第24話 見取り図

   進駐軍内部の見取り図


 内村(院長)と西丸(医師)がソフアーに腰掛て話をしている。

内村、


 「・・・そうですか。でも小説なら面白いじゃないですか。私も早く読んでみたい」

 「ええッ! 院長、ここの病院が題材ですよ。それは・・・」

 「そんな事はない。精神病とかハンセン病とか差別される昨今だ。私は医学者の立場から、もってのほかだと思っている。彼等にも、しっかりとした人格を持たせるべきじゃないのかな?」

 「いやまあ、それは・・・その通りですが。ただ、GHQの本部を襲うとか攘夷とか、戦争が終わったばかりじゃないですか」

 「良いじゃないですか。このままでは日本はアメリカの植民地に成ってしまう。たとえ敗戦国でも筋だけは通さなければ。これからの日本の大義を、明日の夢を無くした国民に知らしめるためにも、何らかの形で表現する事は頗(スコブル)る大切な事じゃないかな」


西丸は何か言いたいが、言えない。

内村は話を続ける、


 「それに、それがここの患者であっても、別に良いではないか。彼等だって戦争の犠牲者だ。連合軍には言いたい事が山ほど有るだろう」


 隣の肥田氏が周明氏の部屋に来ている。

肥田、


 「岡田さんのあの症状は仮病? 芝居の上手い人だなあ」

 「そうではない。岡田さんは命懸けで症状を仮想化しているのだ。戦争の空しさを表現しているのだんだよ。だから、岡田さんにはこの堀田くんの脚本の中では重要な役を演じてもらいたい」

 「堀田くんの本は、どの位進んでいるんだ?」

 「さっき廊下で会ったが随分面白い形で進んでいるようだ」

 「ほう、早く読みたいねえ」


 堀田氏が部屋で寝巻きに着替え、お膳の上の原稿に向い「独り言」を言っている。

髪の毛は風呂上がりのためか、ボサボサである。


 「う~ん。岡田さんを見張り役にした方が・・・。いや、見張り役はやっぱり杉浦さんの傷痍軍人で行った方が怪しまれないかもね~・・・。うん、よし、これはこれで行こう。山田さんには・・・、あッ! ピッタリの役がある。コーヒーを運ぶウエイトレス・・・。うん。これで良い。これだ! 首藤さんは・・・風貌からして・・・、あッ、この二世の男! 国会議員秘書のジミー・白川役をやってもらう。岡田さんには・・・いや、岡田さんが ジミー・白川 の方が良いか・・・。ああ、難しいッ! でも、丸の内の進駐軍本部はガードが相当固いだろうなあ・・・。この直訴状をマッカーサーに渡すには・・・。だれか進駐軍本部の内部情報を教えてくれる人は居ないかなねえ・・・」


ドアーをノックする音。


 「コンコン」


堀田氏はいぶった化に、髪をかきむしりながら、


 「あ~あッ、・・・どうぞ!」


周明氏が顔を出す。


 「おッ! やってるね」

 「何~だ、先生か」

 「何だとはご挨拶だねえ。・・・? 悩んでいるようだねえ」


堀田氏は無愛想に、


 「どうぞ。上がって下さい。お構いは出来ませんよ」

 「お構い? ハハハ」


周明氏は堀田氏の傍により、原稿を覗く。

堀田氏、


 「・・・? 覗かないでくださいよ。トップシークレットって言ったじゃないですか」

 「うん? あッ、ごめんごめん」


堀田氏は天井を睨んで、


 「・・・誰か『本部』の情報を流してくれる人は居ないかなあ・・・」

 「本部?」

 「進駐軍の本部ですよ。それが分からないと先に進めないんだ」

 「ああ、進駐軍ね・・・。あッ! 良い男が居るぞ」

 「良い男? 誰ですか・・・」


堀田氏はあまり関心を示さない。


 「私をMPと一緒にこの病院に運んで来た・・・確か~・・・何といったかなあー。むら、ムラ、あッ、そうだ! 村瀬だ」


堀田氏は、がっかりした顔で、


 「ムラセ? 運転手ですか」

 「いや日本の巡査だ。アメちゃんにだいぶ、抵抗感がある様だったぞ」


堀田氏は驚いて周明氏を見る。


 「巡査? ・・・連絡は取れるんですか」

 「進駐軍の本部に電話すれば連絡は取れると思う。ただ、配置換えになってなければの話しだ」

 「ええ! それは良い情報だ。さっそく? ッて言ってもどうやって『その方』と連絡を取るんです?」

 「それは、私が院長の許可を得て進駐軍本部に問い合わせてみよう」

 「出来ますかねえ」

 「とにかく、相談をしてみる。叩かなければ門は開かない。だろう?」

 「いや~、さすがオオカワシュウメイ」

 「ハハハハ。それより、岡田さんの役はどう云う役かな?」

 「岡田さんには重要な役をやって貰う予定です」

 「ほう。早く読んでみたいね」

                          つづく

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