第20話 なにも知らない子猫ちゃん2

「う〜ん、修也くんがロリコンでも人妻好きでもないということは分かったのだけれども、その子はどうするつもりなの?」

「どうするつもりかって言われましても……」

「そんなにも懐かれてるのよ?見捨てるなんてことはできないでしょう?」


 桜田先輩の言う通り、どうやらこの少女は俺のことが気に入ったのか、先から離れようとせずにべったりとくっついてきている。

 正確には、俺ではなくてコロッケのことを気に入っているような気もするけれども……。

それに、この子の話を聞く限りでは、どうやら親はいないらしいし……。

 だが、自分の判断がこの少女のこれからの運命を変えてしまうと思うと、少し荷が重い。


「なぁ、お前はこれからどうしたい?」


 少女は、考えているという姿勢を見せた。

ふふっ、頬を膨らませながら考え事するなんて、可愛らしいな。

——おっと、桜田先輩とリリーからの視線が痛い。

 しばらく考え、答えを出した少女は俺の手をちょんちょんとつついた。


「いっしょ」

「ん?」

「……いっしょにいたい」

「……ん゛ん゛っ!?」


 変な声が出てしまった。いや、なにこの子、可愛すぎる。ずっと養ってあげたい。

 この純粋無垢な瞳、どこかの誰かさんたちとは大違いだ!


「なによ、なんか文句あるの?」

「シューヤさん、その表情、なんだかちょっとムカつきます……」

「いやぁ、ごめんごめん。この子が可愛すぎてついつい。よし、決めた。俺はこの子を引き取る!……お前は本当にそれでいいのか?」

「おまえじゃないの。みぃってなまえなの」

「そっか、ミィは俺と一緒に来るか?」

「うんっ!いっしょにいく!」


 こうして、俺は少女を拾った。

 だが、拾い子として今後生活していくなのは色々問題があるらしく、俺たちは一つの問題に直面することとなった。


  ・  ・  ・


「それで、ミィの母親は誰にするか、という話なんだが……」


 もちろん、二人が譲り合って話が穏便に終わるだなんてことは思っていない。

 それに、現に二人はメチャクチャ争ってるしなぁ。


「ミィちゃんは私と修也くんの子どもよ!」

「いいえ、私とシューヤさんが何度も営んでできた子どもなんです!実は黙っていただけで、ミィちゃんは私たちの隠し子だったんです!」


 いつの間にか話が変な方向に進んでるし……。さて、このは放っておいて、ミィの様子を見に行こうか。流石に本人の前ではこんな話をできるわけもなく、リリーのお母さんに面倒を見てもらっていたのだが、寂しがってはいないだろうか。気づけば俺も父親気分だった。


「ミィ、いるかー?」

「しゅー!」


 扉を開けるとほぼ同時にミィは飛びついてきた。どうやらこの子は獣人族の中のネコの血をひいているらしく、とても運動能力が高いのだ。それで、この尻尾と耳だ。

白くて、ちっさくて、とても可愛らしい。

 奥でリリーのお母さんが、あらあらと微笑んでいるのが分かる。


「しゅー、おはなしおわったの?」

「んん、もう少しで終わるから待っててくれ。あと、俺の名前はシューじゃなくてシューヤだぞ」

「しゅーぁ!しゅーぁ!」

「そうそう、偉い、偉い」


 少し間違っているような気もするが、小さい子のしていることだ。それくらい大目に見てやろう。抱っこして頭を撫でてやっていると、ミィは大きなあくびをして眠りについてしまった。


「シューヤさんもすっかり立派なお父さんね」

「やめてくださいよ、お母さん……」

「これで本当に、私はあなたのお義母さんってワケね」

「いや、その冗談もやめてくださいよ……」


 この人も相変わらずだなぁ。冗談で言っているのか、本気で言っているのかが一切分からない……。厄介な相手だ。


「ふふふっ。それで、二人のどちらが母親になるのかは決まったのかしら?」

「いやぁ、それがずっと、言い争ってて……」


 そういえば、二人の声が聞こえないけどどうしたんだろうか?バテて休戦中とか?

いや、そんなことあるワケないよな……。

ドタドタと階段を降りてくる音。

止んだと思ったら、扉を勢いよく開けて二人は入ってきた。


「——修也くん!」

「あなたはどちらをお嫁さんにしたいですか!?」

「えーーーーっと、なんでそんな話に……?」


 俺がミィといる間になにがあったんだよ。

この二人はいつも予想の斜め上の行動をしてくるんだよな。良い意味でも、悪い意味でも。

今回のは断然、後者の方だが。


「別に今はそんな話は関係ないだろう?」

「そうだけれども、ミィちゃんの母親——つまり、修也くんの夫になるということよ!?だから、このことはあなたが自分で決めるべきだと思うの!」

「そうですよ!私たちはもう覚悟はできていますから!……それに、もし負けても、愛人という立場はそれはそれで燃える気がするので」


 誰かこの二人を止めてくれぇ……!

俺は必死に思考を巡らせた。

単純そうで難しいこの二択、どうしたものか……。

 もし桜田先輩を選んだとすると、それはすぐにバレてしまうだろう。ずっとあの大男たちと一緒にいたんだ。それに、委員長に殺されるかもしれない。

かと言ってリリーを選んだとしても、最近現れた俺との間にいつできたんだと疑われてしまう。しばらく唸り、やっと一つの答えにたどり着いた。


「そうだ!この子は親戚の子どもってことにしよう!それも、リリーのだ!」


 これならバレるはずがあるまい。

とても遠くに住んでいる親戚の子だと言えば、誰も深くは追究しようとは思わないだろう。

それに、二人のどちらかを選ばないといけないという条件を避けることができた。


「俺は、AとBという選択肢を与えられたらCを選ぶ男だ!これが最善の策だろう!」

「カッコよく言ってるだけで、それってただのヘタレじゃん」

「今回はサクラダさんに同意です。シューヤさんのヘタレ」

「……なっ!?」


 待ってくれ、そんな冷たい目で俺のことを見ないでくれ!これは仕方のないことだったんだぁぁぁ!!

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