第67話

わたしは足を止めた。


ひっきりなしに人が行き交うわけではない。とはいえ男女が立ち止まり、ちぐはぐな表情を浮かべていることが気になるのだろう。


ちらちらと視線を受けていることに気付いてはいるけれど、わたしは水夢から目を逸らさない。



高校生の頃に感じていた儚さが、歳を重ねるごとに色気へと変色している。


わたしはひとつだけ、そんな水夢の苦手なところがある。




「へえ、なるほど」




時に浮かべるシニカルな笑み。


危うさを持ち合わせる目色に、心臓がきゅっと縮んだ。




「〝まもり〟、起業したんだよね」


「え……なんで水夢が真守のこと、」




ビルの隙間。吹き抜ける風が砂埃まで連れてくる。


ほとんどが影に埋め尽くされているのに、なぜか水夢だけを照らす一筋の光が、〝おまえには幸せなんて与えてやらない〟とわたしを嘲笑っているように見える。




「知ってるよ。白石さんのことは」


「……なにかするの?」


「なにもしないよ」


「……どうして水夢は、わたしなの」

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