第23話 とある少女は久しぶりにダンジョンに潜る

 レイは雫と家に帰った後、一人で渋谷のダンジョンまで来ていた。

 レイが本気を出せば家からダンジョンまでは約5分で着くため、レイは渋谷ダンジョンで鈍った体をほぐしつつレベル上げをするために来ていた。


「う〜〜〜ん久しぶりだぁ」


 ダンジョンを前にして背筋を伸ばしながらレイはそう言った。そして受付に行きカードを渡す。

 受付の人はレイがフードを被っていたので最初はわからなかったがカードの内容を確認すると流石に正体に気付き、受付の人はぎょっとした表情をしたが声には出さずに対応してくれた。


「ありがとうございます」


 そう言ってレイは転移門の前に歩いていく。レイは70階層から80階層までをループすることが1番効率がいいと感じ、まずは70階層にいた牛のボスを倒しにいくために転移した。

 そして転移した先のものを見た瞬間レイはため息をついた。


「はぁ……せっかく一人ですぐ伸び伸びできると思ったのに……」


 レイの前方には傷だらけになりながらも、斧を持った二足歩行の牛と死闘を繰り広げている、40歳くらいのおじさんがいた。

 レイはジャガイモのお菓子を取り出し、その戦闘を入り口で座りながら分析する。


(あのおじさん、剣の腕は雫ちゃん以上かも、魔力の扱いもそこそこ出来てるし、あれを倒せたらもうちょっと強くなりそうだな)


 そんなふうに思っているとおじさんは牛の魔物に斬撃を当てる。それが決定打となり牛の魔物は絶命した。そしておじさんは何やら飛んでいるドローンに向かって何か喋っているようだった。


「うぇ、配信者じゃん」


 その男はダンジョン配信者だった。指名手配が解除されたとはいえ、今バレて騒ぎになるのは面倒くさいレイにとってはあのドローンがなによりも脅威だった。

 そしてふとその男はレイを見てびっくりする。


「うわぁ!?なっなんだい君は……」


「あっお構いなく、順番待ちです〜」


「どうも、俺はダンジョン配信者をやっている黒田っていいます。フードを被った貴方はいつもここに?」


「……まぁ、いつもじゃないけどこれから少しの間通うつもりです」


「そっそうですか、俺が世界で1番早くここに着いたって思ってたんですけど、上には上がいましたね……ははっ……」


「私抜きで考えてもらって大丈夫です。あなたが世界一早いってことでいいじゃないですか、


「ぐぁぁぁぁ!!!!」


「!?」


 そう言った瞬間黒田は胸を抑え苦しみ始めた。


「俺は……まだ……おじさんじゃない……」


 そう言いながらおじさんは転移門の方は歩いていく。


「あれ、もういいんですか?二体目倒さなくて」


「この怪我じゃ二体目は無理ですよ……一度回復してから次は71層に行きます」


「そうですか、じゃあさようなら」


  そう言ってレイは背を向け牛がいた方を見ながら、ボスのリポップまでお菓子を食べるのだった。


 そして5分ほどが経ちキラキラとした光から牛がリポップしてくる。レイは立ち上がり準備体操をし始めた。


「よ〜し、久しぶりに体動かすから、魔装ありの剣縛りで行こうかな」


 そう言ったレイは収納からアイネからもらった剣を腰に備え、鞘から取り出す。そして牛に向かって歩いて行くとそれに反応した牛が斧を思いきり振り下ろす。

 その攻撃をレイは魔装を纏い、牛の攻撃を弾くようにして遊ぶ。そして飽きたレイは斧を吹き飛ばし、見えないスピードで牛の首元に近づき首を刎ねた。


「うん。あんまり鈍ってないけど、アッシュさんが見たらサボってるって言われるんだろうなぁ」


 そう言いながらレイは71階層の階段へと向かって歩いて行くのだった。しかし70層には先ほどの黒田は転移せずにレイの戦闘を配信しながら見ていたのだった。


◇◇◇


「なんだったんだあの戦いは……彼女の周りに黒い稲妻が纏っていた……コメントの皆さんは見えなかったんですか?」


 黒田はコメントに質問するが誰一人として見えた者はいなかった。


「我々はとんでもないものを見てしまったのかもしれません……」


 そう言いながら黒田は転移門の方へ向かうのだった。


◇◇◇


 レイは順調に攻略を進め、いよいよ79階層に行こうとした瞬間、いきなりスマホが震えた。そして画面を見ると雫からの着信だった。


「もしもし雫ちゃん? どうしたの?」


『どうしたじゃない。今渋谷ダンジョンにいるでしょ』


「ぎくっ。よくわかったね……」


『あなたが出会ったのは最強中年探索者の黒田。その配信にあなたの戦いが映されていた』


「げっ、あのおじさん帰ってなかったの? やらかしたかなぁ」


『あのフードの奴は誰だって世界中で今話題になってる』


 そう言われたレイは額を抑えることしかできなかった。


「どうしよう、私ももう帰ろうかな」


『それがいいと思う』


「分かった」


 そうして電話を切ったレイは、転移門で転移しダンジョンの出口へ向かうのだった。しかしダンジョンを出た瞬間、大きいカメラを持ったテレビ局たちが待ち構えていた。

 それを見た瞬間レイは第一位階を解放して雷魔法を使い、カメラとマイクをショートさせる。

 そしてその後に魔装を使い一瞬でその場から移動した。


「なんでこんなことになるんだよ〜〜!!」

 

 そうしてレイの久しぶりのダンジョン探索は幕を閉じるのだった。

 

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