第8話
まずは靴を脱ぐ。鞄を置いて手を洗ってうがいをして、大事なものが入っている引き出しに、きちんと大事なものが入ったままかを確認する。
これがわたしの帰宅してからのルーティン。
まあ、だれも上がることのないこの部屋の中から、ものがなくなることなんてないんだけど。
とはいえ確認しないと気が済まないのでいつものように引き出しを開ける。
「……え?」
ない。わたしの大事なものがそこにない。
目をごしごしと擦ってみる。引き出しを戻して、また開ける。
「……ない、」
そこはもぬけの殻。
いっきにドクンドクンと速まる心臓に、落ち着け、と何度も言い聞かせる。
……うん、大丈夫、絶対にある。なくなるはずがない。
もしかしたらこの部屋のどこかに逃げちゃったのかも。ほら、小さいおじさんが連れてっちゃったとかね。探しものあるあるだよね。
確実に確認したはずの場所に、あたかも最初からいましたよ、って顔をして現れることなんて。
気を取り直して、引き出しだけでなく狭い部屋を隅から隅まで探した。
洗濯機、浴槽、布団、キッチン、トイレ、収納棚、ベランダ。けれどどこを探しても見つからない。
ならやっぱりあそこしかなくて、引き出しを開けた。……ない。そんな都合よく戻ってくるわけがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます