第90話

それにしても静かだ。飯の匂いもしない。部屋も暗いし。


ひと通り、ゆるの部屋以外を確認した。最後にゆるの部屋を2回ノックしたが、応答がなかったのでゆっくりと扉を開く。




「……は、いない……?」




頭が真っ白になりかけたが、すぐに冷静さを取り戻した。また冷静さを欠いてはいけない。


とはいえ、やけに重く苦しい心臓を抑えながら、ゆるに電話をかける。




「……、」




何度かけても出ない。……は、まじでどこ行ったんだよ。


今のゆるには行くあてなんてないはずだ。まさかあの男の家に行ったか?あり得ないこともない。


もしくは事故?知らないだれかに連れ去られた?今まで散々な出来事に見舞われてきたゆるのことだ。その線も、じゅうぶんにあり得る。



俺は必死に取り繕りながらも、急いで部屋を出た。











「悪い。今日出社できない」


『了解っす。なんかありました?』


「や、大丈夫。小浪、なんかあったら電話してくれていいから。多分出れる」


『? はい、わかりました……?』

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