第27話 とある少女は波乱に満ちた初配信をする
八王子ダンジョンの第一層の入り口から少し離れたところで配信の準備が始まった。
「本当はチャンネルに繋げたりしないといけないけど、レイはどうせできないからボタンを押すだけで配信が始められるようにした」
「ありがと雫ちゃん。私をよく分かってるね」
「当然。それでドローンの横にあるボタンを押したら配信開始と同時にドローンが飛び上がる」
「ふむふむ」
そうしてドローンが飛び上がり、レイの背後に飛んで滞空する。
「はえ〜すごいねぇ」
「それで今レイの左腕についてる腕輪に魔力を通すとコメントと視聴者が浮き出て表示される。
チャンネル名もありふれた名前だし、フードで顔も隠れてるから多分今日の配信はほとんど誰も来ないと思っていい」
レイの配信チャンネルの名前は英語で『rei』だった。そしてお試しということで一度レイは魔力を腕輪に注いでみる。
すると腕輪からプシューという音と共に煙が吹き出した。
「「あっ」」
二人の声が重なった。
「魔力込めすぎたかな……」
「わからない。多分そうかも、まあ今回は視聴者はほとんど来ないだろうから、見ずに配信しても問題ない」
「じゃあそうしますかな」
そうして配信と呼べるか怪しいダンジョン攻略が始まるのだった。
レイはなるべく魔力を使わずにスライムを小走りで討伐しながら進んでいく。
雫はドローンから見えない位置でいつでもトラブルに対応出来るように待機してくれている。
最近配信できてないって言ってたのにここまでしてくれるなんて、本当に出来る弟子だとレイは感動していた。
レイは走ってスライムを斬りながらどんどんと進み、2階層に進む階段まで到達した。そして雫を横目で見ると、行ってもいいと頷いていたのでそのまま2階層に進むのだった。
このダンジョンは全部で30階層ある。そして転移門を解放するためには一回はその階層に足を踏み入れる必要があるので、レイは地道に攻略するしかなかった。
「はぁ、ちょっと退屈になってきたよ………」
レイがそう言った瞬間、けたたましいアラーム音がスマホから鳴り響く。遠くからも聞こえたのでおそらく雫のスマホからもなっている。
レイがスマホの電源を入れるとそこには
『八王子ダンジョンを探索中の皆様各位。現在第20階層にて魔物の
というダンジョン協会からのメッセージがきていた。普通ならすぐに走って逃げるがレイはレベルを上げるチャンスだと思った。
「雫ちゃん」
「なに?」
レイが雫を呼ぶとすぐに駆け寄ってくる。
「雫ちゃんはどうする? 私はちょっとレベル上げでもしようかなって思ってるけど」
「当然私も行く。それに、何があっても師匠が守ってくれるんでしょ?」
「ふふっ、この甘え上手な愛弟子めっ。そんな君にはこれを貸してあげよう。ほれっ」
レイは自分の腰に備えたアイネからもらった剣を鞘ごと雫に渡す。そして自分は収納から訓練用の剣を取り出す。
「……いいの?こんないい剣借りても」
「いいのいいの。その剣は刃こぼれ防止とか魔法も扱いやすくなるよ。しかも所有者が許した人しか鞘から抜けないようになってるし、それに手元に呼び戻せるから落としても大丈夫だよ」
「……分かった。使わせてもらう。ありがとう師匠」
雫は心から嬉しそうな顔でレイにお礼を言った。
「ほらっ、早く下の階層までいかないと」
「うん、わかった」
レイと雫はドローンがギリギリついていける時速80kmのスピードで移動するのだった。
そして17階層に到達した時、地響きが階層中に鳴り響いた。
「雫ちゃん」
「うん、おそらく今この階層にいる」
「ちょっと魔法使いたいんだけどこの戦いだけ配信とか止めちゃダメかな」
「なら配信をやめて録画にしてもいい。レイの方は配信を切って私の方で録画する。どっちかがしておけば多分大丈夫なはず」
「まあもしダメなら会長さんを説得すればいいでしょ」
「それがいい」
レイはドローンを呼び戻し配信切り、雫が録画用のドローンを起動した。
「それじゃあ私はとりあえずイレギュラー倒してくるよ。雫ちゃんはそれで統率を失った魔物を順番に倒して行ってね。
ここで師匠からの宿題を出します! 一つの戦い方じゃなくて魔法と剣を組み合わせたり、いろんな攻撃を試しながらすること!
あとはまずいと思ったらすぐに下がること!やばそうだったら私を呼んでね。それじゃあ頑張ってね」
「分かった師匠。師匠も気をつけて」
そう言ってレイは一瞬で加速して雫の視界から消えた。そして雫は後を追うように走っていくのだった。
レイは、走りながら魔物の群れを観察してイレギュラーの存在を探していると。1番最後尾に高さ3メートルはある巨大な火を吹くトカゲが魔物たちを追いかけていた。
「あいつだな〜?」
レイはその瞬間ジャンプしその勢いでトカゲを後方に蹴り飛ばした。
そして起き上がろうとした所を風魔法でトカゲの足を切り落とした。
トカゲはバランスを崩し、地滑りをしながら倒れ込んだ。
「私と雫ちゃんの経験値運んでくれてありがとね」
そう言ってレイはトカゲだけに向けて第一位階氷魔法『
を放つ。
その瞬間トカゲは一瞬で凍りつき、その氷漬けのトカゲにレイが剣でコンコンとノックした瞬間に粉々に砕け散った。
「さてと、雫ちゃんは前から倒してるだろうから私は後方から倒していきましょうかね」
レイは脅威のイレギュラーがいなくなり、統率を失った魔物たちを踊るような剣術で次々と倒していくのだった。
レイがトカゲと戦っていた時、雫は剣の感触を確かめていた。
「これがレイの使っている剣……刀身はすごい長いけど、振りやすいし魔力も桁違いに扱いやすい」
雫がそう言っていると、前方の魔物たちがいきなり動きが止まり、四方八方に移動し始める。
「レイがイレギュラーを倒した。だから私もそろそろ戦おう」
そして雫は前方に見える魔物たちを魔法と剣を駆使しながら倒していくのだった。
そして倒し始めてからおよそ5分で殲滅が完了した。レイと雫は合流して、今後の対応を考える。
「とりあえず会長さんに電話して、終わったよって言おうかな」
「それがいいと思う、私が電話する。あとこの剣ありがとう。欲しくなるくらい使いやすかった」
「この剣もそう言われて嬉しいだろうよ」
こうして雫が会長に電話をし、スタンピードは随分呆気なく沈静化されたのだった。
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