第54話

「ゆるバイトどうなの。慣れた?」


「慣れたよ。奥さんも店主もすごく優しい人たちでね。店主は顔は怖いけど会うたびに甘い食べ物をくれるの。今日は栗まんじゅうだったよ。奥さんはいつでも優しいんだけどちょっとだけ天然なのかな?今日行ったらすっごいにこにこしながら、〝ねえ聞いてゆるちゃん。今日朝から焼き魚を食べたんだけどね、ラップしてることを忘れてその上からお醤油かけちゃったの。朝から絨毯が汚れて大変でね〟ってうふうふしながら笑ってた。可愛いでしょ。毎日楽しいよ」


「へえ、よかったじゃん」


「うん。それからほぼ毎日来てるらしい常連のおじさんに今日初めて声かけられてね、〝こんな可愛い子に会えたら午後も頑張れるな〟って言われたの。あ、でもね下心はない感じで、ガハガハ笑う系のおじさんっていうか。わかるかな。飴くれたよ。ハッカ味」


「餌付けされてほいほいついてったりするなよ」


「しないよ。あ、あとはね」


「なあゆる」


「ん?なあに?」


「なんかあった?」





心臓が、小さく背伸びした。

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