第3話 とある少女は死神と戦う


 暫く時間が経ち少し落ち着いた私は今後の策を練っていた。

 正直勝ち筋なんてものはない。なんせここはさっき鑑定したら渋谷ダンジョンの80だからだ。

 人類はまだこのダンジョンを50層までしか攻略できていない。なのにここは80層だ。


 正直この場所の鑑定結果を見た時、悪い夢であってくれと思った。

 でも私には異空間収納がある。食べ物もある程度入れているので、数日ならここで過ごすことができる。


 「ここでギリギリまだ助けを来るまでで待つか...」


 そういった矢先、さっきの一条の顔がフラッシュバックした。


 (────そうだ、どれだけ人気と言っても必ずしもその人が良い人というわけではない。

 ましてやここに攻略しにきた人が来ても、あの死神と戦ったらまた私を囮や盾にするだろう。

 そうなるくらいなら押し付けてきたあいつらを怨みながらでも自分で戦って死んだほうがマシだ)


「そうだ......そんないつか助けが来るなんて淡い期待に縋ろうとするな私!いつだって信じれるのは自分自身だろ!!」


 私は自分の力で地上に戻る覚悟を込めてそう言った瞬間、私の前に何かが表示された。


 その内容は


 ≪称号・半堕天≫を入手。


 内容


 ・正の感情と負の感情が半分ずつ混ざり合った状態で自分自身の困難に立ち向かおうとするものに与えられる称号。

 この称号は使用することで効果を発揮する。


  発動効果


 ・今までに自分の生まれてきた世界で関わってきた物へのをリセットし、それを糧として自分自身を進化させる。

 しかし発動動機になった目的への感情は保持される。


 称号の使用に伴い、使用者の性格が変わる可能性があります。


  この称号を使用しますか?


 はい/いいえ


 


 だった。


 しかし私は迷うことなく≪はい≫を押した。すると私の体が白く光始める。

 私はこれからのことについて考えていた。



────正直、家族や友達への感情がなくなるのは悲しいけど、リセットされるだけだし! 手も足も出ず死ぬよりもがいて戦った方がマシでしょ! まぁ未来の私がなんとかしてくれると思う!




 そうしているうちに光が収まっていく。光が無くなった瞬間、レイは電池が切れたかのようにカクンと俯く。


 しばらくして顔を上げるとレイの表情は普段とは違う冷たい無表情になっていて、髪の毛は前髪の一部が白色に変色していた。

 

「不思議な感覚だ。さっきまで家族のことやら友達やら色々考えていたはずだけど、今は正直全く興味がない。本当にさっきまでの自分が嘘みたいだ」


 レイはそう言いながら巨大な廊下の先の扉の方へ向かいながら、ステータスを開き、先程までの自分の体と今の自分の体を比べていた。


 ステータス


 氷川零ひかわれい

 (ニックネーム・レイ)


 種族・人間【半堕天】


 状態・正常

 

 レベル27


 スキル

 ≪氷魔法・第二位階≫ ≪剣術lv.8≫ ≪格闘術lv.8≫ ≪鑑定lv.6≫ ≪異空間収納≫ ≪代償の一撃≫


 称号

 ≪超絶機械音痴≫ ≪半堕天≫

 ≪第二位階に至りし者≫




 うん、ステータスにはないけど力も増えてるし身体能力も比べ物にならないほど上昇している。

 スキルは代償の一撃が増えてるけど使い方がいまいち分からないからこれは今使い物にならないだろう。

 スキルレベルもそれぞれ上がっているけど、この氷魔法の≪第二位階≫っていうのがよく分からない。

 分かることは氷魔法は今まで比べ物にならないレベルで威力があるし魔力の制御も格段にやりやすい。

 あと戦闘スキルを使うと基本的に黒い稲妻が纏うようになった。


 称号も名前が変わっている。


 特に超機械音痴は超絶機械音痴になっていた。これは退化しているのでは...?


そうしているうちに扉の前に到着した。


 私は深呼吸をしてその扉を開く。すると其処は、真っ白な神殿のような空間だった。

 そして神殿の奥にやはり死神が立っていた。

 

 私は覚悟を決め、死神に一瞬で近づく。

 

 レイは黒い稲妻を剣に纏わせながら、今までより数倍早く威力がある斬撃を死神に向けて放つ。

 死神は簡単に受け止め、甲高い金属音と衝撃波があたりに広がる。

 そして鎌の持ち手の部分でレイの腹部を殴り吹き飛ばす。


 吹き飛ばされたレイは受け身を取りすぐさま立ち上がり、体制を整えようとする。

 

 その瞬間目の前に死神が現れ鎌をレイの首めがけて振り下ろした。


 レイはかろうじて身を後ろに引き、間一髪のところで避ける。


 そして死神はそこから休みなく連続で攻撃を繰り出してくる。


 レイは攻撃を剣で受け流すが全ては守りきれず、反撃する間もなくズバッという音と共に体に切り傷が増えていく。


 「ぐっ...」


まずい、どうすればいい、全然攻撃できないし多分相手は手加減をしている。

 私をいつでも殺せるのにいたぶって遊んでいる。

 多分普通に戦っても勝てない。唯一可能性があるのはスキルにあった≪代償の一撃≫だ。


 説明によると代償の一撃は、自分の全ての身体的な力を一度の技にこめるというスキルだった。


 これを相手が油断しているうちに一か八かでぶつけるしかない。


 レイは攻撃を受けながら、一瞬のチャンスを伺っていた。

 そうしていると死神の攻撃が一瞬止まり、大きく振りかぶった瞬間をレイは見逃さなかった。


≪代償の一撃!!!≫


 見事攻撃は命中し、轟音と共に死神は壁に激突した。

 レイはなんとか足を奮い立たせ死神の方をずっと見据える。


 すると死神が起き上がる。


 「はぁ...はぁ...ははっ無傷かよ...」


 死神は自分についた粉塵をぱっぱっと払うだけで、傷ひとつついていなかった。


 レイは全ての力をが入らなくなり、ガクッと膝をつく。




────そして今に至る─────






────────


「はぁ...はぁ...」


 全ての力を使い切った私は、こちらに向かってくる死神をもうどうすることもできない。


「ははっ...ここまでかな...」


 目の前まで来た死神は鎌も振り上げた。

 力が入らずなす術のないレイは下を向いて目を瞑る。





 しかし




 いつまで経っても振り下ろされることのない鎌に何かがおかしいと思ったレイは目を開いた。 


 すると辺りは真っ白な神殿から、満天の星空が見える美しい草原に変わっていたのだった────────








 







 

 



 


 

 

 









 

 

 

 

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