第18話 とある少女は人間相手に無双する

「ねえ、雫ちゃん。本当に拘束してこないんだよね?」


「会長は嘘を言わないはず。でもこれは……」


「なんか、私達極悪人みたいだね」


「実際レイは世間では極悪人」


「あっそうだったね」


 レイは完全武装した特殊部隊数十人を前にしても尚、雫に向かってふざけていた。


 そうしていると、青髪のポニーテールのキリッとした女性がレイ達の前に現れる。


「貴様が氷川零だな、私は会長に命じられて迎えに来た【皆川】だ」


「どうも、それよりもこれは私への


 レイはフードを被った状態であたりを見渡して皆川に言う。


「いや、これは私が用意した訳ではない。本来内密に執り行う予定だったが、今回の件を聞いた【冴島】が勝手に連れてきた者達だ。すまない、変に警戒させてしまった。武力行使はしないはずだから安心して欲しい」


「……いや、それはどうだろう」


「どう言うことだ?」


 レイがそう言い、皆川が怪訝な表情を浮かべたその時、一人の男がこちらに向かってきた。


「冴島……」


「いやいや、このくらいしないとダメだろ!相手は指名手配犯だぜ?何指名手配犯が殿様気取ってんだよ。ほら大人しくこの手錠自分でつけな!」


 そう言って私の足元に手錠を投げつける。


「冴島、貴様何をしている!!やめるんだ!」

 

 皆川が冴島に向かって怒鳴る。


「いやいや、指名手配犯のクズにはこれくらいが丁度いいだろ!おいクズ!この周りには交通規制が行われているから、誰も人質になんてできねえぞ。人に魔物を押し付けるような雑魚だから小細工でもしてそこの四天王を倒したんだろ?それもここじゃ通用しねえ。大人しく投降しろ!」


「おい、やめろと言ってるだろう!」


「レイ落ち着いて。あいつの言うことは聞かなくていい」


 レイの強さをよく知っている雫は焦りながらレイを宥めていた。


 レイは手で二人を制し、自分の足元にある手錠を手に取る。すると冴島は勝ち誇った顔で言う。


「ハッ!やっと観念したか!ほら大人しく……」


 冴島が喋る中レイは手に冷気を漂わせ手錠を凍らせる。そして軽く握ると手錠はボロボロと崩れ、やがては原型がなくなった。


「なっ!?それは魔法抵抗がある鉄で作った手錠だぞ!なぜそんな簡単に壊れる!」


「さあ? これが脆かっただけでしょ。それと冴島さん? 私は何でここにいるか分かってる?っていう条件だからここにきてるんだよ。それを破っているってことはあなた達全員ここで殺しても私としてはいい訳だ。さあ、大人しく下がってくれない?」


 私がそういうと冴島は顔を真っ赤にして怒鳴る。


「ぶっ殺してやる!!全員銃を構えろ!!」


 冴島が命令をし特殊部隊達はライフルを構えた。


「おいよせ!死にたいのか!」


「やめた方がいい、これはあなた達のためを思って言ってる!」


 二人が冴島を必死に止めるが、冴島は聞く耳を持たなかった。


「こいつを庇うってことはお前らも同罪だ!おいお前らこいつらを殺せ!」


 冴島は特殊部隊達に命令をする。しかし一向に銃声はしなかった。


「おい!何してんだ!早くしろ!!」


「弾薬が凍って弾が撃てません!!」


「────は?」


 冴島は特殊部隊の方を見ると銃は凍っていた。そしてレイの方を見るとフードの中から、水色の光が二つ発光していた。


「私一人に銃を撃つのは別にどうにでもなるからいいんだけど、関係のない二人も狙われちゃうと流石にね。ちょっと冴島さん、あなた私を随分と目の敵にしているように感じたけど、私あなたに何かしたのかな?まあ別にどうでもいいけど」


レイはそう言い放つと第一位階の魔力を解放し軽く殺気と混ぜて冴島とその特殊部隊達にぶつける。

 すると全員立つことができなくなり地面に這いつくばっていた。


「くっくそ、なんなんだよ一体……」


 地面に這いつくばりながら苦しそうに冴島はいう。


「一応言うけどこれ以上邪魔をして私の時間を使うようだったら次はもっときついのいくからね」


 私は冴島にそう言い圧を解除する。


「はぁ、はぁ、くそおおおおお!!!」


 冴島は立ち上がるなりいきなりレイに殴りかかった。レイはそれを避け、腹部を殴った後回し蹴りをして冴島を吹き飛ばした。


「ぶべらっ!?」


 そうして冴島は十数メートル吹き飛びそこからゴロゴロと転がり特殊部隊の盾の前で止まり、そして白目を剥き気絶した。


「よし、じゃあ早く行きましょう車ってどっちですか?」


「あっああ……こっちだ」


 戸惑いながらも皆川は私と雫を連れて車の方は案内するのだった。


 レイは車に乗り込む。するとレイに皆川は一台のスマートフォンを渡した。


「これが条件だと言っていたスマートフォンだ」


「ありがとうございます。これで一応はメッセージを確認しとかないと」


「でもレイ、あなたメールアドレスとか分かるの?」


 雫がそう聞いてくる。


「甘いよ雫ちゃん!私は几帳面だから紙に書いて収納していたのさ!」


 レイは収納から一枚の紙を取り出す。そこにはメッセージアプリをはじめとしたいろんなサイトのメールアドレスやパスワードが書かれていた。


「まずはメッセージアプリを入れるとこからかな」


 私はメッセージアプリを検索し、インストールする。


「レイ、それは競馬の予想アプリ」


「あれ?本当だ似てるからわからなかった」


「だから全然似てないって」


 雫は呆れたように言う。そしてレイは無事に通話アプリをインストールし、ログイン画面でぽちぽちと情報を打ち込んでいく。


「はぁ……これ着くまでに打ち終わるの?」


 そう言いながら雫は窓の外の流れゆく風景を見ながらため息をつくのだった。

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