第18話 なにも知らない新入社員

「そういえば、修也くんは魔法は使えないの?」

「なんですか、その男心くすぐるやつは」


 クエストを終え、街に帰る途中だった。

そこで桜田先輩はとても気になることを言い出したのだ。俺って普通の人間なのに魔法を使えるのか?逆に、桜田先輩は魔法を使えるってことなのか?


「そうね……例えば、こんなものとか」


 彼女は立ち止まり、近くにいたスライムたちにむけて両手を出して構えた。


「ファイヤー・ボール!」


 急に彼女の手元が光り出したかと思えば、謎の紋様が浮かび出て、放たれた火の玉がスライムたちを燃やし尽くした。

 そんな光景に俺は言葉を失った。

 俺と同じ世界にいたはずの人が、自分の知っている常識とは全く違うことをしていて驚いたのだ。こんなことはあり得ないはずだ。


「いつの間にか使えるようになるものなのよ」

「へ、へぇ、そうなんですか……」

「試してみれば?」

「そう簡単にできるものなんですかね」

「大切なのは挑戦よ」


 桜田先輩に言われた通りだと思った。

こんなところにまで来て、いちいちビビってたら意味がねぇ!挑戦あるのみだ!

 彼女のやっていたように俺は両手を構え、力を込めた。


「ファイヤー・ボール!!」


 手のひらがとても熱くなり、巨大な火の玉が打ち出された!!!


——ということが起こるはずもなく、なにも反応はなかった。


「はぁ、不発か……」

「最初は誰もそんなもんよ」

「そうですか……」


 こういうのって気づけばできるようになってるものなのか?手のひらを眺めて考えていると、リリーが突然声をあげた。


「——な、なんですかこれ!」


 なにもなかったはずの地面から火柱が立ち、それはリリーの体を覆っていた。

このままだと危ない!!

俺はなにも考えずにその中に飛び込み、彼女を救い出した。


「大丈夫か、リリー!」

「は、はい。不思議と熱くなかったんですよ、あの炎。でも、服は焦げちゃったかもしれませんね——って、あれ!?」


 俺は慌てて目を逸らした。

おいおい、服だけ燃やし尽くされてるとかどういうスケベ魔法なんだよ!…それにしても、綺麗な肌だったな。白くてツヤがあった……。

でも、いったい誰の仕業なんだ。


「ねぇ、修也くん。もう一度魔法を試してみてくれないかしら?」

「またですか?さっきやったじゃないですか」

「いいからはやくしなさい!」

「は、はい!」


 桜田先輩、いったいどうしちゃったんだ?

そういう日なのか……?

 しぶしぶ再び構え、名前を叫ぶ。


「ファイヤー・ボール!」


……やはり不発のようだ。


「何回やっても、火の玉なんて出そうにありませんよ。——って、なんで脱いでるんですか!やっぱり先輩って痴女だったんですか!?」


 この人は、俺が魔法を試そうと必死になってる裏で脱いでたのか!?あの短時間で!?

というか、裸で腕組んでそんな堂々と立たないでくださいよ!

 うぅ、目のやり場に困る……。左を見ても楽園、右を見ても楽園。でも見てるのがバレたら地獄なんだろうな……。


「あのね、修也くん。あなたの魔法、間違っているわ」

「確かに、不発ですけれども、間違っているってどういう意味ですか?」

「不発ではないわ。現に、私とリリーちゃんはあなたの魔法を受けているもの」

「——へ?」

「あなたの魔法が、変わった形式で発動して、私たちの服を焼き尽くしたのよ」

「こんなところで脱がすだなんて、シューヤさんは大胆なんですね…っ」

「いや、違うぞ!?別に変な意味はないからな!」


 もしかして俺は魔法の才能がないのか!?

火の玉を出そうとしただけなのに、どうして女の子二人を脱がすんだよ、俺は!


「そう落ち込まないで、修也くん。これは上手く使いこなせばとても良くなると思うわ。んー、ファイヤー・ウォールと言ったところかしらね」

「ファイヤー・ウォール!?……なかなかいい響きだ。かっこいい!」

「でも、これからは私たちの近くでは使わないでちょうだい。こんな平原で全裸だなんて最悪よ。今回はアイテムバックの中にローブがあったからいいけれども、毎回用意しているわけにはいかないからね」

「はい、大変申し訳ございませんでした……」


 ここでも土下座をかました。なんだか新入社員の気分だ。失敗ばかりでとても悲しくなるやつ。

 そんな俺を、リリーがそっと慰めてくれる。


「シューヤさん、気にしないでください。失敗は誰にでもあることなんですから。それに、シューヤさんが外でするのがお好きなんでしたら、そういうプレイがお好きなんでしたら、私、頑張りますから……!」

「いや、なんか間違えてるよね!?」


 一生、この子たちの近くではこの魔法は使わないようにしよう。そう、強く誓った。

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