第17話 とある少女はダンジョン協会に向かう
あの雫と言う女の子を送り返してから、さらに約1週間が経過していた。
私はあれから攻略スピードを上げ、現在第10層まで来ていた。
攻略途中、第30層あたりからちらほらと人が居たがバレることなく順調に攻略ができていた。
────しかしそんな私は今、非常に焦っている。いきなりなんだと思うだろうけど、とにかく焦っている。何故か前にボコボコにした雫ちゃんが10層の出入り口付近で立っていたからだ。
正直偶然だろうと思い彼女がいなくなるまで待っていたけど、1時間経っても一向に動く気配がなかった。
そして、私としてもここで時間を無駄に浪費することはできないので進むことに決める。
ローブは一度脱ぎ収納に仕舞った。あの時私はフードを深く被ってたし、髪の毛もちょっと昔と色合いが変わってるし、表情も昔より乏しくなっている自覚はある。
だから多分大丈夫だと信じて勇気の一歩を踏み出した。
そして彼女の横を通り過ぎて歩いて行く。
大丈夫、大丈夫だ!なんだ全然大丈夫じゃん!ふぅこれが危機一髪ってや────
「ねぇ」
絶望の声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。私に言ってる訳じゃない────
「ねえってば」
そして私は手を掴まれた。
はい、全然ダメでした。
レイは雫の方に振り返る。
「なんですか?」
「やっと会えた」
「私達どこかでお会いしましたっけ」
「今回は私のドローンは録画になってるから別に心配はいらない。トラブルの時に提出するだけだから」
「あの、本当になんの事だか」
「しらばっくれても無駄。私のスキル≪第六感≫があなただと言っている。今日もこのスキルの効果でここで待っていれば会えるような気がした。それにあなたの服装、ダンジョンにロングスカートは独特すぎてすぐに分かった」
「……それで、私に何の用?」
もう誤魔化しが効かないと思ったレイは収納からローブを取り出し羽織った。
「この前と一緒。私とダンジョン協会に行って欲しい」
「また? もう一回気絶させて欲しいの? 私もそんな非情な人間になりたくないんだけど」
「今回は私が協会のトップに直接会って交渉した。あなたの身柄を拘束することは絶対にしないという条件で、私とダンジョン協会に行って欲しい」
雫はとても真剣な顔で私に言ってきた。
「もう一個条件があるんだけどそれ聞いてくれたら行って話を聞くだけならいいよ」
「分かった。それでその条件は?」
「携帯電話、新しいの用意して欲しいんだけど。私の壊れちゃってるから調べ物とかできなくて困ってるんだよね」
「そんなことでいいの? 分かった用意する。けどあんなにスマホの操作下手くそなのに必要なの?」
「あっ!言ったな〜? あれは私の持ってたヤツとはまた違う機種だったからだよ!」
「機種は違ってもブラウザのサイトは世界共通、検索すら出来なかったあなたにその理論は通用しない」
「うぐっ……ほら早く行くよ!」
「待って。転移門はこっち、それにダンジョン協会の人に迎えを頼まないといけない」
「私はクエストで1層まで転移門に使わずに行ってるから別に1層集合でも────」
「だめ。一緒にいないと逃げそうだから私も着いていく。とにかくダンジョン協会に連絡する」
そう言って私の方を見ながら雫ちゃんは電話をし始めた。
正直レイはこのまま振り切ることもできるが指名手配された状態で追手を警戒しながら地上を歩くのは正直めんどくさい。
ならあの子の条件を飲んで一旦話を聞いた方が後々楽そうだと思い、雫と一緒にダンジョン協会へ行くことにした。
電話を終えた雫がこちらに歩いてきた。
「お待たせ。それじゃあ行こう」
「わかった。取り敢えずはしばらくよろしくね≪雫ちゃん≫」
「……何で私の名前を知ってるの?名乗ってはないはず」
「名前わかんないと不便かなって思って前に会った時に名前とレベルだけ鑑定したんだよ」
「そういえば、私もあの時鑑定しようとしたけど弾かれて鑑定できなかった」
「それは多分鑑定スキルのレベルが足りなかっただけだよ。鑑定スキルを持っている人には同等かそれ以上のスキルか魔道具が必要だからね」
「知らなかった。そういえばまだ名前をあなたの口から聞いてない」
「そうだったね。私はまあ知っての通り氷川零だよ。レイってよびな」
「分かったレイ。取り敢えずはよろしく」
そう会話しながらレイ達は第一層に向けて歩いていくのだった。
◇◇◇
≪ダンジョン協会本部会長室≫
「ふむ……そうか、分かった迎えをよこそう。それにスマートフォンも用意しておこう」
雫からの電話を取っていたダンジョン協会会長
【山本宗一郎】は雫の電話の内容に内心喜んでいた。
(あの事件、おそらく氷川零は被害者だ。つまりは私達側である可能性が高い。もしかしたら強力な味方になるかも知れんな。取り敢えずは一度話を聞いてみんとな)
「皆川を呼んできてくれないか」
「かしこまりました」
宗一郎がそう言うと、秘書が部屋を出て行った。数分が経った頃、秘書ともう一人のいかにも真面目そうな青髪の女性が部屋に入ってきた。
「お呼びでしょうか会長」
「ああ、氷川零のことだが天城雫が条件を一つ増やすことで交渉に成功した。条件はスマートフォンを用意することらしい。だから皆川、君にはスマートフォンを持って彼女達を迎えに行って欲しい」
「わかりました。ですが、本当に拘束しないでよろしいのでしょうか」
「拘束したところで無駄だろう。あの【四天王】と呼ばれたほどの天城雫が一方的に負けたのだからな」
そうして宗一郎は雫と会話した時のことを思い出すのだった。
────────
「今日は来てくれて感謝する、天城雫さん」
「問題ない。それに私も今回の件であなたの元に行き話すつもりだった」
「そうか、それでは早速だが今回の出来事を教えてくれるかな?」
「彼女はおそらく氷川零。彼女は────」
雫はレイとの戦闘のことを話していく。そして全て話し終えたあと、宗一郎は目をつむり唸っていた、
「うーむ、にわかには信じられんな。他人の魔法に干渉して自分の魔法で上書きするなど...」
「彼女はそれを簡単そうにやっていた。しかもこの間のレイドの時の吹雪は自分の仕業だと言っていた。それに今起きているこの渋谷ダンジョンの気温低下もおそらくは彼女の仕業。」
「なっなんだと!? それは本当か!? ならば一体何のために……」
「彼女はあのときテンションが上がってそうなったと言っていた。つまりは本気を出せばもっとすごいことになると予想できる」
「ははっ、その人智を超えた力。まるで皆が言っていたような【魔王】そのもののようだな」
「私も正直気絶する前の魔法は人が出していいような次元じゃなかったと感じた」
「おそらくは、この行方不明だった半年の間に何かあったと思うのが自然だろう」
「同意する。あとひとつ思ったことがある。多分だけど一条の件に関しては嘘は言っていないと思う。あれほどの力を手に入れた状態で嘘をつくメリットはないと思うから」
「おそらくはそうだろう、あの事件の事についても君には話しておくべきだろう。あれは────」
「そんなことが……」
「予測に過ぎんがね」
「やっぱり、これは彼女に一回ここに来てもらうべき、交渉は私がする。」
「それはありがたい。それでは彼女を納得させる条件を考えていくか」
そうして時間は過ぎていくのであった。
◇◇◇
────宗一郎が迎えの用意など色々なことをしている頃、レイ達は第9層を歩いていた。
「そういえば雫ちゃんは何歳?」
「私は今年で17。4月からは高校2年生」
「私と一緒じゃん。私も一応高校2年生になる年だよまあ、私はもう高校とかに興味ないけど」
「レイも多分指名手配が解かれた場合、高校に通わないといけなくなる」
「なんでさ、義務教育じゃないでしょ」
「ダンジョンに潜って死んでいく若者が多いから未成年は2年くらいの冒険者育成カリキュラムを受けないといけないようになった」
「うへえ、めんどくさ」
「私も今年から受けなきゃいけない、必要ないのに」
「雫ちゃん結構強いもんね」
「私はこれでも一応【四天王】って呼ばれるほどには強い」
「はえーそうなんだ」
「あんまり興味なさそう……」
そんな他愛もない会話を続け数時間が経ち、レイ達は第1層の入り口まだ来ていた。
「それじゃあ出ますか、半年ぶりの地上だ〜」
「地上に出たらダンジョン協会の迎えが来ているはず」
そしてレイはもう一度フードを深く被り、そうして二人はダンジョンの外に出た。
しかしそこに広がっていたのは予想外の状況だった。
「……ねえ、雫ちゃん。本当に拘束とかしてこないんだよね?」
「会長は嘘を言わないはず。でもこれは……」
そこに広がっていたのは特殊部隊のような格好をした数十人が盾を持ちその後ろからライフルを構えていた────
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