第3話 3バカ、異世界へと踏み出す
明確な自我を持たない魔物を相手に、元人間としての自我と知識を持ち、それでいて魔物の肉体を駆使する存在はあまりにも強かった。
空を飛ぶ事で遠隔攻撃や撹乱の出来るツバサ。多くの同族からはぎ取ることによって、比較的状態の良い
彼らの物騒な掃除は素晴らしい効力を発揮し、およそ
(もう居ない? ケンマの仲間とかも倒した?)
(仲間意識は無いけれど)
(今の所は居ないんじゃないか? そんな気がする)
空飛ぶ武器には索敵スキルのようなものが標準搭載されているのか、ツバサはその手の感覚に優れていた。なお、ケンマは逆に鈍い。
人の不始末が産んだ天然の蠱毒は勝者を産んで終わりを告げ、それを祝うかのような光が彼らを包み込んだ。
(何事!? 浄化か!? 曲者ーっ!!)
(落ち着きなよ。君はアンデッドじゃないだろ)
(あ、そうだった)
光が晴れると、埃を被って古ぼけていた鎧と剣、盾は真新しい姿へと生まれ変わっており、一般兵用のソレには無かった装飾が増え、形状や色も変化していた。
(⋯⋯進化的なサムシングか? この世界そういう世界観?)
(ポシェモンのアニメも進化する時光ってたしな。魔法少女モノの変身バンクみたいなアレかもしれん)
(妙な全能感があるね。今なら半分くらいの時間で掃除も終わりそうだ)
むき出しの鉄を主張していた鈍色の鎧は、闇のような暗い紫の豪奢な鎧へと変わり、鮮血を思わせる真紅の縁どりがその輪郭を際立たせている。
(⋯⋯なんか俺、暗黒騎士みたいになってね?)
(純愛厨の暗黒騎士が居るなら、寝取り趣味のチャラい聖騎士も居そうだね?)
(寝取り趣味かはともかく、創作物でチャラい聖騎士は割と定番じゃないか?)
((確かに))
錆びてこそいないものの、長い間手入れをされていなかった
(鎧に合わせたデザインになったな。ケンマは)
(一体感が出るのはいい事じゃないか。僕、重ね着システムが出る前のモン狩りで、いつも一体感無くてなんだかなぁ⋯⋯って思ってたタイプだし)
(色をそれっぽくしても、なんかゴチャつく感じになったもんな。特にポータブル3reiの銃槍テンプレとか)
((わかる))
そして、木の板に鉄を張りつけただけの簡素なバックラーは鎧と同じ色の総金属製へと変わり、縁も刃のように鋭く研がれたものへと変化した。更にはただの手持ち式から腕に固定もできる形となり、空飛ぶ盾の性質も相まって、使い方次第で様々な活躍が期待できる。
(固定しちゃったら投げにくくない?)
(試してみればいいじゃないか)
(よし来た! さあ、早く投げろ!!!)
(えぇ⋯⋯)
持ち手と前腕で固定する形なのを確認し、盾を付けたまま手刀をするように振るう。
すると、意外な程にスルリと腕から抜け、勢いよく飛んだツバサは壁に突き刺さった。古い館とはいえ、資産価値が著しく下がってしまった。
(⋯⋯威力高くね?)
(生物なら直撃した時点で重傷、当たり所によっては致命傷だね)
なお、突き刺さった本人は身動きが取れなくなっていた。
(回収出来なきゃちょっと問題だな)
(下手に大型の生物相手に使ったりしたら、埋もれてそのままになりそうだね?)
(⋯⋯くれぐれもそうしてくれるなよ? フリじゃないからな!?)
彼らに起きたこの変化は、人を含む知性あるモノ達の間で昇格と呼ばれる現象だった。何らかの条件を満たしたモノへ送られる、世界、あるいは力ある上位者からの祝福。その条件は様々であり、簡単な物ならば一定以上の力を持つこと、多くの同族を従えることなどがある。
その条件は種によって異なり、更には個体の才能によって、条件や昇華先が異なることもある。
共通しているのは昇格によって力が増すことと、大なり小なりその姿が変化すること。そして──外見変化の大小と能力変化の大小は、必ずしも一致するとは限らないということ。
(さて、出口探すか)
(それっぽい扉が下の階にあったと思う。先に確認してみよう)
(もう居ないと思うが、索敵は任せておけ!)
(てか、ケンマお前の目どこよ)
(君が拾った時から君と同じものを見ているよ。視覚は共有されているみたいだね)
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ケンマの覚えていた扉は、古館の玄関だった。広間と階段、左右に続く廊下。まさにエントランスホールそのものだった。
(こんな分かりやすく玄関あったのに覚えてなかったのか、俺)
(トオルって結構注意力散漫だよね)
(すまん、否定できん⋯⋯)
経年劣化によるものか、立て付けの悪い扉を開く。軋む扉の先にあったものは、鬱蒼と生い茂る森林だった。
今まで聞こえなかった虫の、獣の、鳥の鳴き声が、風に揺れる草木の擦れる音。
それは文明に慣れきった現代人にとって、あまり馴染みのない自然の息吹だった。
(うーん⋯⋯森!)
(森だな!)
(飲食不要の体で良かったね。土地勘のない森林なんて、遭難しろと言われてるようなもんだよ)
((それな!!))
──館から森へ、一歩踏み出す。
地球から来た癖のある転生者達が、名前も知らぬ異世界に刻む始まりの一歩だ。
(って感じでどう?)
(それが無ければ完璧だったな⋯⋯)
(君ってやつは本当に、こう⋯⋯残念だな)
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