第47話

休み時間はずっと机に伏せ寝ているわたし。


だれかと戯れることなく、ぼうっと窓の外を見たり読書をして暇を潰す水夢。


そんなわたしたちは高校2年生から大学1年にかけて、だれにも秘密の関係であった。





◇ ◆



あの日のことは今でもよく覚えている。


課題の提出忘れで居残りが発生した放課後のこと。


空は真っ黒な分厚い雲に占領されていて、朝から降り続ける雨は泣き止むことを知らない幼児のようだった。


薄暗い教室。雨だというのに、換気という目的で大きく開いた窓からは、体育館で部活動を行う生徒の声、靴が滑るきゅっとした音、さらにはボールが跳ねるたび響かせる低音がまばらに聞こえていた。


さらに隣の校舎からはバンド練習の音も。



たくさんの音が鳴っていると、くだらないことを考えなくて済む。


家に充満する酒の匂い、ぐしゃりと潰された空き缶、男女が絡まり合う品のない声、濡れた息、お金をせびる女の声。それらから逃げられる。



わたしは当時、放課後の教室が大好きだった。

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