第19話 とある少女は交渉(威圧)する
車でダンジョン協会に着くまでの約30分、レイはスマートフォンと格闘していた。
「ねえ雫ちゃん。アットマークってどうやって打つの?」
「それはここを押す」
「おっ変わった!ありがと」
雫はもうレイの機械音痴っぷりにはもう慣れていた。
そしてぽちぽちと言う音がなり続けて5分が経った。
ぽちぽち……ぽちぽち……
「いつまでやってるんだ!」
皆川さん痺れを切らしレイにツッコむ。
「皆川さん、レイは機械の扱いが絶望的に下手くそ。諦めて」
雫が皆川に諭すように言う。
「でっ……できたー!」
レイはようやくログインができてはしゃぐ。そしてメッセージを見ると家族や友人からのメッセージが届いていた。
『お父さん』
お前のような犯罪者はうちにはいらん、お前は勘当だ。母さんも同じ気持ちだ、2度と顔を見せるな。
『凪』
ねえ何があったの!?
レイがそんなことするはずないよね?
事情を話してくれないと絶交だから
そんなメッセージが届いていたレイはと言うと、
「乗り物酔いした…………」
メッセージの内容より乗り物酔いという予想外のダメージに苦しんでいた。
レイは魔力で体を強化する。
「これで治るでしょ……」
そして改めてメッセージの内容を確認することにした。
そして雫は横で一緒にメッセージを見ていて悲しい表情になっていた。
「レイ、気にすることはない。冤罪だったらきっとみんなも分かってくれる」
雫はレイを慰めようとする。しかしそんなレイはと言うと、
「私って半年間行方不明で犯罪者扱いなのに、メッセージ来てるの二人だけって私人望なさすぎでしょ!」
レイは乗り物酔いが治り、ケタケタ笑っていた。
「……レイは悲しく無いの? 実の親にこんなこと言われて」
「昔の私だったら泣いてたかも。でも今は全然大丈夫、正直興味ないし。あっ!? でも住むところ無いじゃん。今から会いにいく会長さんを
「……レイはちょっとおかしい。普通の人にはこんなの悲しすぎるのに」
雫はそうレイに聞こえないくらいの声量でボソッといたのだった。
「お父さんには『わかりました。今までお世話になりました』これでいいでしょ」
レイは父にメッセージを返す。
「で、あとは……凪ちゃんには何か返した方がいいのかな。半年前だしもうブロックされてそうだけど」
「その子は文面的に心配してる。だから一応は返しておいた方がいい」
「そうかな、じゃあ『久しぶり。私は一条の間について全く身に覚えは無いよ』 これでいいでしょ」
そうしてメッセージを送りしばらく経つとダンジョン協会に到着した。そして車は地下駐車場に入り停車する。
「よし、着いたぞ。このまま車を降りて私に着いてこい」
そう言い皆川は車を降りたので、レイ達もそれに着いていく。地下駐車場からエレベーターに乗りエントランスに到着する。
「はえー、エントランス随分大きいね」
「此処、ダンジョン協会本部は三十階建ての高層ビルだ。そのためエントランスも大きくなっている」
レイの言葉に皆川は答える。そしてエントランスを抜け、そこから職員用のエレベーターに乗り込む。しばらくして最上階に到着したレイ達はエレベーターを降り会長室の前に立つ。
「ここが、会長室だ。一応心配はしていないが暴れないように。いいか?絶対だぞ!」
皆川に釘を刺され、レイ達は会長室の中に入った。
「ダンジョン協会本部へようこそ、【氷川零】さん。私はダンジョン協会の会長をしている【山本宗一郎】だ」
そう言って出迎えたのは白髪の60歳くらいの髭の生えたガタイのいい男の人だった。皆川はそこまで案内すると退出しどこかへ行ってしまった。
「氷川零です。それで今回私に何の用でしょうか」
「まずは、冴島の件だが彼の勝手な行動とはいえ迷惑をかけた。申し訳ない」
宗一郎はレイと雫に頭を下げる。
「私は別にいいですよ。別にあんなので死なないし」
「私も大丈夫。レイが何とかしたから」
レイと雫は頭を下げる宗一郎にそう言った。
「……そう言ってもらえると助かる。それで今回呼んだ件だが……配信者一条、いや【
「…………どうしてそう思ったんですか?」
「まず一条の父親は国会議員をしている。そして噂では息子のした悪事を揉み消したり、本人も裏金や警察への賄賂の噂が絶えないそうだ。つまりだ、今回の事件は一条が何かをやらかしたにも関わらず、君に罪をなすりつけ悲劇のヒロインになりすまし、自身の株を上げているのでは無いか。私はそう考えた」
「なるほど理解しました。では次に私の起きた一条との出来事について話します」
そう言うとレイは一条にされたことを話した。
「……なるほど、そんな事があったのか。しかし隣にいる天城雫を下すほどの強さがあればその時に何とかなったのでは無いか?」
「私はあの時はまだ、ただの女子高校生探索者でしたよ。今は色々あって力をつけたんです。
それで何が目的ですか? 私を呼んだのは話をする為だけじゃないでしょう?」
「ああそうだ、君には一条親子の悪事を暴く協力をしてほしい」
「見返りは?」
「君の指名手配を取り消そう。無罪と発表とする訳にはいかないが、事情聴取をして証拠不十分で再調査が必要だと発表する。一時的な釈放として外を自由に歩けるようにしよう」
「なるほど、でも《《それじゃあ足りないで
す》》」
「……何?」
「私今親に絶縁されて住むところないんですよね、だから家を用意してください。
それとこれからもダンジョンに潜るつもりですけど、配信と録画の義務、探索者育成カリキュラムの受講の義務を私からは除外してください。
あっ、家賃とかは今までに溜め込んだ素材を渡すので協会が買い取ってください。そのお金で払います」
「……私は君の指名手配を解除する事なく今すぐ捕らえることもできるのだが?」
「そんな簡単に捕まる訳ないでしょう」
レイがそう言った瞬間、宗一郎から威圧が放たれ、用意されたカップは小刻みに揺れヒビが入る。雫はその威圧に当てられ冷や汗をかきながら顔をこわばらせていた。
「私はダンジョンが現れた約50年前の黎明期から活動している。いくら君とはいえ無傷では出ることは出来まい。それに此処から逃げると日本中の人間から追われることになるぞ」
「その時は、この国を氷漬けにしてやりますよ」
その瞬間、会長室が音もなく気付かぬうちに一瞬で凍った。
「…………は?」
宗一郎は目を見開き周りを見る。
「それで、私の条件はどこまで聞けるんですか?」
そう言うレイは宗一郎だけに少し強めの威圧を仕返しにぶつける。その時のレイは薄く笑い目を細め、そしてその目は少し発光していた。
「……家は用意しよう。だが、配信と録画の義務、及びカリキュラムの件は飲む事ができない」
「……分かりましたそれでいいです」
そう言ってレイは魔法を解除する。すると氷は消滅し、通常の会長室の風景に戻った。
「それでは、家の候補をいくつか用意しておこう。今日は此処、ダンジョン協会にある宿泊エリアに泊まってくれ。書類等は明日には用意しておこう天城雫さんも泊まってくれて構わない」
「分かりました。じゃあ雫ちゃん行こっか」
「お言葉に甘えて私も泊まることにします。失礼します」
そう言って二人は部屋の外に待機していた秘書に連れられて、宿泊エリアのあるところに案内されるのであった。
そしてその様子を見送った宗一郎はシャツをぐっしょりと濡らしながらため息をついた。
「……はぁ、思ってた以上の強さだった。私が少しでも選択を間違えていたら、この世界は終わっていたかもしれんな。それにあの目、私が今まで対峙してきた中で圧倒的に恐怖を感じた」
そう言った宗一郎は出された条件の家を用意するために部下に指示の連絡をする。その間、宗一郎の手は震えが止まることはなかったのだった。
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