第5話

「これなんかどうかしら?

ねぇ、あなたたちはどう思う?」


「とてもお似合いです。 アンジェリカお嬢様。」

「お嬢様は何をお召しになってもお綺麗です。」

「皆さんお嬢様に見惚れることでしょう」



「うふふ。も~う。みんな正直なんだから。そうよね、まぁ、当然ね。」



アンジェリカは、夜会に着て行く為のドレスを数十着も注文していた。本日屋敷に届いたので、明日の夜会に来て行くドレスを侍女達と選んでいた。


鏡の前に立ち、ドレスの裾を軽く持ち上げポーズをとる。 まだ少しあどけなさの残る顔立ちではあるけれど、豊満な胸と細くくびれた腰が妖艶さを醸し出している

アンジェリカはとても綺麗だった。


また、本人も自分の美しさを自覚しており、いつも自信に満ち溢れて、自分以外を見下していた。


「そうね、これにしようかしら。このドレスに似合うアクセサリーと靴を用意しておいて。」


「承知致しました、お嬢様。」


アンジェリカは、試着したドレスから着替えると、上機嫌で食堂へ向かった。


食堂には既に伯爵である父が座っていた。


「今日も綺麗だな。アンジェリカ。

ドレスが届いていたようだが、おまえは何を着ても似合うからな。」


「うふ。お父様ったら。いつも本当のことばかり。嬉しいですわ。

ところでお父様…お願いがありますの。」



「なにか欲しいものでもあるのか?」


「さすがお父様。欲しいものはあるのですけれど、今回は少し違いますわ。

私ももうすぐ18になってしまいますの。それで少々焦っておりまして…」



「結婚の事か?お前ももう適齢期になるのだな。

心配せずともお前には最高のお相手を探しているところだ。

今までも多数の婚約の申し入れがあったのだが…どうにも決めかねてな」



「うふふ。お父様は私と離れることが寂しくてお断りしてるのではなくて。

お父様、出会いというのはいつ訪れるか分かりませんわ。明日訪れるかもしれませんし…

それで、明日の夜会には最高の状態で臨みたいのです。

なので、あれを一緒に連れて行こうと思いますの」



「なぬ?お前の言うあれとは、もしかしてあの娘のことか?」


「えぇそうですわ」


「いや、しかし…」


「大丈夫ですわお父様。わが家の名誉を傷つけることなんて決していたしません。

ふふ。むしろ逆ですわ…

路頭に迷った#平民__・__#の娘を引き取って面倒をみているのは美談ですわよね?」


「平民…?」



「えぇ。ふふ」


アンジェリカは不気味な笑みを浮かべていた

 

 


「えぇ。だってお父様。あれの顔をご覧になって?お父様とは全く似ていませんわ。きっと父親が誰か分からないくらい遊んでいたのではないかしら。お父様も騙されてるのではなくて?」



「ア、アンジェリカ…

あの娘を人前に出すのはまずい…あれは…」


父親は何か言いかけ、口籠もる


「いいえ。お父様。お願いを聞いてくださらないのなら私、お父様とはもう口を聞きませんわ」


「アンジェリカ…」


「本気ですのよ。」


「だが…」


「お母様はいつも私にこうおっしゃってました「あの女さえいなければ」と。


私ずっとそのことで心を病んでおりますの。あの女の娘も同罪ですわ。お父様、ご心配なさらないで。

全てアンジェリカにお任せください」


「アンジェリカ、あれは━━」


父親が言い終わらないうちに、アンジェリカは食堂を後にした。

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