第4話 周明の担当医は『西丸四方』

    『周明氏の担当医は西丸四方』

 

 病院の廊下を畑 と松葉杖の西丸四方(周明氏の担当医)が、言い争いながら歩いて来る。


 「い~いよ~、紹介なんて・・・」

 「だめです! 子供じゃないんだから、ちゃんと私の言う事を聞いて下さい」

 「僕は、あの院長の雰囲気が好きじゃないんだ」

 「好き嫌いじゃ世の中渡れませんよ。しっかりして下さい。情けない」


畑 が院長室のドアーをノックする。


 「は~い。どうぞー。」


畑 がドアーを開ける。

西丸が松葉杖で不自由な身体を支え、とっておきの「作り笑顔」を浮かべて現れる。

内村は西丸を見て、


 「おお、来た来た。西丸先生、どうぞどうぞ。あなたに素敵な患者を紹介しておきましょう。さあ、さあ入って下さい」


おずおずと部屋に入って来る西丸。

内村は西丸を見て微笑みながら、


 「こちら、大川周明さんと云う患者さんです」

 「オオカワ シユウメイ?・・・どこかで聞いたような名前ですな」

 「? あなたは毎朝、新聞を読まないのですか?」

 「僕の朝は東のお天道様に向かい拝礼、コーランを唱えてそれで終りです」


内村は呆れた顔で西丸を見る。


 「簡単で良いですね。まあ、良い。そこに座りなさい」


西丸は松葉杖をソファーに置き、周明氏と対座する。

畑 が、


 「今、お茶をお持ちしましょう」

 「僕は紅茶で」

 「そうでしたネ!」


畑 が院長室を出て行く。

周明氏は西丸を見て、


 「コーランですか?」


西丸は大きな眼で周明氏を一瞥する。

身体を伸ばし、周明氏の眼の「奥」を覗く西丸。


 「僕の方をよく見て。・・・若干の斜視が有るなあ。脳・・・? 神経衰弱かな? アンタ、歳は?」

 「はあ?」


周明は突然の問診に頭を掻きながら、


 「え~と、満で六十歳位かな?」

 「クライ? くらいねえ。還暦か・・・。恍惚が始まる頃だな? ・・・で、趣味は?」

 「シュミ? 趣味は・・・研究ですかなあ」

 「ケンキユウ? ああ・・・斜視は顕微鏡の覗き過ぎだな。で、何を研究してらっしゃる?」


内村はが口を挟む。


 「西丸先生、今日はその位で良いでしょう。別に大した病気ではないのだから」 

 「何?」


西丸は内村をキツイ眼で見る。

内村が、


 「いや、こちらの話です。それから、大川さんには東病棟に入ってもらいますから。宜しくお願いしますね」

 「東病棟? あそこは不治の患者が入る病棟です。大した病気ではない患者は入れません!」


内村は西丸を諭(サト)すように、


 「まあ、良いから」


西方は、またキツイ眼で内村を睨む。

気を静め、更に周明氏に問診を始める西丸。


 「もしかしてアンタは院長の親戚ですか?」


いやみを言う西丸。


 「違います!」

 「そうですか。いや、随分親しそうだからね。じゃどこかの病院から廻されて来た?」


内村がまた口を挿む。


 「米軍病院!」


西丸は周明氏を見て、


 「米軍病院? アンタ、俘虜だったのか? で、何でこんな所に」


内村はまた言葉をはぐらかし、


 「お天道様を叩いたんだよ。ハハハ」

 「オテント?・・・?」


西丸は内村を睨んで、


 「私の患者だ。院長は黙ってて欲しいですな」


融通の利かない西丸四方(担当医)である。

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