第60話

「飯ひとりで平気?豆腐だけとか納豆だけはナシな」


「ちゃんと食べるよ」


「うん。なんかあったらすぐに連絡して」


「はあい」




腰を上げた真守はジャケットを羽織り、改めてネクタイを整えた。




「じゃあそろそろ行くわ」


「行ってらっしゃい。気をつけてね」


「ゆるも。訪問は全部無視していいから。戸締りもしっかりな」


「もー、たまにすっごく保護者だよね。大丈夫。ちゃんといい子に待ってるよ」




靴を履き終えた真守が、いつものようにわたしの頭を優しく撫でる。


その手のひらが離れる時、真守が「行ってきます」と言って扉を開ける時、毎度名残惜しい気持ちになるけれど、元気に「行ってらっしゃい」と言いにっこり笑って見送ると決めている。




真守がいなくなった途端、60インチのテレビから流れるニュースキャスターの声が広すぎる部屋に響く。


ふたりでいる時、絶え間なく会話が繰り広げられているわけでもないのだけど、自分じゃない誰かの存在が部屋に在るだけで全然違う。



ひとりで生活していた期間が長すぎて、慣れすぎていたのかもしれない。やっぱり、家にひとりは寂しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る