第28話

今日の総額の3割にも満たない数万円を握りしめる。


車のトランクに詰め込んだそれらを見てまだ物足りなさそうな表情を浮かべる真守に、最後の投げかけをする。




「わたし、真守になにも返せない」


「なんもいらねえよ」


「やだ。わたしの気が済まないの」


「ならそれでいうと俺は毎日ゆるの美味い飯食わせてもらってるから、家帰って飯があるっていうすげえ贅沢な幸せをもらってるってことになるな」


「……なってる?」


「なってるよ。今までコンビニとかラーメンで済ませてたし。ああ、健康にも近付いてるわ」


「……ほんと?」


「ほんと。毎日ありがと。 な、だからまじでいいんだって。それに最近買い物したいと思ってたし、俺は俺でいい発散になったよ」


「……」




真守がトランクを閉めた。運転席に乗り込んだ真守の反対側に乗って、シートベルトを装着する前に、運転席に向かって半身を乗り出す。




「真守。ありがとう」


「いーえ」


「ほんっとうにありがとう」


「ん」


「もうね、すっごくすっごくすっっっごく嬉しい。伝わってる?ありがとう真守。大好き!」




これが真守じゃなくてお人形なら、もしくは動物なら、キスしている。


さらに腕をめいいっぱいに広げてぎゅうっと抱きしめたいところではあるけれど。過去、昂ったわたしが感情を行動に変えた時、真守に怒られてしまったことがあるから今は我慢する。


乏しい語彙力ではあるけれど、感謝の気持ちが伝わるように、言葉に心から思いを込める。

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