第8話

まずは靴を脱ぐ。鞄を置いて手を洗ってうがいをして、大事なものが入っている引き出しに、きちんと大事なものが入ったままかを確認する。


これがわたしの帰宅してからのルーティン。



まあ、だれも上がることのないこの部屋の中から、ものがなくなることなんてないんだけど。


とはいえ確認しないと気が済まないのでいつものように引き出しを開ける。





「……え?」




ない。わたしの大事なものがそこにない。


目をごしごしと擦ってみる。引き出しを戻して、また開ける。




「……ない、」




そこはもぬけの殻。


いっきにドクンドクンと速まる心臓に、落ち着け、と何度も言い聞かせる。



……うん、大丈夫、絶対にある。なくなるはずがない。


もしかしたらこの部屋のどこかに逃げちゃったのかも。ほら、小さいおじさんが連れてっちゃったとかね。探しものあるあるだよね。


確実に確認したはずの場所に、あたかも最初からいましたよ、って顔をして現れることなんて。




気を取り直して、引き出しだけでなく狭い部屋を隅から隅まで探した。


洗濯機、浴槽、布団、キッチン、トイレ、収納棚、ベランダ。けれどどこを探しても見つからない。


ならやっぱりあそこしかなくて、引き出しを開けた。……ない。そんな都合よく戻ってくるわけがない。

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