第40話 とある少女は選考試験で無双する②

 レイ達が魔導人形のところに行くと、皆川が試験の評価を付けるタブレットを持って立っていた。

 レイと雫が一番最後だったらしく、全員揃ったところで皆川が説明を始めた。


「順番だが10位の者から1位まで順番にやってもらう。本当は1位からなのだが今回の1位と2位を先にやると魔導人形が壊されるかもしれんからな」


 皆川がジト目でレイと雫を見る。

 その目線を受けた二人は共にそっぽを向いて知らんぷりをする。


「……まあそういう事だ。じゃあ10位からやっていくぞ、位置につけ」


 皆川がそういうと10位だった男の人が剣と盾を構えて、魔導人形を見据える。


「それでは、始め!」


 皆川がそう宣言すると人型の魔導人形が木製の剣を構えて10位の男に攻撃を開始する。

 男は盾で防ぎつつ盾の範囲外は上手く剣で捌いていた。

 しかし防ぎきれずに何回か剣が被弾して痛そうな声を出していた。


「へぇー盾ってああやって使うんだ」


 レイは盾を使う探索者の戦闘を見るのが初めてだったのでその男を見て感心していた。


 そうして10位の男の結果は被弾10回という結果になった。


「では次! 位置につけ!」


 そうしてレイと雫以外が終わり、結果は皆大体8回から10回の被弾だった。

 雫の言っていた佐久間と言う人物は約3回の被弾だった。


「それでは2位の天城雫、位置につけ!」


「じゃあ行ってくる」

  

 そう言って雫は開始位置に着く。そして皆川の開始の合図があり、雫の試験が始まった。

 雫は最低限の移動で攻撃を避け、避けきれない攻撃は剣で弾いて防ぐ。


「すっすげぇ……無駄が一切ねぇ、あれが四天王の実力かよ……」


 観戦していた他の探索者も雫の動きを見て空いた口が塞がらなかった。

 

 そうして終了の合図がなる前の最後の魔導人形の攻撃を雫が剣で弾いた瞬間、バキッという音が魔導人形から発せられた。


  一瞬その場が凍りつき少し経ったところで皆川が口を開く。


「まっまあ、おそらく大丈夫だ……では最後、1位の氷川零。位置につけ!」


 レイは開始位置についたが、先程の明らかな異音にレイは不安を抱かずにはいられなかった。


(はぁ……お願いだから私の時にバラバラになったり絶対にしないでよ……)


 レイはそう祈りながら剣を構えた。


「では始め!」

 

 皆川の合図と共に魔導人形がレイに攻撃を仕掛ける。レイは普段通りに移動を最小限にして避けるが剣で攻撃を弾いた時に何かがおかしいことに気づいた。


(ん? この魔導人形なんだか魔力量がどんどん増えてる? それに攻撃力もどんどん上がっている気がする)


 そう思った瞬間魔導人形からプシューという音と共に煙が吹き出し魔力が放出され、制御不能となった。


「まっまずい!」


 そう焦る皆川をレイは見てこれが異常事態だと察する。


(これは一回この人形を止めないとダメかな)


 レイは目を薄く光らせて人形の魔力を読み取り魔力の流れをストップさせた。

 そうすると魔導人形はその場に倒れこんだ。


「皆川さん、ちょっと早く終わったけど合格でいいでしょ?」


「あっあぁ……」


 そうしてレイは、無事雫と同じく被弾ゼロという結果で第二試験を終えるのだった。


 第二試験が終わると一度通過者が発表され、人数は100人から50人にまで絞られた。


「それでは最後の試験を開始する。内容は攻撃の威力測定だ!」


 皆川がそういうと大きな魔力で出来た結晶が用意された。


「これは魔法でも物理攻撃でも威力が数値として現れる結晶だ。

 だから自分の今できる1番強い攻撃をするんだ。その結果が選考の指標になると考えてくれ。それでは、先程の体力測定の順位の低い者からやって行く」


 そうして順番に結晶に探索者が攻撃をしていく。皆数値は500から1000の間辺りだった。


 レイは攻撃力の試験を受ける探索者達の表情をみると皆活き活きとしていた。


「みんななんだか楽しそうだね」


「みんな結局はド派手な攻撃が好き」


 レイの言葉に雫はそう返した。


「ほーん……」


 レイ達がそんな会話をしていると、いよいよ雫の番がやってきた。


「では次、天城雫……なのだがこの試験、天城雫と氷川零は遠征メンバーに確定で選ばれる為この試験は受けなくてもいいという判断が出たのでこの試験は終了とす────」


「ちょっと待ってくださいよ!」


 皆川が言い切る前に探索者の中から声が聞こえてきた。


「そんなのずるいじゃないですか! 俺は二人にやらせないと納得できません!」


 すると他の探索者もそうだそうだ! などと乗っかって野次を飛ばす。


「……では、二人にやってもらおう。いけるか?」

 皆川の質問に二人は頷いた。


「ねえ雫ちゃん。あれ壊してもいいのかな」


「あれの値段は下手したら億を超える。払えるなら壊すといい」


「……壊さない程度に頑張ります」


 二人は結晶に向かいながらふざけ合う。

 

 そしてまずは雫から攻撃なのでレイは少し結晶から遠い所で観戦する。

 雫は剣を抜くとその剣に黒い稲妻を纏わせて結晶に斬撃を放つ。

 するととてつもない轟音とともに出た数値は8500を現していた。


「天城雫8500!」


 皆川が数値を読み上げるが探索者達はその威力に言葉が出なかった。


 そしていよいよレイの番になり、雫と交代して結晶に向かう。


「私より数値が低かったら激痛ストレッチの刑だからね」


 すれ違いざまに雫にそう言われたレイはこれまでに見たことのないほど真剣な表情になる。


 レイは水晶に近づき手をぴたりと付ける。


(なるべく弱く、なるべく弱く。でも雫ちゃんよりは強く……)


 レイのてからノイズが走り、レイが目を見開いた瞬間、水晶にヒビが入った。

 そしてレイの数値は15000を現していた。


「ひっ氷川零、15000……」


 これには流石の皆川も驚いていた。

 そうしてそれからレイと雫は誰からも文句を言われることなく、30人の暫定合格者が決まり選考会は終了した。


 終わった後に会長から意見を求められたが、レイと雫は二人揃ってあんまり皆の実力は変わらないから誰でもいいと言ったのだった。


 後から聞いた話だが、一条は第二試験の魔導人形に25回ほど被弾して不合格になったそうだ。


 そして二日後。

 レイは現在北海道に到着してお寿司を食べているのだった。

















 







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