第92話
そして俺は、改めて、幸運の持ち主だったのだと自覚することになる。
ゆるのバイト先へやって来た。客のふりをして店に入ったがゆるはいない。
悠長に飯を食っている場合ではないが、店に足を踏み入れたからには客を全うしなければ。
かけうどんを注文し、ひとりで麺を啜っていると。
「あ。〝まもり〟」
スーツ姿の、品のある男がお盆を持ったまま俺に声をかけた。
1度だけゆるの卒アルで見たことがある。俺は昔から人の顔と名前を覚えるのが得意だ。
だからこの男が、
「やっぱりここに来ると思った。白石さんだよね?俺の部屋で寝てるよ」
「、……」
「先に言っとくけどなにもしてないから」
男は両手を合わせ、「いただきます」と言ってから食べ始めた。
わざわざここに来て俺の隣に座るということは、やっぱりゆるは自発的にこの男の家に行ったということだろうか。
「ゆるに会わせて」
「いいよ」
「は」
「俺は今日仕事だから合鍵だけ持ってきた。住所教えるから勝手に入って鍵はポストにでも入れておいて」
「は……?」
「なに?」
「いや、……住所教えて」
「―――……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます