第89話



「社長〜、今日も早く帰るんですか〜?」


「うん」


「もー。たまには俺にも構ってくださいよ!ちな今日の飯は?」


「あー……なんだろ」




昨夜に食べ損ねたハンバーグだろうか。


リビングへ逃げると、ゆるが夜ご飯の準備を進めている最中だったことが伺えた。


取り分ける皿と箸はテーブルに。お茶碗と味噌汁をよそうお椀はキッチンに。


洗い物の途中だったのか、少々泡が残ったフライパンやまな板、計量スプーンなどが流しを占領していた。




夜はソファで寝た。


ゆるが自分の部屋に戻ったのかは知らないが、ゆるがいなくても、とてもじゃないけれど俺はあのベッドで眠ることはできなかったと思う。



最低だ。もっと他に伝えかたはあっただろ。


男の力でねじ伏せゆるを泣かせた。俺は優しい人間の皮を被ったただの猛獣だ。



帰ったら、まずは昨日のことを謝る。話はそれからだ。







「ただいま」



18時半過ぎに家に着いた。


いつもなら、鍵を開けて靴を脱いでいると必ずゆるがリビングからやってくる。明るい笑顔で〝真守おかえり!〟と出迎えてくれるのに。


今日はそれがない。……当たり前か。

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