第36話 松澤病院院長室

   松澤病院院長室


 院長室のドアーを激しく叩く音。


 「コンコン、コンコンコンコン」

 「どうぞ~」


畑(婦長)が焦りながら部屋に入って来る。


 「院長ッ! お、お昼になっても戻って来ません」


内村(院長)は畑 を見て冷静に、


 「誰が?・・・」

 「あの、あの七人が!」


鮫島(看護婦)が走って部屋に入って来る。


 「院長〜ッ!」

 「今、婦長から聞いた」


鮫島は息を荒げて、


 「どうしますか?」


内村が、

 「どうしますか? う~ん。ヤッタな・・・」


西丸(医師)と朝倉(看護婦)が部屋に入って来る。


 「何か遭ったのか」


畑 は気が動転して、


 「七人が」


西丸は驚いて、


 「おおッ! 決行日は今日だったのか」


鮫島、


 「そんなノンビリしてる場合じゃないですよ」

 「あッ、そうだ、院長!」

 「うん?」

 「山田さんが外出する前に、院長にって お手紙をお預かりしたんです」


朝倉が白衣のポケットから封筒を取り出し、内村に渡す。

内村は封書を開き便箋を取り出す。

中身をゆっくり開く。


  山田欽五郎の手紙


『私が密かに愛した内村様へ。内村様、私の身勝手を許して下さい。私は、もうここには当分、戻れません。場合によったら、戦死しちゃうかも。でも内村さんとの思い出は沢山、心に秘めて特攻に志願しました。今、ここに、私が集めた内村様の抜け毛が三十本有ります。大切に胸に仕舞って行って来ます。あ、それから私の形見に、敷布団の下に大切に使っていた落下傘で作ったパンテーを置いて行きます。綺麗に洗濯してあります。もしもの時は内村様の奥さんに穿かせてあげて下さい。

内村祐之、永遠の恋人・・・さようなら。

さようなら。さようなら。

          山田欣五郎 昭和二十二年七月七日吉日』


内村は胸のポケットからチーフを取り出し、涙を拭く。

朝倉が、


 「何を泣いてらっしゃるんですか」

 「いや、何でもない」

 「で、どうする気ですかッ?」

 「・・・放って置こう。関わらない方が良い」

 「ええッ!」

                          つづく

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