第15話 とある少女はお尋ね者

「…………えっ?」


 レイは自分のステータスを見て喜びでもなく悲しみでもない、ただひたすらに困惑していた。



 ステータス


 氷川零ひかわれい

 (ニックネーム・レイ)


 種族・人間【半堕天】


 状態・指名手配中

 

 レベル840 1/2


 スキル

 ≪全属性魔法【第一位階】≫ ≪戦闘術・全【第一位階】≫ ≪鑑定・全≫ ≪異空間収納≫ ≪代償の一撃≫

≪魔力感知・全≫


 称号

 ≪超絶機械音痴≫ ≪半堕天≫

 ≪第一位階に至りし者≫ ≪星渡りの旅人≫

 ≪煌星の候補者≫ ≪お尋ね者≫


「おっお尋ね者……? 指名手配中……?」


 レイのステータスは異次元とも言える状態だった。魔法は全属性魔法が使えるため統合された。剣術と格闘術も戦闘術に統合され、新たに魔力感知も追加されていた。

 レイはレベルの横にある数字と状態にある指名手配中と称号のお尋ね者以外正直どうでもよかった。


「なんで、私指名手配されてるの...? ハッ!?もしかして2日前ののせい!? なんで!? もうそんな近くにいたの!? ヤバイ、ドウシヨウ」


 レイは大量の冷や汗をかき、ロボットのようにカクカクと動いていた。

 レイはこの世界のものに感情はリセットされているが別に記憶が消えたわけでも、常識がなくなったわけでもない。だからレイは現状に焦っていた。


「それ以外考えられない……おかしい、でもなんで私だってバレたんだ? もしかして、ここだと半年間行方不明だから消去法で私に? どうしよう!? とりあえずこのダンジョン全部破壊すればいいんじゃない!?」


 レイはまともな判断ができなくなっていた。常識はなくなったわけではない……はず……


「とりあえずこんなところにずっと居座るわけにも行かないしとりあえず1層に向かわないと……」


 そうしてレイはおぼつかない足取りで、神殿を出るのだった。


 レイがダンジョンを逆走している頃、雫もまたダンジョンに潜っていた。


◇◇


 ≪雫side≫


 雫は前回レイドで攻略した60層の3つ手前の57階層に訪れていた。ここは平原が広がるエリアで、敵の視認もしやすく雫のステータスではまず負けることはない場所だった。


「……やっぱり、この気温の下がり方はおそらく魔法の影響。でもあんな魔法を使える存在なんて聞いたことがない。もし人間だったらどんな人なんだろう。考えられる可能性は半年前にここで行方不明になった『氷川零』、もしくはダンジョンに無断で入っている人。

 でも『氷川零』は今まで3層付近で活動していたはずだからそんな強さはないはず。

 だから無断立ち入りの方が可能性は高い...か」


 雫はこの前のレイドの時に襲ってきた吹雪が頭から離れず、別のダンジョンを拠点にしているにも関わらず頻繁に渋谷ダンジョンに潜っていた。

  ちなみに、前回の吹雪の影響は魔法をレイが消したため影響はない。しかし砂漠でブチギレた結果実害は砂漠エリアだけ留まったものの、ダンジョン全体の確認されている平均気温は従来より10度下がっていた。

 レイは本当に常識がなくなったわけではない……はず……


◇◇◇


 レイが第1層を目指し始めてから1週間、レイは現在第61層まで戻ってきていた。

 そんなレイは今絶賛ピリピリしていた。


「なんで魔物は一々沸き直すんだよ。逆走している人の気持ちにもなって欲しいねっ!しかもここなんてなんの特徴もない地味な平原だし」


 悪態をつきながら歩いていると、レイの前方から剣を使った戦闘音が聞こえた。


(これは...剣を使った戦闘音? ハッ!?もしかして私を捕まえにきた人!? いやでもここまで一回も他の人間には出会っていない。つまりは攻略組?……わからない、とりあえず関わらないようにしよう。

あっでも私がなんで指名手配をされてるのか調べないと、もしかしたら氷魔法の事じゃないかもしれないし?違うかった場合は本当に心当たりはないけど。私のスマホは初めての死神との戦闘で壊れたからケータイだけ一瞬貸してもらおう)


 そうしてレイは戦闘音の方に足を進めるのだった。

 しばらくして、その戦闘音の場所が肉眼で見えた。

 そこには黒髪でボブカットの女の子の探索者が騎士のような鎧を装備した魔物と戦っていた。


「あれは、女の子?しかもソロだ。しかもなんか彼女の周りを飛んでるし、鬱陶しくないのかなあれ」

 そうしてその探索者を観察していると、倒したと思い放置していた騎士が彼女の背後で起き上がった。しかし前の騎士と戦闘していた彼女は背後からの攻撃に気付くのが遅れてしまった。


「はぁ……しょうがないなぁ」


 そうして私は第二位階の魔法≪アイスアロー≫で騎士たちを氷漬けにする。そしてフードを深く被り彼女の目の前に行き、


「ねえ、ちょっと携帯電話貸してくれない?」


 そう言った。


 これはレイが帰還して初めて人に話しかけた言葉だった。

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