第52話

「久しぶり。元気にしてた?」


「ぼちぼちだよ。水夢は?」


「俺も同じ。今はここで働いてるの?」


「うん。新卒で入った会社がつい最近倒産しちゃって」


「え。相変わらず人生下り気味なんだね」


「きみも失礼なところは変わってないね」




奥さんが、『ゆるちゃん知り合いなの?せっかくなんだしご一緒しておいで』と休憩時間でもないのに気を利かせて水夢との時間を設けてくれた。


水夢と話すことなんて、まあ正直なところないけれど、奥さんのご厚意を無駄にするわけにもいかず、目の前でうどんを啜る水夢をただ大人しく待つ。




「水夢のお父さんの会社ってこのあたりなの?」


「違うよ。今は外で経験を積むために家とは関係のない会社に入ってる」


「修行中?」


「そんな感じ」




水夢の父親は社長。ひとり息子の彼は、産まれた時からその会社を継ぐことが決定していたらしい。


もしかしたら当時のあの提案も、ストレスの捌け口を求めてのことだったのかもしれない。


それぞれの家庭にそれぞれの事情があるな、とぼんやり思う。

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