第65話
……うん、そうだよね。
今真守の温もりはわたしが独占しているけれど、それは今の話であって、わたしじゃないだれかが独占する時間もあるんだ。
なんなら、そのだれかが与えられる温もりは、これよりももっと濃密なものかもしれない。
無意識に真守に回す腕の力を強めてしまった。
髪に触れる手が心地よくて、ずっと真守を独占できればいいのにって思ってしまう。
思ってしまうだけで、本当にそうなるとは思っていない。
でも、今だけは、わたしだけの真守でいてほしい。
「ゆるおやすみ」
眠る前、部屋の前で真守と別れた。
ベッドに寝転んで天井を見上げて、窓の外に浮かぶ小さな粒をぽつぽつと数える。
7つめくらいで視界がゆっくりと暗転し、わたしは意識を手放した。
◇
「……いらっしゃいませ」
「また来たのって顔してるところ悪いけど、ここ会社から近くて。うどんも美味しいし」
「……」
「白石さんにも会える」
そこそこ賑わっている平日のお昼間。スーツ姿ではない、すらっとしたきれいな男の人がいるなと思ったら水夢だった。
お客さんに対して〝また来たの〟って表情を浮かべてしまったことは悪いと思う。
でも店員としてではなく白石ゆるとしてはそりゃあ思うよ。
だって今日は水曜日。13時で営業が終わる日。……いやな予感しかしない。
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