第94話

「ごめん。あんなことして、怖がらせた」


「っ、真守は悪くない!わたしが悪いの、それにもう真守に迷惑かけたくないの」


「なんの迷惑だよ」


「ぜ、ぜんぶ、いろいろ、わたしがいると、」


「俺はゆるがいないと仕事にも行けねえよ」


「、」


「ゆる。俺たちの家に帰ろ」




その場にしゃがみ、ゆると視線を揃える。


俺の知らないところでもたくさん涙を流したのか、目をぱんぱんに腫らし、より一層二重が強調された大きな瞳が、形を歪に変える。




「おれたちの、家?」


「そうだよ。俺とゆるの家」


「わたしがいても、いい家?」


「当たり前だろ」


「ならもう、リビングで寝ない?」


「は、リビング……?」


「……真守の家なのに、わたしがいることで真守が過ごしにくいのは、いや」




それを聞いて、もしかして出て行った理由はそれか?と半透明の答えに辿り着いた。潤んだ瞳が真剣に訴えかけてくる。


……本当に、この女だけはどうしようもねえな。


でもそのどうしようもないこの女が、どうしようもないほどに愛おしくて大切で特別で、手放したくないと思うのだから世話がない。


ハムスターのかくれんぼと同じだ。面倒よりも、愛おしさが勝つ。どれだけ逃げ隠れされても、俺が必ず見つけだす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る