エピローグ:平和の先に
晴天が轟く清々しいまでの青い空。
若草色の野原が、颯爽と駆ける風に揺られて爽やかに輝いている。三つのゲートが存在している、その草原には四つの人影が見受けられる。
「ねえねえ!これ見てよ!私の動画の再生回数凄いんだけど!」
真央がスマホを片手にデウスとケイトに詰め寄る。
「それを言うなら、私の雑談配信の方が伸びてるかしら」
「ほっほ。僕のゲーム実況もなかなかお手のものだろう?」
否、三者三葉に最近の自分の活動報告をしているようだ。
「角くん、あなたは誰が一番すごいと思ってるのかしら。率直な意見をちょうだい」
「い、いや~、その~・・・急に呼ばれたと思ったら、なんの話ですか・・・?」
今や真央とケイト、それからデウスが三人で集まり、ゲート前にて優雅にお茶会をするのは最低でも月に一回は見られる、人間界の名物となっている。
パレードから半年も経っているというのに、その名物を一目見ようとゲート前からは見物客が溢れかえっている。
「あら、毎月恒例の活動報告よ。交流として科学技術を貰ったのだから、当然の報告会かしら」
「それにしては再生数に憑りつかれてるようにしか見えないんだけど・・・」
「なにか言ったかしら?」
「いえとんでもないです。みなさま素敵な動画を投稿されていると思います」
ケイトは現在、ストリーマーという形で人間界に名をはせている。
雑談をメインとした配信では、毎回一万人を超えるリスナーを擁している。リスナーからは親しみを込めて『ケイちゃん』などと呼ばれている。
「ふん、まあいいわ」
「さようですか・・・」
「それより、ギルドの方は大丈夫なのかしら?まあ、あなたは職にあぶれることは無いのでしょうけど」
「あれ、ケイトは知らないんだっけ?彼女の手腕は見事だったと思うよ。流石は和平君の子孫と言ったところだね」
デウスはその温和な性格を活かして・・・はおらず、ゲーム実況者として活動をしており、レースゲームからFPS、果てはバカゲー実況までこなしている。
登録者は八十万人を超えており、人間とのコラボ配信も行っている。配信の同時接続者数も一万人前後で安定しており、人気実況者と言えるだろう。
「うんうん!ギルド自体が業務縮小をするかと思ったけど、保安部隊として各地域に派遣して治安維持をしてるんだって!」
「各世界に渡るためのパスポートを作ったのも画期的だよね」
「ええ、それは私も同意するところよ。これだけ持って、保安検査場を通過すればどこの世界にも入れるんだから」
真央は『マオちゃんねる』というチャンネルをユーチューブにて立ち上げて、実写の動画を中心にアップしている。最近の人気動画は『ブルベ(ブルーベリーくらい紫色の肌)に超似合うメイクとファッションを見つけたったwww』らしい。
各々が次々に思い出のように語っていく。が、それほどまでに早苗の考案した、ギルドの方針と、パスポート制度は真央たちに目新しく映ったのだろう。
「そういえば、今日はハルカちゃんはいないの?」
「ああ、今日は闘技場で王座防衛戦があるからな」
「あれ?今日だったっけ?」
「そうか、たしか挑戦者は・・・」
「挑戦者はウィングの二人かしら。ネットではお祭り状態よ」
デウスが言いかけたところで、ケイトが割って入る。と、同時に『もう少しネットに興味を持ったら?』とでも言わんばかりのドヤ顔を向けている。
闘技場は『もはや不要となった戦力をどこに割くのか』という議題に対して、冒険者たちが惜しみなく力を解放できるようにと、治安維持のほかに早苗が捻りだした一案であった。
元冒険者たちによる闘いは、公営賭博という側面も兼ね備えており、日々の対戦において大枚が散っている。
ちなみに、戦闘において負った傷などに関しては、真央が普及させた治癒と再生の魔術でなんとかなる為、一日で連戦する者もいるほどだ。
「ねえねえ!中継って見られるの!?」
「ん?ああ、公式チャンネルでアーカイブが見られるぞ?」
「違うのーっ!中継やってるでしょ!それが見たいの!」
「じゃあ丁バーでいいじゃん。スマホでも見られるじゃん」
「む~っ」
なかなかに察しの悪い川春に対して、真央が頬を膨らませ、それを二人が微笑ましそうに眺めている。
「ほっほ。真央は君の家でみんな揃って中継を見たいんじゃないかな?」
「こういう時は私より素直じゃないんだから」
「ケイトは素直じゃない自覚があるんだね?」
「う、うっさいわよ!」
「公式チャンネルでアーカイブを見ればいいのに・・・」
「ちょと角くん、鬼畜ロボットみたいなこと言ってないで、さっさと行くわよ」
「どこでそんなスラング覚えてくるんだ・・・」
川春が少しだけ呆れ気味に独り言を漏らすと、またもやケイトの方から異様なプレッシャーが流れてくるのを感じる。
「あら、私がSNSに毒されてるとでも言いたいのかしら?」
「いいえ、まったくそんなことはございません」
「早く、家まで案内しなさい」
「いや、急な呼び出しだったので、誰かを迎え入れる状態では無いんですけど・・・」
それもそうだ。こんな平日の真昼間から、誰かを招き入れる状態が整っている社会人はそうそういないだろう。
加えて、三人からの緊急の呼び出しだったので、今日に限ってはギルドを早退して来ている身だ。実質的にそのまま直帰するというのは気が引けるのだ。
「そう。それなら、あなたの家にお邪魔しようかしら」
「え?話聞いてた?」
「なにか言ったかしら?」
「いえなにも。今日もケイトさんはお美しいなと。特にその流れるように流麗な目鼻立ちは見る者すべてを・・・」
湿度のある視線を向けられた川春は、早口に言い訳を走らせている。心なしか手慣れているようにも見える。
「急にお邪魔しては迷惑なんじゃないかい?」
「別に面白いものは無いよ?」
「おい、なんで真央が俺の代わりに答えてんだよ!」
「あっはっは!まあ、いいじゃんいいじゃん!ハルカちゃんたちの試合をみんなで見ようよ!」
そう言うが早く転移魔法を行使する真央。
誰もいなくなったゲート前では、綿毛を散らしながら吹き抜ける風が、世界を祝福しているようだった。
―完―
広報さんと魔王さま 碧ヰ 蒼 @aoaoaowi
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