第88話

違う。そうじゃない。そういうことじゃない。


そう言いたいのに、その反面でなにが違うのかもよくわからない。


わたしは結局なにがしたいんだろう。



真守にこれ以上迷惑をかけたくない。けれどお金は欲しい。早く負債を減らして楽になりたい。そのためには、その相手が気の知れた水夢であるのならば、体くらい売ってやる。それに、わたしのせいで真守に不幸が訪れてほしくない。


それがまた最初へと戻り、延々ループする。




首筋にちくりと鈍い痛みを覚えた。真守の手が肌に触れる。いつもならそこから優しい温もりが伝わるのに、今日はそれを感じることができない。



どうしてわたしはこうなんだろう。


涙の操作なんてできたことがない。どれだけ泣きたくないと、今は泣くべきでないと思っていながらも、意思と反して勝手に込みあがり、流れ落ちる。



真守ははっとしたように体を起こし、上から退いた。涙は流していなくとも、泣いているように見えた。




「……ごめん。頭冷やす」




弱々しく紡いだ真守は、ここが自分の部屋だというのに、この部屋から出て行ってしまった。

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