってました』とばかりに、川春は意気揚々と答える。全世界の人口は八十億人と考えれば、百八十万人というのは小さな数字である。が、正史の目撃者の証言者の数と捉えれば、これほど雄弁な数字は他にないであろう。が、
「角くん、あなたは一つ思い違いをしているわ」
それを遮るようにケイトが口を開く。
「私たちは正しい歴史を知る人間が増えた喜びよりも、大切な友人が傷つけられたことへの怒りが勝っているの」
彼女の言い分は正しい。
古くから付き合いのある友人が、実は他の誰かに傷つけられていたなんて知ったら、黙っている方が難しい。
「ケイト様の言い分はごもっともです。しかし、ここで人間を殺してしまっては、和平さんの言っていた平和とは逆を向いてしまう気がして!」
川春は振り絞るような声で、二人に向き直ると言葉を続ける。
「だから、ここは退きません!いえ、意地でも退けません!」
川春の言葉にケイトが揺らぐ。和平が言っていた「皆が幸せになる」ことは、どの種族が衝突をしても成し得ない。
例えば、この場で原田大臣を殺したとして、妖精と神は少なからず人間からの反感を買う。それでは武力による衝突は不可避であろう。たとえ彼が全ての元凶だったとしても、だ。
「た、たしかに、あなたの言う通りね・・・黒幕が割れただけでも良しとするかしら」
「ご理解してくださりありがとうございます。明日の歓待では極上のラーメンをご用意させていただきますね」
「本当かしら!なおさら許すわ!っていうか、早いところラーメンだけでも食べに行きたいわ!」
ケイトが興奮気味に川春に詰め寄るのを端目に見ていた真央は、こっそりと親指を立て喜びをあらわにする。それを見た川春は親指を立て返し、作戦の完了を密かに喜んだ。
こうして、この世界の真実は瞬く間に広まっていった。
SNS、掲示板、ネットニュース、ネット活動者の配信など。広まった手段は数えきれないほどだが、この世界を根底から揺るがすほどの大事件として、数多くの人間に「今までの歴史が間違っていたこと」、「黒幕は文部科学省の原田大臣であること」が認知されたのだった。
まさか、自分を辱めた鏡が役に立つとは、なんとも滑稽な話ではあるが。と、川春は心の中で一笑に付すのであった。
「それにしても随分と計画染みた動きだったけど、これは誰かが考えていた展開だったのかしら?そこの大臣が黒幕だと暴くための交流だった気がするわね」
落ち着いたらしいケイトが、川春に対して疑問を投げかける。
「あー、実はお二方の乱入は予想していなかったのですが、歴史を書き換えた人物を炙り出すところまでは計画通りでした」
実際の川春たちの計画としては、『真央と大臣たちの会合が開かれる→種族交流の交渉をする段階で鏡を取り出す→大臣たちの中で怪しい人物の過去を映し出す→黒幕が暴かれる』といった流れを想定していたのだ。
「ふ~ん」
「ケイト~、川春の凄さに感心しちゃったの~?」
「そ、そんなわけないかしら!」
ニヤニヤとしながら真央がケイトに詰め寄る。
「素直に褒めなって~。実際、誰が歴史を編纂したのかの見当を付けて、今日の計画を練ったのは川春なんだから~」
川春がこの計画を練るにあたって、一番に怪しいと思った人物は国の中枢を担う人物たちだった。何故かと言えば、先述した通り、この世界では政治家は世襲制であり、継続的に隠ぺいを行うのであれば、ピッタリの役職だからだ。
それが、ほとんどの歴史書の編纂・検閲を行う文科省の大臣であれば、なおさら怪しく思えてくる。ということだ。
「ふん。別に人間たちの問題なのだからあたり前かしら!」
この妖精女王はどこまでもツンケンとした態度を取ってしまうらしい。が、そっぽを向いたかと思われたその口先が再び開く。
「でも、ありがとう。和平が好きだった世界をもとに戻してくれて」
「いえ、私がすべきだと思ったことを行ったまでです」
「ふーんだっ」
こうして和やかな雰囲気のまま、その後の座談会はお開きとなった。
その結果が、このデモである。国会議事堂の前には数万人が押し掛け、冒険者ギルドの前にはおよそ五千人がデモに参加している。
ネット社会において、情報の広がる速度は光よりも早く、リソースが確かであれば人々の抱く信頼性は論文に匹敵する。
今回、冒険者ギルドという国営機関の生放送において、百八十万人の衆人環視のもとで情報が提供されたとなれば、情報の信頼性は確かなのだ。
が、古くから信じていたものが崩れ去った時、人が酷く混乱するのは言うまでもないだろう。
「さっさと説明しろー!」「ギルド長を出せー!」「今まで納めてきた税金はなんだったんだ!」など、ギルド前に集まった民衆からは怒りの声が飛んでいる。
「くっ・・・もはや私ですら影響力は無いに等しいのか・・・」
人々はSランク冒険者である暖赤の静止の声を聞かずに、冒険者ギルドを覆う様に張った防御魔法を蹴破ろうとしてくる。
「火球!」
突如として、暖赤の前で火の玉が弾ける。
一般人は魔法の発動を法律によって固く禁じられている。では、例外は?
ギルド前のデモに一般人だけが混ざっているのか。そう問われれば、答えはノーである。
「ギルドは俺たちを騙してたってのか!」
「冒険者・・・!」
暖赤が瞳を丸くする。冒険者ならこの世界が平和になるのなら、それを喜んで承諾し、受け入れるものだと思っていた。
「なにをしている!一般人に当たったらどうするのだ!」
「へっ!知らねーよ!」
防御魔法を隔てた向こう側で冒険者の一人が声を上げて、暖赤の言葉に反抗する。
実際、お金目当てで冒険者になる者はいる。彼もそのうちの一人なのだろう。であれば、この世界平和へと向けた国の動きは、自身の生活に直結するのだ。そういう者たちにとっては譲れない一線なのだろう。
「いいじゃねえか!なにが悪か正義かなんて!俺はこの職業でしか稼げないんだ!食い扶持をミスミス逃したくはないね!」
「愚かな・・・かくなるうえは・・・」
皇暖赤の性質は根っからの善である。それゆえに私利私欲のために、悪を許容するという考えは理解ができないのだ。
防御魔法の内側に居る暖赤に向けた攻撃の流れ弾で、民間人に被害が出る前に冒険者を無力化する。これが彼女が取れる最善手だ。
それを選択しようと、防御魔法の内側から出ようとした瞬間だった。
「うるせぇぇぇえええ!!!」
女性のがなり声が背後から、暖赤の耳をつんざく。
途端に静まり返る路上。
「ギ、ギルド長・・・!いま出ていっては危険です!」
拡声器を持って民衆の前に現れたのは、冒険者ギルド本部長の悠木早苗本人であった。川春が彼女を止めようと、傍らで説得をしているが、もはや聞こえていないらしい。
「朝っぱらからうるせえんだよ!こちとら歓迎の準備で忙しいんだよ!お前らヒマか!」
ギルド前に集まった人々に対して、弁明もしくはしっかりとした説明があるのか。と、誰もが思っていた。しかし、彼女のストレスは先日に川春が急遽決めたパレードの開催によって、すでに限界値を超えていた。
徹夜で準備をし、それも終盤に差し掛かった大詰めのところで、このデモだ。研ぎ澄まされた集中が途切れれば、溜まったストレスは一気に放出される。
「ヒ、ヒマとはなんだ!俺たちは昨日の配信について・・・」
「それこそがヒマだって言ってんだろ!昨日の配信は全て事実だ!」
「じゃあ、ギルド長が休日にスイーツの食べ比べをして、急に素に戻るのも・・・」
「うるせぇ!なんか文句あんのか!独り身で寂しいんだよっ!」
『寂しいんだ・・・』と人々が思ったのも束の間、
「微妙な反応してんじゃねえ!私がみじめに見えるだろっ!」
民衆のつくる空気感にさえ過敏に反応している早苗を見て、さすがの川春も彼女が正常な判断ができていないと理解する。
「ギルド長!後でエクレアを作って持っていきますから!少しは落ち着いてください!」
「本当か!?絶対に持って来いよ!」
『あ、それだけで機嫌が治るんだ』と、またもや人々が思ったところで、早苗が気まずそうに咳ばらいをして、再び拡声器を構える。
「失礼した。本来であれば、数日後に公式の声明文を出すのだが、もはやそうも言っていられないらしい。質問、疑問があれば聞こう」
今度はしっかりと芯の通ったいつも通りの凛とした声で、民衆に向けた言葉を放つ。それは間違いなく、民を思えばこその対応である。
それを察したのか、人々は防御魔法への攻撃を止め、罵声も少しずつ減っていく。
「昨日の配信の映像は本当なんですか!あの事実をあなた方は知っていたのですか!」
騒めきの中から手が挙がり、質問が飛ぶ。
「私だけは数日前に知っていた!訪問してきた真央さんから教えてもらったからな!そして、昨日の配信については、全てが事実だ!」
どよめきを増す民衆。自分の中の常識が崩れ去り、もはやなにを信じれば良いのか分からないのだ。
何かを疑うこと。それ自体はフェイクニュースやデタラメが蔓延るネット社会の現代には良い心構えなのかもしれない。
「それが事実だなんてどうやって信じれば良いんだ!」
「真央さんの鏡、あれを体験すれば信じられるのか?ただし、自分が一番恥ずかしいと思ってることを、大衆の面前で公開したいのならばお呼びするが?」
「い、いや、それはちょっと・・・」
「ならば信じるしかないのではないか!私も混乱はしている。未だに魔王が悪ではない、と信じ切れていない心もある!」
早苗は拡声器がきしむほどに握り締め、一呼吸をおいて再び口を開く。
「だが!かつて魔族の侵攻で家族全員を失った男が、それを信じると言ったのだ!」
かすかに震える声には憐憫、葛藤、憤怒、悲壮、どんな感情が籠っているのか、それはもはや測ることなどできない。
角川春は小学六年生の際に魔族の侵攻に巻き込まれている。
魔族が無差別に放った魔法が不運にも彼の自宅を倒壊させた。
それは小学校の卒業式の前夜の事であった。
齢十二歳にして、何もかもを失った少年は、その日、助けてもらった冒険者に強烈な憧れを抱くが、自身の才能の無さに徐々に気付いていく。
なんとかして、冒険者に関わる仕事がしたい、世界を平和にしたいと、辿り着いたのが現職である。
彼は、あの日見た冒険者こそが善である、彼らの活躍を世界に発信していれば平和になるのだ、とずっと思っていた。が、魔王と出会い、世界の真実を知った。
己の中にあった前提が崩れ去り、信じるモノを失くしてもなお、「世界平和」という目標だけは揺るがなかったのだ。
「私には!彼の決意を疑うことなどできない!」
早苗ははっきりと言い切ると、川春の方に視線を投げ、少しだけ微笑む。
「疑いの目を向けるのは結構だ!正当な権利だ!」
昨今の情報化社会において、流れる情報に疑いの目を向けるのは基本のキ、だ。
それだけに『信じる』という単純な行為が難しいのだ。
「しかし、どうか!平和な世界を望んでいる彼を、信じてくれないか!」
早苗は人々に向けた演説を終えると、腰を九十度に折り曲げて静止する。それ以上に語ることはない。いや、これより雄弁に語る姿勢があるだろうか。
静まり返る人々。
冒険者ギルドの最高権力者が、一般人に対して腰を折ることの意味を理解しているからこそ、何も言えないのだ。
加えて、早苗が言及したであろう男が、必死に涙をこらえている様子が見て取れる。これ以上、なにを言えば良いのだ。と、皆がだんまりを決め込んでいると、
「あーっはっはっは!私、参上!」
空気の読めない声が空間を断ち切り、上空からひとつの影が舞い降りてくる。
「私が、魔王こと日乃本真央である!あ、控えおろ~!」
彼女なりの決め台詞なのだろう。またテレビに影響されたとしか思えないセリフを放ちながら、衆目をその身に集める。
「ま、魔王だって!?あ、いや、でも・・・」
魔王と聞いた瞬間に驚く人々だったが、先の早苗の言葉を聞いてなにか思うところがあったのか、逃げ出そうとはせずにその場に留まっている。
「あー、マイクテス。ケイト~、議事堂の方は映ってる?・・・よし、大丈夫っぽいね」
真央は彼女の目の前で浮いている目玉を確認しながら、議事堂にいるらしいケイトに向けて話しかけている。
「ちょ、ちょっと待て!なにをするんだ!?」
「お~、川春じゃん!ちょっと大変そうだから手伝いに来ちゃった!」
無邪気に言う彼女の笑顔に、今の川春がどれほど救われるのか。それは彼だけが知るところではあるが、想像には易いことだ。
「来ちゃったって、お前・・・」
「今ね、昨日のケイトの空間投影魔法と私の電波の魔術で、議事堂前に中継を繋いでるの!この目玉がカメラね!」
「真央たちは来賓なんだぞ?ゆっくり傍観してたっていいはずだ!そもそも、これは人間側の問題だし・・・」
川春が言葉を続けようとしていたところで、彼女がさえぎるように彼の唇に人差し指を置く。まるで『それ以上は無粋だよ』と言わんばかりに。
「川春が居なかったら、私たちはまだ争ってた。少しは恩返しさせてよね」
笑顔でそう言うと、放心している川春に背を向けると、マイクを左手に口を開く。
「初めまして!私は日乃本真央です!人間のみんなには魔王って言った方が伝わるかな?」
伝わるも何も、紫色の肌に、側頭部を取り巻き前方へと突き出すツノ、人間界ではおよそあり得ない露出度の高い恰好を見れば、人々の脳裏には伝承にある魔王が思い浮かび、目の前の、あるいは空中に映っている少女が魔王なのだと理解する。
「えーっと、お集まりのみなさん!・・・は、ちょっと違うか・・・まず、すみませんでした!私が、魔王が生きててびっくりしちゃったよね!でも聞いて!私もこっちの世界で私が死んだことにされてるのにはびっくりしたの!」
静まり返っている民衆を前に「あれー、今のはウケると思ったんだけどなー」と呑気に言っている真央であるが、ここまで大掛かりな演出をしたからには何か意図があるのだろう、と考えて川春は見守る。
「えっとー、まずは昨日の話!昨日ケイト、妖精の子が見せた映像は本物だよ!って、魔王が言っても信じられないよね。でも、あれが真実なの。で、みんなが信じてる話は、原田大臣が代々に渡って捻じ曲げてきた歴史なんだ」
静寂の中、響くのは真央の慣れない演説のみ。
「みんな信じてるものが一瞬で崩れたら、悲しいし困るのも分かるよ。私もそういう経験あるし」
デモに参加している人々は、全員が昨日の配信を見て、混乱してしまった者たちだ。ならばこそ、昨日の魔王と勇者の一連のやり取りが脳裏に過ぎる。
「信じて、とは言わないよ。人間界に間違った歴史が広まってから、お互いに争ってたのは事実だからね。これは攻め返した私も悪い」
そんなことがあるものか。と、誰かが言うまでもなく、皆が薄々思っている。悪いのは間違った歴史を盲目的に信じて、攻撃を止めなかった人間側だ。皆の表情がそれを雄弁に語っている。
「だからこそ、勇者が、和平が目指した世界を。種族の差なんて無い、みんなで手を取り合う世界を!私たちで作りたいの!」
震え出した声に驚いた皆が、彼女の方を見るとうっすらと涙を浮かべている。
「だから、協力してほしいです!私たち魔族、神や妖精とも手を取り合って生きてほしいです!お願いします!」
マイクを介した音声の増幅魔法によって、その場にいる全員に声は届いているはずだ。というのに、誰一人として声を上げない。否、声を上げられない。
『信じる』というのは、それほどに難しいのだ。が、
「わ、私は協力するわ!」
と、デモ隊の集まりの中から一つの声が、困惑の色とともに発せられる。それに連なるように「俺もだ!」「僕も!」と声が重なっていく。
ギルド前の大合唱が、真央の持っているマイクを介して議事堂前まで伝わったのか、議事堂前のデモ隊からも賛成の声が上がっている。
「み、みんな・・・!ありがとう!」
民衆の大合唱を前に、腰を折って礼を述べ、希望を振りまくように手を振り、笑顔を満開に咲かせている。早苗の心からの演説が、真央の希望を与える言葉が、人々に信じる勇気をもたらした結果である。
「それじゃあ、この後はパレードをやるから楽しみにしててね!」
真央はそう言って、拍手を背に受けながら、川春の方へと歩いて行く。
「ありがとう、真央。助かったよ」
「へっへ~!ピース!」
満面の笑みを川春に向けながら、勝ち取ったVサインを誇らしげに掲げている。彼女の笑顔を確認した川春は、早苗の居る方へと歩き出す。
「ギルド長もありがとうございます。このデモは想定外でした。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「よせ。優秀な部下の失敗の一つや二つ、拭って当然だ」
「あ、ありがとうございます・・・」
照れくさそうに頭を下げる川春。だがそれよりも、なにかを言いたそうに、モジモジとしている早苗は、意を決したように口を開く。
「それにエ、エクレアを作ってくれるのだろう?楽しみにしているからな。それでは、私は準備に戻る。お前もパレードの配信の準備を怠るなよ」
「は、はい!ありがとうございます!」
三十路間近の独身女性はどこまでも素直になれないらしい。とは言え、部下の活躍を願えばこその言葉であることを、彼も理解している。
「暖赤もありがとう。暖赤が居なかったら怪我人が出ていた。さすがはSランク冒険者だよ」
「なにを言う。私の大切な人が大切にしているものを守ろうとしたまでだ」
「ありがとう。でも、ごめんな。まだその気持ちには応えられない」
「ふふっ。やっと気付いてくれたのか。私はいつまででも待つから安心しろ」
そう言った暖赤に、川春は少しだけ気まずそうな顔をして笑う。彼はいまだに『暖赤と自分とでは釣り合わない』とでも考えているのだろうか。つくづく残念な野郎である。
「ねえねえ!川春っ!」
気まずい沈黙が流れ始めたところを、真央の元気な声が断ち切る。
「どうした?」
「ちなみになんだけど、このカメラは録画する機能が付いてるんだけど、今回の映像、使う?」
「ホントか!?超助かる!ありがとう!」
「あっはは~!でしょでしょ~!それで、一個お願いがあるんだけど・・・」
真央がいつになく真剣な表情をして、だが、少しの恥じらいを持っているようにも思える眼差しを川春に向ける。
「な、なんだよ・・・」
「げ・・・」
「げ?」
真央が放ちかけた言葉を反芻するように川春が言うのと同時に、彼女が一呼吸おいて口を開く。
「ゲームソフトを買ってほしいんだ!」
「「・・・え?」」
川春と彼の傍らで話を聞いていた暖赤の、素っ頓狂な返事が被る。
「だから!ゲーム本体は貰ったけど、ソフトを持ってないから買ってほしいの!」
「なんだ、そんなことか・・・」
「そんなことじゃないよ!調理器具は貰ったのに材料がないみたいな虚無感!おあずけを食らってるの!」
なにを上手いことを言っているんだ、と川春は内心で思いながらも、答えは決まっているようで、すんなりと口を開く。
「いくらでも・・・とは、いかないけど買うよ。俺の予算が許す限り」
「ホント!?ありがと~!さすが川春!頼りになる~!」
なんともおかしな魔王が居たものだ。先ほどまで、人類の、いや、他の世界にいる種族も含めて幸せにしたいと公言していたのに、おねだり一つで緊張していたらしい。
「ははっ。まあ、買うのは観光の時な」
「分かった!じゃあ、私は議事堂に戻ってパレードの準備を手伝ってくる!」
そう言って真央は転移魔法を使って、一瞬にしてその場から消えてしまった。
彼女が立ち去ったギルドの上空の雲が、徐々に開けていく。まるで今後の未来を案ずるようでもあった。
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