第9話


 結局の所、舐められたとはいえ怒りは無い。怒りは無いが、それはそれとして思うところはある。


 その程度の未来視で全てを知った気でいる滑稽さ。

 平行世界を知るだけで自分達もその道をたどれると思ってる浅はかさ。

 一瞬でも地球の王として認められたと調子に乗ってるその幼稚さ。


 それら全てひっくるめて僕は天皇の行動を否定する気は無い。それはそれとしてこちらを舐めていた事実に対する報復は普通にする。こう、悪戯心的な感じで。


 てことで莫大な情報という爆弾を全世界にぶちまけて、地球の王の詳細も公開して天皇を困らせたいと思う。つまり配信だ。









【配信】異層紹介Part:1【雨腐りの沼】




「やぁ、視聴者の諸君……と言ってもまだ誰もいないけど」


│え


「っと、早速視聴者が来てくれたようだ。告知も何もなしで不意打ちで始めたんだが」


│新しい配信者の古参面したかっただけなんだけど……


「あー、わかるよその気持ち。昔は僕もそんな感じだったなぁ……」


│これ広げてもいいすか?


「いいよいいよ、どうせ異層から僕でないから有名になったところでって話だし」


│やったー、広げてきマース







「さて、今回から配信をやって異層の紹介を君たちにしていくわけなんだけども」


 ログハウスの中、しとしとと降り続く雨を窓越しに見ながら丸テーブルの傍に置いてあるロッキングチェアと呼ばれる、揺りかごのような動きをする椅子に座って配信を開始する。


「えっーと、なんだっけ。暁天だっけ?、彼らを助けた時に登場したあのよくわからんやつのせいで外に出て説明出来ないんだよねぇ」


 僕自身だけなら問題ないんだけど、機械越しに影響を与えるアレ、魔法とかで対処するの難しいんだよなぁ。


「てことでタイトル詐欺になっちゃうけどダンジョンや地球に蔓延るスキルや魔力についてより詳しく説明していこうと思う。なおコメントは必要な時にのみ拾っていくよ」


│はーい!

│せんせー!

│しれっと言ってるけど魔力とかスキルの詳細を知ってんのか

│国が何年かけて解析してると思ってる

│規格外だなぁ

│初配信でタイトル詐欺は草

│その外来生物?の説明はしないの?


「しないよ、死にたいならやるけど」


│またまたー、冗談を

│いや俺らアレ見ただけで鼻血出たやんけ

│死ぬ(画面越し)

│呪いかな?


「分からないんだよねぇ……僕ですら直接触れたら死ぬだろうし」


│あんたでも死ぬのか

│やばすぎ

│あれそんなにやばいのか


 いくら対策を練ってもあの存在は全てを腐らせる。対策を腐らせるのだ、つまり意味が無い。僕だけならまだ生き延びればする、ただそれだって僕に宿る竜の再生力でのゴリ押しだ。普通に辛いよ。


「分かってるのは、世界を腐らせることが出来る。世界の外、宇宙から飛来していること。そしてこの世界が滅んだらいずれ別の世界へ移動するであろうことくらいかな?」


 これ以上の詳細は教えないでおこう。どうせ知ってた所で何も出来やしないし。


「てことで話が脱線したけどダンジョンについてだね」


│解説一応してくれたけどなんも分からんかったな

│つまり謎の存在ってことでしょ

│ダンジョンについてかー

│今更だけど確かによくわかんねぇよなぁ


「いくつか要点を纏めてあるから、こちらをどうぞ」


 適当に作った空中投影型魔法陣を使い資料を表示する。


「まずダンジョンとは」


・ダンジョンとは、地球に存在するいずれ滅びるor滅んだ世界を結ぶ道である。

・ダンジョンを構成する素材は平行世界が要らないと判断した空間のツギハギである。

・ダンジョンはチューナー機能を持っており、平行世界の概念を他世界へ運ぶ

・ダンジョンは地球そのものが作り出した。

・ダンジョンは世界が滅びかけなければ絶対に現れない。

・異層は世界であり、ダンジョンでは無い。

・ダンジョンは滅ぶ世界を救う為の手段である。


「ってな感じ?」


│待って待って、情報が多い

│情報量でぶん殴られるのは困る

│うーん、なんもわからん


「難しく考えなくてもいいよ、要はダンジョンは滅びかけている世界を救う手段である、って認識で十分だから」


│ん?

│あれ?

│え

│は?

│つまり俺らの世界滅びかけてんの?


「滅びかけてるよ?」


│嘘でしょ!?

│いやさすがにそれは……如何にあんたが凄い人でも、ねぇ?

│信じる材料が少なすぎる

│いやでも誰よりもダンジョンに詳しいだろう人物だぞ、有り得るぞ

│証拠ないんスか?


「証拠……証拠ねぇ……」


 異層内で証明するのは少し難しい。結局は僕達の世界で起きてることで別世界でその証拠を示すには繋がりがなければならない。ただ、あるにはある。だがそれを知ってもらう為には誰かがそこに行かなければならない。


「一応証拠を示せそうな場所がある。2箇所だ」


│あるんだ

│場所?

│手軽に行ける場所なんかね

│いや無理でしょ


「1つが経度0度且つ緯度0度のヌル島」


│どこ?

│あー

│え、あそこ?

│でもあそこなんにもないはずだけど

│島はあるんじゃないの?

│ないぞ

│電子上存在してた方が都合のいい島

│あぁ、ヌルってそういうこと

│nullか


「もう1つがロシアのダンジョン」


│ダンジョン?ダンジョンが原因なの?

│ダンジョンって滅びる世界を救う機能じゃないんすか


「いやあれちゃんと迷宮としてのダンジョンね。地球のダンジョンとはまた別」


│また新事実で殴らないで

│別枠のダンジョンかー


「いや、だってあれ異層からの侵略者だし……それより次の話に移っていい?どうせ君たち自身で確かめなければ証拠にならないんだし」


 てかこんなダラダラと話したいわけじゃないんだよね。僕としては人類全体の向上を目指したいわけなんで。


「じゃあ次は魔力とかスキルについてね」

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