第2話 集う3バカ。3人寄ればなんとかの知恵

 ──唐突だが、鎧以外の物品に精霊や幽霊は宿らないのだろうか? という疑問に答えたいと思う。


 答えは単純明快。宿る。


 盾や剣、槍、斧⋯⋯この世には様々な武具があるが、それらにも非実体存在は当然のように宿る。

 とはいえ、使っている最中に宿るということは無い。宿るのは、使い手の居ない放置された武具だ。

 なぜいきなりこんなことを言い出したのか? と問われれば、彼が拾いあげた剣がその類だったからだ、と答えられる。


(ハクスラゲーは拾った武器で戦うもんだからなぁ。意外とこういう序盤に落ちてる剣が、意外とめちゃくちゃ使える有能武器だったりするんだよ)


 武器に宿る類の魔物は大きく分けて二種類いる。一見無害な武器を装い、拾い上げた者を操る踊らせる武器ダンシング・ウェポン。武器そのものが空を飛び、襲いかかってくる空飛ぶ武器フライング・ウェポン

 今回の場合は前者、踊らせる剣ダンシング・ソードだった。


宿主ボディ⋯⋯来たか⋯⋯)

(⋯⋯)

(今はまだ魔物の武器だけど、そのうちビキニアーマーの女戦士とか、ボンキュッボンな女騎士の武器となり、その身体を⋯⋯ウェヘヘヘヘ)

(なんこいつキッショ)


 彼は剣を捨てたくなった。

 せっかく手に入れた武器だが、まさかそれが前世の悪友に似た変態ソードとは思わなかったのだ。

 その友人は成績こそ良かったが、催眠フェチの友人と純愛厨の彼は性癖が合わなかった。一緒に同人誌即売会へ行って、帰り道で一緒に事故る程度には仲が良くもあったが。


(なっ、バカなッ!? 何故たかが鎧の魔物が、転生者の僕の支配に抵抗しているんだ!?)

(お前と同じ転生者だからだよ。てかお前ケンマじゃないよな?)

(ッスー⋯⋯いや、あのー。ちょっと⋯⋯何言ってるかわかんないッスねぇ⋯⋯)

(その反応で確信したわ。お前催眠フェチのケンマだろ)

(ケ、ケンマ⋯⋯? 違うよぉ⤴︎? 僕ケンマとかいう頭の良さそうな催眠フェチじゃないよぉ⤴︎?)

(声上擦ってんじゃねえか。声出てないけど)


 剣は前世の友人だった。

 スリップした車にはねられ、共に死んでいたらしい。だからといって、同じ場所に転生するのも奇妙な縁だが。


(⋯⋯その反応、さては君トオルだな?)

(正っ解っ。まだ会ってないけど、ツバサも生まれ変わったんかな?)

(いやアイツ頑丈だし、あっちに残ってるんじゃない?)

(意外と鳥あたりに生まれ変わってたりして)


 そう笑い(?)ながら話す彼もといトオル。

 剣を手に入れ、リーチが伸びた以上、同族狩り(厳密には別種だが)は加速することとなる。

 素振りをする鎧には剣を渡すフリをして自由を奪い、剣を持ったことでただの飾り鎧のフリをするのも上手くなった。

 転生当初は無限湧きを疑うほどに沢山いた生ける鎧も、今は探さないと見つからない程に数を減らしていた。

 トオル達が数少ない生き残りを探していると、床に落ちていた槍が回転しながら突っ込んでくる。


(っ危ねぇ⋯⋯。こういうタイプの奴もいるのか)

(今思い出したけど、僕みたいな主導権を奪おうとするタイプは少ないらしい。多くは今みたいな直接命を狙ってくるタイプなんだってさ)

(もっと早く言ってくんね? てか、あいつの気質的に、そういうタイプになってたら無意味に飛び回ってそうなんだけど)

(激しく同意)


 飛んできた槍を回避し、柄の部分を膝で折るとモヤがトオルに吸い込まれる。空飛ぶ槍は真っ二つに折ると倒せるらしい。

 生ける鎧に加え、幽霊や武器魔物を倒していると、2人(?)が話していた光景に出会う。

 敵がいる訳でもないのに、無意味に飛び回っている円小盾バックラーがいたのだ。

 それはまるでフライングディスクの、あるいは糸のないヨーヨーでトリックを行っているかのような光景だった。


(なあ、アレって⋯⋯)

(ヒャッホォォォォォゥッ!!)

(ああ。間違いない)

(空を飛ぶのってたーのしーぃ!)

((ツバサだ⋯⋯))

(お空を飛んでるみたい!!)

(飛んでんだよ。しかもゆっくりじゃなくかなりハイスピードで)

(この念話みたいなやつ、手に持たなくても聞こえるんだねぇ⋯⋯)

(イエェェェェイ! アイ! キャン! フラァァァァーーーーーイ!!! ジャスティス!!! ⋯⋯む?)


 縦横無尽に動き回っていた円小盾がピタリと停止し、トオル達の方へと飛んでくる。

 敵意は無く、明らかに近くに寄ってくる為の動きだ。


(その声は、我が友では無いか?)

(お前のような奇っ怪な袁傪がいるか! 人外になってるのは李徴の方だろうが!)

(虎になってから出直して来て、どうぞ)

(良いのか、そんな事を言って? 俺がいれば遠距離武器としても盾としても使えるんだぞ? あとなるなら虎じゃなく鳥になりたい)

(⋯⋯へへっ、冗談に決まってんだろ? お前が居なきゃ3バカにならねえしな)

(いっそ清々しい程の手のひら返しの早さは、前世から変わらないねぇ⋯⋯)


 純愛厨のトオル、催眠フェチのケンマ、鳥ケモナーのツバサ。3バカと呼ばれたいつメンが、異世界でついに揃ったのだ。

 ⋯⋯ついにという割にはまだ2話目なのだが。


(それにしても、転生先は随分と各々の好みに合ったものになったね?)

(憑依転生願望の俺は鎧に憑依した精霊、催眠フェチのケンマは装備したら操られる剣、空を飛びたいツバサは空飛ぶバックラー。若干ズレてるけど、確かにいい感じだな?)

(仏教によれば、前世で徳を積むと来世で幸せな暮らしが出来ると言う。即ち、筋肉を鍛えるという徳を積んだことで、今世の俺はこんな素晴らしい存在に生まれ変わった⋯⋯違うか?)

(⋯⋯仏教の徳ってそういうもんだっけか?)

(煩悩に塗れていた記憶しかないし、むしろ天狗道じゃない?)


 そも、仏教における良い来世とは六道輪廻における天道(天上道)、あるいは人道(人間道)であり、魔物に生まれ変わっている時点でそれからは外れている。

 六道でも極楽浄土でもない場所に来た理由があるとすれば、仏教を語っている彼らが別に仏教徒では無いからだろうか。

 それは御仏に見捨てられたのか、あるいはそれらと異なる別の存在が干渉したのか。はてさて。

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