第79話

ハンカチで手を拭きながらお手洗いを出ると、すぐに真守を見つけた。


真守は仕事だったからスーツ姿。予定では一度帰ってきてもらって、着替えてから一緒に行くことになっていたけれど、思いのほか仕事が長引いたために、真守は現地へ直行となった。



わたしは普段から、異性のこういう仕草が好きだとか、特定の服装が好きだなんてことはあまり思わないけれど、真守のスーツ姿はかっこいいと思う。


……や、真守に関してはどんな格好でもかっこいいか。それこそ、寝起きの寝癖頭でも。




「おまたせ」


「ん。……なんかにやけてね?」


「真守の寝癖ってひどいよね」


「は〜?だれかさんのよだれに比べたらマシだわ」


「だれかさんって?」


「……よくそんな自分じゃないですみたいな顔できんな?」


「あ、わたし?」


「しかいないじゃん」

 



あの夜、不覚にも真守にときめいた夜から1週間が経った。


寝て起きたら忘れるタイプのわたしだ。あのときめきを引きずることなく、今まで通り仲良く生活できている。

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