第19話 なにも知らない子猫ちゃん1

 足取りがいつもよりも軽い。だが、懐はとっても重い!

 クエストを終えてそれなりに多額の報酬を得た俺たちは、街を散策していた。

 こんなにもウキウキしているのは久し振りかもしれないな。


「いやぁ、やっぱり難易度の高いクエストは報酬がいいんですねー!まてよ、これは時給換算したらどうなるんだ……?」

「ねぇ、修也くんってそんな子だったっけ……」


 必死に指折り数えていると、桜田先輩に呆れられてしまった。それなりに長い間社会人をやってきてたんだ。それくらい気になってしまうだろう。

 だが、それを聞いているリリーはなぜか不思議そうにしていた。


「ジキューってなんですか?」

「ん?リリーは知らないのか?」

「仕方ないわよ。この世界は、時間じゃなくて結果によって報酬が変わるんだから。時給なんてシステムは無くて当然なのよ」


 なるほど。確かにその通りかもしれない。

だが、それだと店も持てずに、低ランクのハンターの人たちはどうなってしまうんだ?

 やはり、どこの世界も格差はあるってことなのか。生物が生きていく上で、こういうものは生まれてしまうんだろうな。弱肉強食と同じ。

力のある者が頂点に立ち、そうでない者は地を這うことになる。十人十色。みんな違ってみんな良いとはよく言うが、これが原因で人々の間に差が生じててしまうんだろうな。


「コロッケ三つください」

「あいよー」


 ここのコロッケ本当に最高なんだよなー。

リリーのお母さんとの偽デートのときに食べたけど、忘れられなかったんだ。

 二人を待たせてるし、早く買って戻ってやらないと。渡された揚げたてのコロッケの入った袋を握りしめ、二人のもとへ行こうとしていると、ズボンの裾をクイクイと引っ張られ、立ち止まった。


「どうしたんだ?迷子なのか?」


 裾を引っ張っていた小さな女の子は、なにも反応しなかった。この子、耳があるけど、そういう種族なのか……?というか、先からずっとコロッケ見てるよな?


「もしかして、これ、食べたいのか?」


 コクコクと頭を縦に振った。


「じゃあほら、熱いから気をつけな」


 コロッケを一つ、袋から出して渡してやると、少女はその熱さに驚きながらもモグモグと食べ始めた。この子の服、穴だらけだし、汚れっぱなしだ。

 せっかくの綺麗な銀の髪も少しボサボサになってしまっている。親は一緒じゃないのか?

どれ、髪くらいは整えてやろう。

姪っ子の世話くらいはしたことがあるんだ。

よし、これくらいだったら軽く撫でるだけでなおっていくな。


「……ごちそさま」

「お、もう食べ終わったのか。まだいるか?」


 少女は首を左右に振った。

いっぱい食わないと大きくなれないぞ、だなんてことを言ってみたいところだが、強制するのはよくないしな。


「そうか。それなら早くパパやママのところに戻りな」

「いないの」

「ん?」

「ぱぱも、ままもいないの」

「——えっ!?」


 言葉を失った。

こんなにも幼い子に親がいないってどういうことなんだ?もしかしてこの世界では、こんなことは当たり前なのか?

だからこんな格好をしていたのか……。

 交番なんて無いよな?くそっ、どうすれば!


「もー、レディ二人待たせといてなにしてたのー?修也くんが遅刻するなんて珍しい……って、なによその女の子!」


 ちょうどいいところで桜田先輩とリリーがやってきた。よし、これでひとまずは安心だ。

異世界人の俺がどうこうするよりかは、この子も安心できるだろう。


「全然私たちに手を出してくれないと思ったら、シューヤさんはそういう趣味をお持ちだったんですか……!?」

「いや、そんなわけないだろ!桜田先輩も、そんな話は信じないでくださいよ!?俺はどっちかって言うと歳上が好きですから!」

「だから私のお母さんを!?」

「あー、もう!今はその話から離れてくれぇぇ!」


 少女は不思議そうに首を傾げた。

さて、ここからどうやって説明をしていこうか。 これから先も、俺の苦労は続きそうだ……。

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