第66話

片付けは店主と奥さんがしてくれると言うので、ありがたく退勤させてもらい、13時過ぎにお店を出ると。


……いやな予感は的中した。





「ねえ。これはたちが悪いよ」


「いつまで待っても連絡くれないから。こうでもしないと話せないでしょ」




水夢がお店の前で待っていた。


今度こそ白石ゆるとして、……いや、この場合はお店の店員としてでもいいかな。「迷惑です」とはっきり告げる。



水夢は風に靡かれた前髪を鬱陶しそうに払い、「1度もだめ?」と聞くから「1度もだめ」と同じ言葉を繰り返し、さらに「しつこいよ」と大きめの岩を落としてからスタスタと先を歩く。


が、水夢にとっては小石を蹴られた程度だったのかもしれない。すぐにわたしに追いつき隣に並んだ。




「冷たいね」


「そう思うならそうかもね」


「もしかして今恋してる?」


「してないよ」


「ならなにか問題ある?」


「あるよ。大好きな人がいるの。その人に心配かけたくないし、嫌われたくないからしない」

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